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『03』/interlude04


「虎の尾を踏んだかもしれない」


 その冒険者は、そんな事を呟いた。


「知らずに置いた方が、平穏に居られるモノに引っ掛かったかもしれない」


 普段のその男には無いほどの緊張を滲ませながら。


「――エン。忠告だ。お前の立場的に、無理な可能性が高いだろうが――

 あまり、このダンジョンには、関わるな」


 その言葉を発した次の日に、ヘルマン=ダスバックは、姿を消したのだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 『空虚の野ベル・リガ』ダンジョン――第七層。


「――こんな事があるのか――」

「まあ、実際問題、あるんだから――困りモノだよな」

「困りもの、なんて話じゃないぞ、エン=ロンヴォル。

 『エイバロニア』の至近にあるダンジョンが、こんな所に繋がっているなど――」


 一緒に潜っている貴族の次男坊――ビーギスが、うめき声を上げる。


「――間違いなく、ギルドの簡易調査の置き票だ。

 『先行調査』の進捗は、まだ『第五層』までの筈じゃなかったのか?」


 言いながら、もう一人の貴族子弟――ウェルジにビーギスが向く。


「――兄貴から聞いてる話ではそうだ。

 踏破状況とか、瓦礫の撤去やらで、『視察調査』はもう少し上までで止めてたらしいが――

 つっても、冒険者集めて探索継続してる可能性はあるし――『陛下』の直臣部隊でも動いてる可能性もある」

「――皇帝陛下の、ではないと思うぞ」


 エン――『堅』の『異天』ツブラは、置き票の字を見て呟く。

 そこに記されている文字は、見慣れた筆跡だ。

 そして――日付自体は、そこそこの日数が経っている。


「――俺の師匠の筆跡だ」

「――ダスバック殿は、死んだんじゃなかったのか?」

「行方不明、ってだけで、生死は不明なんだけどな」


 ――まあ。姿を消してからの日数を考えるに、碌な事には成ってないだろうが。

 ……あんな事言った後でのアレだから、寝覚めの悪い事……

 そんな風な考えを一旦保留し、ツブラは二人に振り返る。


「――これが、起きている事だ。

 フミの言った事、ユキヤの言った事、理解出来たか?」

「……受け容れざるを得ないだろう。

 『誰とも知れない勢力が、背後で暗躍している』なんて、それこそ『謀論』の類と思ったが」

「確かにこれは、『一位』だ『二位』だと争ってる場合ではないな」


 床に残る、明らかに『一人が一度歩いた』ものではない足跡に、それぞれ呻く。

 ――こんなのを利用されて、『エイバロニア』に侵攻されたら――

 勿論、出て来た『獣魔』を考えるに簡単では無いが、と――


「考え方が柔らかくて助かる――さて、一旦――」


 ――不意に奔った殺気に、ツブラは二人を突き飛ばした。


 ――ズアッ!! ガンッ!!


 その立っていた場所を、鋭い一撃が舐め――その刃を蹴るツブラ。


「……いきなり、なんだい。誰か知らんけど」


 そこには、覆面をした男が立っていた。

 パッと見に分かるのは、二刀流という事ぐらいだが――相当、やる。


「飛び込め!!」


 事前によく言い含めておいた為か、貴族の子弟二人は、躊躇いも無く『泉』へと飛び込んだ――

 庇いながら戦える相手と当たったなら、経験を積ませても、なんて思っていたが――


 ――ヒュオッ―ーギギギンッ


 躊躇い無く肉薄し、連撃を繰り出してくるこの相手には、到底無理だ。

 左右に携えた剣の速さ、そのしなやかな剣筋は、まるで蛇の様。


「――ちっ」


 隙を伺う暇が無い――だが――それならそれで――


「『応撃壁』!!」

「――!!」


 攻撃が当たると、衝撃が発動する術式を発動し、その盾でそのままシールドバッシュする――

 衝撃で相手は吹っ飛ぶが、ダメージが在るようにも見えない。


「……聞いて答えるとは思わないが、ダスバックは何処だ?」

「――此処には居ない」


 答える声が、思ったより若かった事、そして、普通に答えた事に、ツブラは意外な面持ちになった。


「……見りゃわかるさ――謎掛けしてるんじゃないんだがな」

「単に、此処には居ない、と言っているだけだ」

「――更に下に居るのか?」

「下と見るか、上と見るかは意見が分かれるが――」


 だから――と言い募ろうとして、ツブラは言葉を引っ込めた。


「――お前、『世界樹』の方から来た奴か?」

「俺は殆どこの世界を知らんが、認識ではそうなるのかもしれん」


 『敵』か――と構えるが、相手は別に構えない。

 自然体で、剣を下ろしているだけで――だが、隙が無い。

 そればかりか、納刀した――それでも、隙が無い。


「何故、斬りかかって来た?」

「――下手な事を知れば、引き返すがままなら無くなる」


 会話をしろ、と毒づきながら、ツブラは考える。

 考えて――ふと思いつく。


「――ひょっとして、このダンジョン――」

「――口にするな。目と耳は何処にでも有る」


 語る前にそう答えた相手――口元に指を立てる茶目っ気さえ見せている。


「――ドコのドナタか存じませんが、余計なお世話だぞ?」

「――それはスマン。余計な世話を焼くのは、性分らしい」


 クク、と笑う相手――金髪が揺れている。


「だが、今はまだ踏み込まない方が良い。

 『宴』には、準備が必要だ。出来るだけ綿密な下調べと下拵えもな。

 勢いだけで時勢も何も考えずに動くと、碌な事に成らんよ?

