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『04』/15


「先ずは、謝罪を――此処まで危険な状態に成っているとは把握出来ていなかった」

「いや、半分、突っ込んでった結果なんでね……」


 いやもう、半分で効かないけどね、と思いつつ、乾いた笑いで誤魔化すカティ。


「というよりも、本来の依頼以上に踏み込んでしまった感があるんで、ほぼ自業自得ですけどね」


 言うな、悪魔の癖にイイ子ぶるなこの、というカティの表情を気に留めないのか、リーアムは首を振る。


「関連事業の施設で、得体の知れない研究が動いて居たら、怪しんで当然だ。

 判断そのものは間違っていなかったと思う」

「まあ、『埃』自体は出たけど……肝心の――名前なんだっけ?」

「ラウールか。証言的には『管理者に一任している為、自分の知る所はほぼ無い』、という話だ。

 『直接監視区域』にした経緯にも、不審な部分は無かった。

 責を取って引く事には成ったが、何らかの訴追というのは、きびしいな」

「あんなあからさまに不審な事やってたのにか?」

「そう言いなさんなよ、イゾウさん。どうせそんな手合いなら、『安全策』は打ってるし」


 半笑いのイゾウに、茶を啜りながら声を掛けるカティ――リーアムも頷く。


「ラウールの名は出て来るが、名義だけの様な状態でな。

 実際の運営を指揮していたのは、ゲナコフ候だった、と」

「ゲナコフって、あれだよな――バーフェルブールの南東の方の――

 地縁の類も無いだろう場所に、なんで出て来るんだ?」

「そこは逆に、『一位エノ』陣営での内部事情らしいが――

 肝心の彼も行方不明、色々と承認しただろう現地の領主、マハブランの当主も行方不明、ではな」

「――まだ死体上がらねえのか?」


 イゾウの問いに、リーアムは苦々しい面持ちで頷いた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 宴席が『竜』に襲撃を受けた、というのは、最早周知の事実になっていた。

