『03』/07
舞台は少し移る――
『六星連』、東方島嶼群の東――『禁宮』の前。
「――うーん、これ以上と成ると、金属から見直さないとダメだなぁ」
そんな風にして、(´・ω・`)の描かれた機体の砲身を点検している少女がいる。
「やっぱそう?」
「うーん……砲身の加熱がネックだよね。連発するとなると」
「何か冷やす方法無かったっけ?」
「『冷却』の術式の陣を乗っけるのは良いんだけど、干渉しあって弾体形成が巧くいかないからねぇ……」
「単純に補強か――で、何が要る?」
「ゲンちゃんの『可能積載』と、強度とかを考えると――
――ぱっと思いつくのだと、『煌金』かなぁ……
単純に『鋼材』なんかで分厚くしても良いんだけど、重くなるし――」
「いやあ――折角のあの機動力なんだから、今更固定砲台はねえ……」
ゲンちゃん――ゲニトリクスの砲身を弄っているのがチグサ――
ジンの恩人の子であり、それと話しているのが『シャチョー』ことミツキ。
「――アパム、オレイカルって?」
「多分オリハルコンだろ。"オレイカルコス"とか言うし」
「――めっちゃ高くなかったっけ?」
「砲身形成出来る位だと、国家予算規模だった気がするが」
「ひぇっ」
背後で予算的に青くなっているのが、『鞍馬一矢』と――俺である。あ、どうも、アパムです。
「というか、先ず言いたいんだけど――
戦闘の度にゲンちゃんを罵倒するのを止めなさいって」
「いやー、その……つい」
「つい、で『動けってんだよ、このポンコツが!!』って……」
<ありがとう、ありがとうチグサ――君ぐらいだ、私を――>
「貴重な自律型ゴーレムが自閉しちゃったら、勿体無いでしょうが!!」
<……味方……(´・ω・`)>
……哀れ、ゲンちゃん……
「はは、ゲン、諦めろ、『博士の異常な愛情』なんてのは、んなもんだ」
「含蓄がありますね、『鉄砲狂』」
丸いコアの状態で転がっているゲンちゃんを拾い上げたのは乱射魔婦警、カティ。
たった今殴られたのは、その相棒、ザミ子――ああと、ブリジット=ザミエル? あ、合ってた。泣くなよ。
――俺たちは現在、『禁宮』に対しての特別警戒という事で、『六星連』の全権委任を受けて此処に居る。
因みに、『東方の根の国』の連中は、軍と一緒に別行動である。
まあ、小回り利く方が良いだろうし、此処はそもそも、出てきた傍からブッ放せば済むんだから――
「――良くねえ……」
「――ん? どうした? アパさん」
「どっかのムエタイ達人みたいな呼び方は止せ――
考えろ、考えてみろ、クラーマー――俺ら、どんどん深みに嵌って逝ってるぞ……」
「『伍長』じゃねえ……というか、今更?」
言うなよ、今更とか……俺、『普通』に生きてたいだけだったのに、なんで『異世界』に……
・ ・ ・ ・ ・ ・
ちょっと、おっさんの――
……これでも30にリーチだからな、おっさんで良いだろう――自分語りに付き合ってもらおうか。
まあ、実に下らない人生ではあるのだが――
・ ・ ・
恥の多い人生を送ってきた、と、仮面の告白風に言ってみる。
――実際問題、非常に恥の多い、というか、箸にも棒にも掛からん人生だったのだから――
何せ、二十歳までの俺の人生の大半は、6畳ばかりの狭い範囲で完結していた。
起きて、飯食って、PC見て、PC見て、クソして寝る。
そんな日々を、13から6年も続けて、気が付けばもう数ヶ月で20。
終わってるな、と思っていた。
成人式のニュースを見て、ディスプレイにヨーグルトをぶっ掛けてやった。
全てに腹が立っていたし、その癖全てが怖かった。
そんな日々を過ごしていた中でも、別にコミュ障には――まあ、軽くは成ってたが、酷くはなかった――
とあるゲームのおかげだった、と言ったら、世の中の真っ当な人たちは笑うだろうか。
そのゲームは、戦闘も有れば謎解きもあるファンタジーだったが――
兎に角綿密な作戦立てとコミュニケーションが必要な代物だった。
『RPGの見てくれのストラテジー』なんて、名誉なんだか不名誉なんだか分からん二つ名が有った程だ。
『連携での倍加を含めずに、ターン制限有りで、100万のHP削るとか、およそ不可能な話』――
――といえば、想像が付くだろうか――倒した爽快感は、代え難かったんだけどね……
俺は始めて初日で一旦挫折し――三日後に、ヘルプメールでたたき起こされ――
それ以降の三年を、そこで過ごした。何時でも居るな、おまえもな、なんて笑っていたのはいい思い出だ。
――まあ、正に――自分の『生きている世界』だった訳だ。
その世界も、運営のご意向には逆らえず――閉じた。
ああもう――世の中以上に、自分がクソだ、そんな風に思っていた。
反対署名なんて集めて、自分が特別な何かだと思っていたのか?