 折角まだ眠っている者を、『野望』だの『忠君愛国』だので、態々起こす必要は無いだろう?」

「――ははあ、成る程――ドコのドナタかは、分かった気がする」


 内心、穏やかでないのだが――ツブラは出来得るだけ、静かに応えた。

 ――こんな風な奴だったのか? アレは――

 だが――武術のスタイルと、何より――あの、見覚えのある、金髪の頭――


「――済んだぞ、『双顎フタラギ』」


 その背後から、唐突に、闇の様な鎧騎士が姿を見せる。

 アーメットに近い兜故、表情は分からないが――


「――――」


 ――あまりにも暗い、その目に、流石のツブラもゾッとした。


「『真闇マナヤミ』殿――どうだった?」

「――使い物にならん。『竜』だけ引き摺り出した。そちらも、使い物になるかは分からんがな」

「――お話中、悪いが――」


 そう言って、ツブラは構えた。


「――唯でさえ、碌でも無い状況なんで、これ以上引っ掻き回さないで貰い――


 ――チャキっ


 ――たいんだが――」


 目を切った訳ではないのに、その鎧騎士は、背後に立っていた。

 対応は出来た――直ぐに半身を開き、双方に気をやる。

 ――だが――流石に不味い。


「――我等の動きは、可能な限り静かに行わねばならぬ。

 派手に動き回るのは、悪手――知る者には――」

「――悪いんだが、そいつはこちらの仲間だ、勝手に殺されては困る」


 不意に、鎧騎士の背後から声が聞こえ――其処から奔る火球を、鎧騎士は飛び退いてかわす。


「――おう、ユキヤ」

「おう、じゃねえよ――お前も退かないとどうにもならんだろうに」


 『泉』から入ってきた相手に声を掛けつつ、油断無く相手を見張るツブラ。

 と、不意に、相手の片方が止めた。


「――退こう。不用意に話す様な程度の低い連中じゃない様だ――」

「……消すべきだ。若芽のうちに」

「……ダスバックが言った事を考えるなら、彼らを消すと、詮索が却って煩くなるぞ?