 実際に襲われたのか、何に襲われたのかは問題に成らない。

 『問題』があるとすれば、それは、『貴族の面子が潰された』という事。


「気の早い連中は、軍を編成して全域の捜索をしろって話に成ってるらしいですよ。

 気の早くない人にも、『選帝』控える中で、自分達の権威が揺れるのは不味い、と考える連中も居ると」

「言いたい事は分かる。だが、先ずは領内の安定を、と伝えてくれ。調査は随時行っている、と」

「――『死体が上がった訳でもない内から、領主気取りか』なんて言ってる人は……」

「処罰だ処分だはしなくて良い、後でしっかり話し合いたい、とだけ伝えてくれ」


 一つ一つ解決するシロウの姿に、レアッドは頷く。


「中々どうして、領主してるじゃないですか」

「やめてくれ、こんなん嫌だ……俺はそんなんじゃあない……」

「分かりますけど、状況が状況なので……」

「タスクとリュートは?」

「まだ戻りませんね。兵力を借り受けてくる、って部分が恐らくネックです」


 そう、だな、とシロウも思う。

 状況が状況とは言え、そう軽々に部隊を貸してくれるはずも無い。

 例え『一位』から、大規模な獣魔の群れの発生を知らされても、だ。


「『一位』の軍勢と、一部の民だけが見た、大規模な一群、な」

「……『駐留』の為の『虚報』、って考える事も出来ますが、失礼ながら――」

「分かってる。マハブランに駐留する必要性が無い。

 幾らなんでも、こんな場所に駐留する必要が無いのは、俺でも分かる」


 窓の外は、雪が降っている。

 山脈一つ越えるだけで、雪の降り積もり方が全く違うのだ、敢えてこちら側に駐留する必要性は無いに等しい。

 ――『代行』である自分がいう事じゃあないが――

 タスクの言うとおり、民を引き連れて避難をし、別の地で冬越しを試みる方がまだ良いかもしれない。

 それでマハブランの権威が地に落ちようが、そんな事はどうでもいい。

 獣魔すら凍える筈の冬に、獣魔の襲撃にも怯えなくてはいけない状況等、民にとって良いはずが無いし――

 その分、民心が荒む事にも成る――マハブランの領民の性格なら、そうでも無いが――


「それでもこの地に踏み止まるべきというのは、『一位』の意向か?」

「――違うでしょうね。どちらかと言えば、『貴族』連中の意向でしょう。

 『貴族』にとって領地というのは、『権力を委託された象徴』です。それを守れないというのは――」

「貴族自体の威光にケチがつきかねない」


 シロウの言葉に、レアッドは深々と頷く。


「自分たちが馬鹿にしてたはずの『田舎者』の動向に、貴族全体の権威が委ねられてる――

 良い面の皮、と言いたくはありますが――

 陛下から委ねられた、『土地』と『家』を守れない者が出たとして――

 それを手助けもせずに居ると成ると、『陛下』の心象が悪いですし」

「そんなのが怖いなら、蔑ろにせずに居りゃ良かっただろうに……」

「中央の貴族なんて、そんなもんですよ――

 足を引っ張り合ってるのは確かですが、

 蹴落とし合いと言うよりは、平均値に治まろうとしてる連中ばかりです。

 遥か高みに輝く者は仰ぎ見る――仰ぎ見る事が出来る。

 でも、自分たちの中からちょっとでも抜きん出た者が現れたりするのは、逆に許さない、といいますか……」


 シロウにとっては、そこら辺の『貴族感情』的なモノはさっぱりだ。

 嫁・エレーナにとっても、摩訶不思議であるらしい。

 変な話だが、ここで『貴族』と呼んで良い人間は、入り婿でやって来たエレーナの父親位のモノで――

 その他の『親族』を見ても、『武人』とか『族長』とか、そう言った位階の感じを受ける。

 なんと言うか――良くも悪くも、シンプルなのだ。

 単に『強い』と言うだけで、『婿』にすら成りたての自分がこうして代理をしていられる程度には。


 それに対して、貴族の込み入った関係性と精神性と来たら……

 ……向こうでの学校での女性陣があんな感じと言えばそうだったな、と、ボウっと考える。


「しかし……何れにしても、酷く厄介な状況です。

 ――ユキヤさんに関する事が漏れなかった事は、不幸中の幸いといえますが」

「……そうだな――どうして、ああなったと思う?」

「どうもこうも……話を聞けば、何らかの病にうなされた、としか」

「――『邪化症』、か。『三位セレ』の側近の話だけが根拠じゃなあ……」


 ――あの一瞬――自分も暴走したが――

 ……まるで、熱にうなされて、本音が出たかの様な――


「……迷惑の掛け通しで、ブチ切れられて、謝りも出来ない――なんて、勘弁してくれよ……」


 姿を消した友の事を思い、溜め息を吐くシロウ。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――傷が癒えたとは言え、あまりお勧めしませんね」

「……世話に成りっぱなしと言う訳にもいかない。それに――」

「どこか一勢力に匿われているのも良くない、と言うのも分かりますが」


 ローブを目深に被った相手に『三位』は呟き、ユートはそれを止める。


「見つけたのは偶然、それとは知らずに癒した、までは話が立つけど、それ以上は無理がある。

 ――そんなのは、この人の方が良く分かってる」

「けど、ユー君……」

「……ヴァレリーク殿のいう通りだ。敵が何処の誰とも知らない内に、変な味方を作るものじゃない。

 ――すまないが、此方を気に掛けるなら、シロウを気にかけてやってくれ――

 ……どの面下げて、何を頼んでいる、って話でもあるんだが……」


 苦笑いの様な微笑を浮かべ、歩き去ろうとするその人影に、ユートは声を掛ける。


「東方沿岸の方に、とある小さな村がある――辺鄙な村でね。だが、丁度教会に人手が足りない。

 聖職の権を持ってるかどうかなんて気にする様な人たちでもないし、話は通しておくから行ってみると良い」

「……感謝する」


 ローブを払って、ユキヤは一礼し、再び歩き出していった。


「――結局匿ってるじゃないですか?」

「……一時傷と病を癒せれば、後は好きに動くでしょうよ、あの人は」

「それだけですか?」

「――教会に抱えるには、リスキー過ぎるでしょう。あの人の心、今は『報復』しかないですし」


 ――時間が必要なんだ、ああ言う時には――そう、頭を掻くユートだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「漏れ聞こえる状況は、あまりよろしくない事ばかり」

「そうだな」


 呉用の呟きに、『二位デュラ』は答える。


「――どう踏む、呉用殿。今回の一件」

「――肝は、『分断』にあるように思えますな」

「『異天』を分断して、得するのは誰だ?」

「『異天』に限らないかと。あらゆる繋がりに楔を入れた、と見れます。

 ――極端な暴論に成りますが――或いは、計画者自身の陣営にすら――」

「――惜しい」


 デュラの唐突な呟きに、呉用がそちらを見ると、デュラはクツクツと笑っている。


「これほどの見識の持ち主を、『四位フェル』に渡してしまうとは――

 味方に出来ずとも、敵に回す等、どこの陣営か知らんが、馬鹿をやったものだよ」

「……『一位』の陣営とお考えなのでは?」

「――皆が考える所のそれでは無いがな」


 デュラの言葉に、呉用は無言を返す。

 その言葉に返すと言う事は――つまり――


「何れ分かるさ。どの道、貴族陣営だったとしても、お前を取れなかったのは悪手だったと言う事だ。

 無論、俺にとっても悪手だった」

「花栄が居れば、戦に負ける事は有りませんよ」


 戦で済めばいいが、と呟く『二位』に、呉用は無言だった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ゴドンウェイから、南へと向かう馬車の中――


「――ギルド全体で支援は出来ないが、俺の息の掛かる所では、出来るだけの事はしようと思う」


 そう呟くリーアムに、ベルは訝しげな視線を送る。


「――何故だ?」

「ギルド内部が、かなりの割合でよろしくない事に加担していると踏んだ。

 内容は兎も角も、目の届かない所では、かなり大規模に腐敗が進んでいる」

「――それは、前からでは?」

「……君に言われると、耳が痛いな」

「ああ、すいません!!」


 ナタリーの言葉にそう呟くリーアムだが、その表情は笑顔だ。


「――小銭を稼ぐ小悪党ならいいんだが、どこかの走狗になっている者が多過ぎる。

 しかも、当人たちは意図を把握しきれて居らず、その頭が誰か分からないと来ている」

「――その為に『四位』勢力に接近、というのは理解出来んが?」

「一番、分かりやすい。それが理由ですよ」


 リーアムの言葉に、ベルはふっと笑う。


「――というか、何時から気がついていたんですか? 私が――」

「声位覚えているさ。声色を使ったとしても、な――まして、君の声は独特だからな」

「……そうですか?」

「知らんよ」


 馬車は、三人を乗せ、南へと走る。


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