『03』/REm/02
「我々は元々、様々な目的を与えられ、地に降り立ちました」
「目的――ですか」
相手の言葉に、シオが返す。
「はい。大局的には一つの目的の為ではあるのですが――
その手段というか道筋が、様々に模索された、と考えて頂いていいでしょう――
――年月は、数える事もあたわぬ往古、と――」
「――途方も無い、話ですね」
「さて――移民の類とどう違うのかは分かりませんが」
うん――確かに、出る感情が薄いな、この人たち。
「――大目的は、何だったんですか?」
「これもまた、非常に大雑把にしか伝わっていないのです。
曰く――『世を良くしよう』――」
「……確かに、その……」
「忌憚無く言っていただいて結構ですよ、『大雑把過ぎる』とか『大目的過ぎる』とか。
その様な事しか伝わらなんだ故に――十年程前の、あのような事が起きた、とも言えるのですから」
そう言って、相手は目を伏せる――ぱたんぱたん
「――そんな中で、我等の祖先が模索したのは、『宗教』。
大陸で『聖樹教』と呼ばれているモノの、もっと原初的な事を始まりとし――
――世界各地の人々の信ずるものとすり合わせ――」
――ぱたんぱたん――ぱったんぱったん
「……あの、さ」
「――なんでしょうか?」
「『尻尾』がはしゃぎ過ぎ――後で聞くから、とりあえず遊んでおいで」
「――はいっ!!」
だーっっっ!! うっひょう!! 『機神』さんだぁぁぁぁ!!
ぴょーん、と、正にすっ飛んでいく、『族長』――
「――とんだ『ネバーランド』じゃねえか」
居るの、『猫とエルフの混血』だけどよ。ああ、そりゃあ感情でねえよ、中々。
・ ・ ・ ・ ・ ・
そこに居たのは、10人に満たない『子供』達だった。
――いや、俺も子供だがよ、見てくれは。
――いや、エルフ血統だから、正確には『子供』じゃないんだろうけど。
「こんなオチが用意されてるとは――」
<タスケテー>
「…………」
すまぬ、すまぬ、ゲンちゃん――もうちょっと遊んであげて。
「――どういう事なんだ? こりゃ……」
「話をもうちょい聞いて、まとめてからじゃないと何とも。
――逆に、イゾウ。お前来た時には、『大人』は?」
「――普通に居たと思ったんだがなあ。無我夢中で切り伏せてただけだったから」
イゾウが来たのが約10年前で、現在は『子供』だけ――ね。
「――ジン。僕、凄い嫌な想像しちゃったんだけど」
「……奇遇だな……俺もだ」
というか、俺自身、そんな事を考え付ける自分にゾッとするわ。
「――というか、そろそろ何とかしないと、ゲンちゃんがいじけるよ」
「……どうしろってんだよ。火の点いた遊び心に、何をしろと」
むしろ、貴方が何とかしなさいよ、シャチョー。
良くも悪くも、人の注目集めるのは十八番でしょうに。
「――むむむ……あ、そうだ。アパム、出せる?」
「何出るか分からないけどな……やってみるか」
そう言うと、アパム達は手を握って円陣を組んだ。
「――前も言ったけど、それ、要るのか?」
「験担ぎ験担ぎ――食えるもん来い、食えるもん!!」
「変なもん出ませんように。変なもん出ませんように」
「――おし、やるぞ」
アパムが一言そういうと――地面と、その上の中空に、光の円が出始める。
――シャカッ――シャカッ
何か、錠前が動く様な音を響かせながら、その陣は回転し――
――とさっ ドサッ ドサッ
……何時見ても訳分からん光景だ。
なんで中空から『コンビニのパン』が落ちてくるんだ。
「お、おっおっおー――当たりじゃん。『ミルク蒸しパン』」
「ちょ、今このデザート復刻してんの!?」
「俺に聞くなよ、分かんないって――」
……全部、『見切り』なんだけどね。
お前の店のゴミ箱、どうなってんの、アパム。いや、お前の店だけじゃないんだったか。
「おーい、みんなー。美味いもの――『食・わ・な・い・か』?」
「やめろ、その言い方はやめろ」
「相変わらず、たまにバグるな、この元『アイドル』……」
シャチョーがバグってるのは毎度だし、君らのその能力も大概バグってるんだが……
まあ――原理とか、魔女っ子のアビーすら『知るかあんな反則技!!』って切れるレベルの事だしな。
『そういうモノ』と捉えるしかあるまい。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「う、うまっ!! うっうっうまうまあまーい!!」
ええ……?(困惑) なんか、変なもん混じってるんだが、この『族長』娘。
「――っはっ、失礼」
「いや、良いんだけど」
電波かな? 硬くて芝居掛かった感じよりは良いけど。
「――とりあえず、そちらの事情は分かりました。
こちらでは入らない様にしていたので、中はさっぱり分かりませんが――」
「調査と、国への報告もやっとくよ。それは良いんだが――」
「――ああ、『大人』が居ない事の疑問ですか?
