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第11話 八つ当たり

「ということで聞こえたかね巨人君。この男を倒すことができれば、解放しようじゃないか」

「ハッハッハッ! ソンナモノ簡単ナコトダ!!」


 拘束されていた鎖の一部が魔法によって解除され、巨人が両手をバシンバシンと叩いて戦う姿勢を見せる。


「……その前に俺からも一つだけ、改めて貴様に聞こう」


 そんな巨人を前にして、俺は殺してしまう前に問いただしておきたいことが一つだけあった。


「――お前は“フェルテ村”の何を知っているんだ?」

「ハァ? ……ハッハッハッ! 巨人族オレタチノ間デハイイ酒ノ肴ダ!」


 ……酒の肴?


「俺モヤッテミタカッタゼ! オ前ミタイナ虫ケラ共ヲ、踏ミ潰シテ回ルノヲ!」

「……そうか」


 どうやら俺の故郷で起こったことは、巨人族の間では有名な話となっているらしい。

 元々どちらの国についているというわけでもない辺境の地が、突然紛争に巻き込まれたということ。そんな中で巨人族の一団が、「通り道だから」という理由だけで村を踏み歩いていったことを。


「アノ虫ヲ潰ス感覚、タマラナイラシイナァ!?」

「…………」


 今更怨みつらみを吐くわけではない。紛争に巻き込まれて一つの街が消失するなど、戦争中ではよくあることだ。だからこそ俺も残酷さを割り切って、生きていく為に戦争屋に身を投じてきた。

 だがこうして真っ向から言われたことまで、我慢できる程に俺は強くない。


「……だったら今度は俺が踏み潰す番だ」


 身体能力にバフを転移。素早く巨人の体を駆け上り、頭上に跳んで足を振り上げる。


「――潰れろ」


 ――満面の笑みを浮かべるギルドレッドの目に映っているのは、強制的に頭を垂れさせられた巨人の姿だった。

 その頭の頂点には、俺の足型がくっきりとつけられている。


「ブグァッ!!」

「……確かに踏み潰すのは楽しいかもしれないな」


 今の一撃でバフに回していた分の魔力はすべて使い切った。だがこいつが立ち上がるというのであれば、何度でも踏みにじってやれる。


「ウ……ゴ……」

「ひとまず戦闘不能にまでは追い込んだ。殺せと言われたら殺すが」

「なるほど……確かに面白い! これは当然他人にもバフをかけることができるのだろう?」

「どちらかというとそちらの方が魔法の制御が楽だ」


 そういってギルドレッドの方を振り返ると、既に満足しているのか階段を一歩一歩と降りて、巨人の前に立つ。


「……さて、もう君は用済みだ」

「グゴ……ガ――」


 ――俺の目には一瞬の出来事でしかなかった。ギルドレッドの腕が一瞬消えたかのように見えたと思ったら、次の瞬間には巨人の首が肩から離れ、転がっている。


「……えっ?」

「さて、死体処理だけは頼むよ。血まで拭き取る暇はないからね」


 ミラーは絶句したまま、ギルドレッドの部下が死体処理するのをじっと見ていた。というより、あまりの光景に思考停止している様子。


「……随分と早い抜剣だな」

「ああ。君達のように魔法に長けてはいないのだが、この抜刀法だけはちょっと自信があってね」


 ちょっとで到達できるような練度ではない。かなりの年月を剣に費やしたとしても、あそこまでの技を会得できるとは限らない。俺が身体能力に全力でバフをかけて、ようやく対等に並ぶくらいだろうか。


「それよりちょっと済まないね。これからまた別の客人を招き入れているんだ」


 俺は退出しようとしたが、いてもらって構わないとギルドレッドはいう。それはいてもらって構わないというより。いてもらった方が都合がいいといった口調に思えた。

 そして指示されたとおり死体だけが片付けられ、床に血が飛び散ったままの謁見の間に一人の男が姿を現す。


「……貴族か?」

「そのようですね……」


 身につけているものからしてどこかの土地を治めている貴族のように推理できる。しかしその顔色はというと、扉に足を踏み入れた途端に、顔色が真っ青になっていく。


「わざわざ遠くから呼び出してすまないね。客人を待たせるわけにもいかなかったから、最低限の処理だけしかしていないのだが」

「こ、ここで何かあったのかね……?」


 明らかに異様な光景。血にまみれた床と、返り血を浴びても表情一つ崩さずに笑顔で対応する国父。ギルドレッドの狙いが読めてきた。


「何、ちょっと反逆者をここで処罰したばかりでね」

「は、反逆者は確かに処罰しなければならないな」


 ギルドレッドのような軍人や俺のような戦争屋と違って、貴族は血を知らない。人の生き死にからあまりにも離れている。

 そんな人間に敢えて血を見せるということ。それはどんな脅迫にも勝る脅しとなる。


「それで、以前使者を通してだがあまりいい返事を貰えなかったのだがね。折角だからその理由を本人から直接聞こうと思ってね」

「あっ……ああ! その件なら解決したよ! 是非とも協力しよう!」

「おや? 君の使者の雰囲気からしてかなり難色を示しているかのように思っていたのだが――」

「そ、それは失礼なことをした。うまく伝えられなかったのだろう、だが尽力することにするよ!」


 国民から多くの支持を得られるほどの指導力。これまでエーニアに君臨していた皇帝を殺したその実力。

 そしてなにより目の前で証明された、圧倒的なまでの暴力と実行力。それら全てを理解できれば、自分が誰を相手に交渉を仕掛けようとしていたのか、その愚かさを思い知ることができる。


「是非とも協力させてくれ!」

「ああ、それはありがたいことだ。さて、彼を送り届けてくれないか。丁重にな」

「ハッ!」


 貴族と思わしき男は軍所属の人間に連れられて、その場を後にする。本来であれば主張するはずだったことを全て飲み込んで、黙りこくったまま。


「フフフ、ようやくあの男も折れてくれたようだ」


 あくまで紳士的に。だが一皮むけば猛獣がそこに潜んでいる。そんな危険な男の下に俺はつこうとしている。


「……そうだった! それで君の所属先についてだが――」

「いきなり呼び出しとは、一体何語とかな? 総統閣下殿」


 貴族と入れ替わるようにして姿を現したのは、軍服を着た小太りの男だった。

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