 ――大体、あんたは真面目過ぎるんだよ――それに、さっさと帰って報告すべきだろ」


 『双顎』と呼ばれる剣士の言葉に、『真闇』と呼ばれた方は剣を納め、マントを翻して奥の方へと。


「――これは、ダスバックからの忠告だ。『真実なんて求めない方が良い』――」

「――生きてるのか何なのか知らんが、言っといてくれ――『自分の生き様は自分で決める』ってな」


 ツブラの言葉に微かに笑い、『双顎』もまた、消えていった。


「……ヤバ、かった……」

「おい……あれって……」

「ああ、言いっこ無しだ――まして、あの金髪の言う通りなら、壁に耳ありだし――」


 そう言いながら、ツブラ達も帰っていき――


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「――参った」

「――夢は醒めたか?」

「――少なくとも、今やるべきじゃない、とは分かった」


 帝都エイバロニア。貴族子弟達の一人の家で、彼らは集まっていた。


「――『民の為の帝政打倒』、等と言っている場合でない事が、よく分かった」

「――分かってくれればいいさ。

 俺らもお前らの言う様な、『民の評議制』の国から来てるし――

 別に、お前らの考えを全面否定したい訳じゃない――だが、『時節』が悪すぎる。

 変な動きをすれば、より大きな流れの為に、活動に伴う『混乱』を利用されて終わりだ」


 『革命運動』も結構だが――とツブラはコーヒーを煽る。


 ――実際の所、これは単なる『革命運動』ではないだろう。自発的に、かどうかすら怪しい。

 相応の『混乱』の方に用があって、と見るべきだろうな――

 ――ああ、ああ、俺も、アイツに違わず捻くれてんな、と笑うツブラ。


「やれやれ。幼馴染どもが、考え無しの活動で死なずに済んで、俺はほっとしてるよ」

「――別に、お前に感謝はしないぞ、ファース」

「そうだ。異天のお三方に諭されたと言えど、世の中が今のままで良いとは思わん――

 為政者とは名ばかりの連中を野放しにはしておけない――それは変わりないのだからな」

「――どうしましょ、こいつら、堪えてないですよ?」


 どうって、そっからは――と思っていると、フミが口を出した。


「あんたがフニャフニャなのも悪いわよ、ファース」

「酷くないスか、フミさん!? フニャフニャて!?」

「ビーギスとウェルジの考え方なら、あんたは一番に槍玉に上げられるもん」

「酷いわっ、芸術を愛する家系なだけなのにっ!!」

「「家系云々以前にそういうとこだよ!!」」

「え? 何が?」

「なんで真面目な会話を継続出来んのだお前!?」

「身をくねらすな!! 軍系の家の俺らより筋肉ある癖に!!」

「やぁねぇ、鍛え方がちがうんだもん。見栄えのする筋肉だもの、俺のは」


 ――ムキマッチョの舞台役者とか、色々居過ぎだろ、フミの人脈。

 なんで半端にオネエ言葉なのか、良く分からんキャラしてんな……


「――実際の所、どう思います? ここ数年の、様々な動き――」


 四人の中のリーダー格と言って良いだろう、レアッドという青年が口を開く。


「獣魔の動きとか、野盗の類の動き、ってのは、『邪神』の蠢動に帰する――

 『邪神』そのモノは遥か昔、神代に居なくなったが――

 ダンジョンの深淵には、その眷属と言って良い『邪種イーヴィル』共が居て、世の中を乱している――

 ――俺らは、基本、そう習ってきてますし、そうなればそっちを疑うべきなんでしょうけど――」

「理由が分からん、って事だろ?」


 どんな世の中にも、フロム脳染みた奴は居るんだよな、ジン、等と笑うツブラ。


「古い伝承に伝わる様な存在なら、そんなみみっちい事する必要性無いですし」

「――俺には何とも言い難い――だが――『革命』だのを企図するのは、人間だよ」


 それが誰で、何の目的かまでは、また別の話だが――

 新たに出会った、二人の『脅威』の事を考えながら、溜め息をつくツブラ。


「――兎に角、今出来る事は、あのダンジョンへと繋がる通路の閉鎖。

 それも、ドコの誰が狙ってるとも付かないから、俺らだけでやるしかない」

「はい。ビーギス、ウェルジ」

「ああ。工兵は何人か頼んだ。親父らには分からんように、下っ端連中だがな」

「ファース――」

「使わない大道具でもいいって言ったよな? ならゴロゴロしてるよ」

「――よし。埋めるぞ」


 俺はあと幾つ色んなモノを掘り返したり、埋めたりするんだろうか。

 そんな事を、ツブラは思った。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「という訳で、リスクが大き過ぎると判断し、勝手ながら――」

「いや、その辺りは貴殿等に任せている。主も同様の判断だろう」


 帝都辺縁域・フラタカンフェル領・領主館。

 ユキヤは、自分達の依頼者に報告に来ていた。


「――良いんですか? オルランドゥさん」

「現状、そんな厄介な場所に潜る必要性が無い。

 エスカリオ学園にでも働きかけて、『修行場』に使えるかどうかと言った所だったが」

「向こう側は、剣呑に過ぎますし、更に危険な領域に迷い込む恐れがあっては使えませんね」

「ああ」


 ――そう。ツブラたちが潜り、潜った『泉』の在り処――

 それは、フラタカンフェル家の治める領地の中だった。

 森の奥にひっそりと沈んでいたダンジョン――

 誰の手も触れず、家中の『御伽噺』の様な扱いでしか知られて居なかったのだ。


「――問題は、何処か特定の勢力が、嗅ぎつける事ですが――」

「その点については、心配要らん。伊達に『王家』ではない」

「――蹴りますか」

「要望要請があっても、蹴るだろうな、レザノアール様は」


 ああ、そうだな。杞憂だった、とユキヤは笑う。


「――『智天』殿。今回の『タイド』、どの様に考える?」


 打って変わって、憂鬱そうに問う相手に、ユキヤは考える。


「……状況を考えれば、『ダンジョンから逃げ出してきた』、という所でしょう。

 ただ、『何』から逃げたのか、という話になると――」

「『空虚の野』調査からの報告を鑑みるに、『竜』だと思っていた。

 だが――若干『階層』が違う――

 ひょっとしたら、もっと厄介な事が、件のダンジョンの中で始まっているのではないか?」

「――例えば?」

「――永の時を超え――再び何かが目覚め、フィンブルウェトルの冬を起こそう――とか」

「――どうも、そういう連中とも思えないんですけどね……」


 もしも、あの場で会った二人が、自分も知る通りの存在なら――

 そして、語っていた言葉が事実であるならば。

 連中の望みは、そんな迂遠なものではない気がする。

 ――だったら何だ、と言われると――流石に自分では分からないが。


「――何れ、もう直ぐ冬だ。

 ダンジョンの活性も落ちるだろう――事が起きるとすれば、春か」

「――出来得る限りは、味方で居るつもりですよ」


 ――『神の枝アールヴァン』がどう動くかは不明だが――思い通りだけに動いてはやらない。

 そんな事を考えながら、窓の外の曇天を見上げるユキヤだった。

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