んー……多分なんですが、『何処かの勢力に消されました』ね」
もぐもぐとジャムパン食いながら言う内容かよ。
……てか、想像、当たりかよ。
「……多分、とは?」
「私達直接は見てないんです。村で何か異変が起きた、と思って、森へ逃げたので」
「火事か?」
「いえ。血の匂いですね――森の方で遊んでいたところに、濃密な匂いがして、急いで回れ右しまして。
十年前ので空いた穴に作った、秘密基地で二日ほど隠れてたんですよ。
んで戻ったら、誰も居なくなってて、痕跡の掃除も終わってて――それが大体、七年ちょっと前ですね」
――まーたその辺りかよ。
「痕跡の掃除って……」
「ええまあ、『血痕』とか拭いたんでしょうけど、時間なかったのか、残る所は残ってましたし」
ヒク位なら聞くなよ、シャチョー。
「――というか、その件に関しては、気にしないで下さい。
それ以前から、『疫病』やらなにやらで、人口半分まで減ってましたし。
そこを付け込まれたんですかねえ――大陸から来た方の意見を、そのまま取り入れちゃった様で。
変な話に噛んだら、後々が危ない事ぐらいは分かりそうなモンですが――」
「――『樹の巫女』、か」
「こちらに『庭師』の血統が居れば、そんなのさして意味無いのは分かったんでしょうけど」
――『庭師』、ね。
「――たまに聞くんだが、その『庭師』って、なんだ?」
「あー、なんというか――私達には『世界樹』をお世話してた人達、とだけ伝わってますね。
扱いをしっかりと心得ていた人達だったらしいんですけど、まあそういう重要な事って――」
「――一子相伝の専門家、て訳か」
概ね、予想通りの回答だな。
「そうですね。でもまあ、『地』のエルフの大概はそんな感じの啓蒙集団だったらしいです――
『上』のエルフは元々、それを総括してた、上位集団、なんだと思います」
「――なんか、回答が薄ぼんやりしてるように思うんだが」
クラマ、君って奴はどうしてそう、言葉を選ばんのだ。
「ああ、その――直接、上の世代に聞いた訳じゃないんですよ。
『事は見て学べ』とかいうのがうちらの上の世代でして――」
「うわ、なにそのTHE職人」
「『是とは言わぬが、否であらば言おう』、なんてのも有りますね。
――要するに、現在のこういった状況の様な――
『唐突な断絶』には非常に弱いシステムに頼って来た訳なんですよね……エライ苦労しましたよ、この十年」
「……なんか、タコのおっちゃんの言ってる事と、ちがくねえか?」
「閉鎖された集団が感じてる事と、それを外から見る者だと、全然違うだろ……」
「――噂の内容の詳細までは不明ですけど、多分に上の世代の風聞でしょうね、それ」
……なんというか。
こいつら、あれだな、カルトの子供達、的な……妙な確り感含めて……
「――しかし、閉鎖集団の中で育った割りに、お前ら普通だな」
「あっはっは。無駄に醒めてるとこはありますからね、残った私達。村の中でも、はみだし者だったんですよ」
「――というか、なんだか、自分の親世代に対して、随分と冷たい態度じゃね?」
そういう事言わなくて良いって、イゾウ。
「――うーん。なんでしょう。
この十年で、しっかりと『世界』を学んだのが、私たちの世代、と言いますか。
――限られた情報の中で、それっぽい正義に頼ってる場合じゃなかったので――
職掌がどうの言ってる場合じゃない、って、親世代は『禁書』的に扱っていたモノも読み漁りましたしねぇ」
「……『禁書』」
どんな不都合な真実が書かれてるんだ――
「ああ、見ますか?」
「興味は惹かれるが、後で良い」
自分、先ずはこのモジャ男の自分探しに付き合わにゃならんので――
・ ・ ・ ・ ・ ・
案内された先には、『空虚の野』ダンジョンの縦穴とよく似た構造体があった――
つか、構造ほぼ同じだろ、これ、なんで気がつかないんだ、イゾウ。
「――こんな、だったか」
「記憶と一致しないのも仕方ないかと思いますよ?
本当はここに『第三柱』が立ってて、連絡通路とか掛かってましたし」
「あー、そういやそんな構造だったか」
――待って、それって、ベル・リガのあれも、元は同じ様なものだって事か?
「……さて、来たは良いが、何したもんかな」
「……おい、お前」
「――実際、何も考えて無かったんだよな、ははは」
ははは、じゃねえよ。
「――先ずは、潜る、か」
「……降りれるの、これ」
御尤もです、シオさんや――垂直の円筒だもんな。
まあ、例のあれと同じなら――
「一応、大回りには成りますけど、底までは降りれますよ?
ちょっと整備行き届いてないので、途中の通路寸断してるかもしれませんが」
……うん――その地図借りて良いかな?
・ ・ ・ ・ ・ ・
自分が何を求めているとも付かないまま――イゾウは階段を下っている。
心持ち足取りが重いのは、矢張り心境が重いからだろうか。
= = = = = =
……実際の所、先日のあれ――自分自身、あそこまで意識がトぶとは思って居なかった。
昔の様に声が聞こえるでなく、乗っ取られる様な事も『こちら』では基本なかった。
――まあ、『乗っ取られる』と言ってしまうのも、少し違う気もするが――
……兎に角――この『刀』の例のアレよりは、巧くこなせると思ったのだ。
だが、実際は、ああだ。
……ジンに言ったとおり――自分が何処か慄いていた結果ではあるが――
――同時に、何かが欠けているとも感じた。
何か。何かが――
……実際の所――分かっては、居るのだが――
= = = = = =
今の自分が始まった場所、そこに来れば何か分かるのでは無いか、と思ってやってきたのだが――
実際は、見た限りさしたるモノはなく――自分を責める者達すら居なかった。
「――静かなもんだな」
それどころか、ダンジョンには付き物といって良い筈の獣魔の類すら居ない。
「――何もかもが、手遅れであるのか、なんて顔をしてますね」
不意に、傍を歩いていた現地の少女――『族長』とか呼ばれている奴が話し掛けて来た。
「……ダンジョンで、獣魔すら出なくなる状況ってのは、俺の経験上、余り良くねえんだよ」
「ほうほう、それは?」
「――定期的に冒険者が掃討してる場合――これなら在り難いが、当然これは、無い。
お前らが掃討したりしに入ってるなら話しは別だが――」
「そもそも入りたくないですよ、そんなの居るなら。用が在った訳でも無いですし。
それに、『大天井』は系統違うんで無理でしたけど、大雑把に分かる入り口は全部閉めましたしね」
んじゃ、まあ、悪い方の想定になるな――と前置きする。
「同種の奴が多く、その中で『長』が出現した場合。これはまあ、たまに在るな。
群れで行動する奴に多く、そして、そう言った場合は『斥候』がうろうろしてるのが多い。
だがこれも無い――感じとして階層三つは下りてきてるが、出会してないしな。
同じ理由で、『デカイ・強い』のが一匹ってのも除外かな――何度か『剣気』発してみてるが、無反応だし」
「……あの、さっきから耳がキーンってするの、ひょっとしてそのせいですか?」
「良く分かるな――まあ、獣人ってそこら辺、鋭敏だから不思議でも無いが」
となると――
「……ある種、一番厄介な想定だな」
「はい?」
「……獣魔も出て来ない位、『大地が枯れている』」
……つまりそれは――解らぬなりにも、調べた事から言えば――
「あー、ありそうですね――」
――反応が軽過ぎて、頬を掻くイゾウ。
「――その、お前さん、俺を恨んでないのか?」
「恨む――って『第三柱』の崩壊、ですか? そんなの、何時かは起きてた事ですからねえ」
その言葉に、イゾウは相手を見つめる――相手もこちらを見ている。
――嘘は別に無い。強がっているでも。
獣人側の血だろう、猫の様な瞳孔で、真っ直ぐにこちらを見ている。
「ま、いきましょう――」
「――相応に見えない相手ってのは、なんともやり辛いもんだな」
「いやいや、そちらのお二人程じゃないですよ?」
「――ああ、まあ、あの二人はな……」
そんな事を言いながら、不意にイゾウは――『昔』を思い出していた。