おお、寒い寒い――そんな風に笑う、もう一人の自分に笑われながら、ベッドに引っくり返って居たら――
――その日の夜、こんなメールが入った。
『今お前の家の前だ、観念して出て来い、さもなくばOPSを開始する』
オーピーエスって、何? え、嘘だろ、俺の家分かる訳無いじゃん――はは、ワロス。
そんな風に高を括っていたら――
「ハッロー!!」
「ワールドォオオウ!!」
五分後。俺は、ドアを蹴破って入ってきた戦友たちに拉致られた。
いや、考えてみるに、普通に拉致というか――親、その時に居なくて、本当に良かったよ実際……
・ ・ ・ ・ ・ ・
――その夜の事は、殆ど覚えていない。
呑んだ事のなかった酒を呑み、想像すらしなかったお姉ちゃんの居る店に行ったり。
『世界』が終わってしまうのを、本当に、腹の底から、心から惜しんでオンオン泣いたり。
朝が来るのを、ボーっと海岸で眺めていたり――
記憶は断片的で、しかし、何も恐れはなかった。
「良かったら、一緒にリアルでも戦ってみないか? いや、サバゲーだけどさ」
「――見ての通りのナード体型なんで、そう言うのは――」
「よろしい、ならばブートキャンプだ」
そうやって、俺は毎週末ごとにそいつ等に拉致られては各地の『戦場』で走り回った。
お前ら、曲がりなりにも本職流れと肉体職(消防)なんだから加減しろよ、とか言っても聞きやしない。
一年も経つ頃にはナード体型はなりを潜めた細マッチョになり――
バイトも始め――その内に、雇われだが店長になり――
――13の頃の俺に言ってやりたい。
特別な人間で無くたって、世界は不思議と、面白さに満ちている。
お前が、半ば無理矢理入れられた部活で、いじめを受けて、世界に絶望したのは知ってる――
でもな――無理に、自分を特別な人間にしようとしなくたっていいと。
特別でなくたって、生きていけるし、特別でなくたって、連中との関わりは、いつか終わるのだと――
――そんな風に、俺は、自分が特別である事を諦めたのだった。
それから更に数年――
・ ・ ・
『アパーム、弾もってこい弾ー!!』
「その位置じゃねえよ!! 装填手だっていってんだろシャチョー!! おら撃て!!」
『ひゃはは、なんっだこれwww 『ドーン!!』』
相変わらずゲームをやっていた。
――いや、今でもたまにリアルブンドドはやってるけど、ね。
……『結婚』ってモノには、あの自由人二人も勝てなかった訳でね、はい。
さりとて『(仮)』の宛も無いオイラは、しかし、バンバカ撃つ快感を如何とも出来ず――
こうして、オンラインの『戦車ゲー』に興じている訳だ――うっが、耳がキーンとなる!!
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『いやー、勝った勝った。久々勝ったわー、しかもこんな訳分かんない機体で』
「訳分かんないとか言うなよ、『シャチョー』。
ifとは言え、ベースは『Eシリーズ』だぞ……まあ、ありえねえだろレベルではあるが――」
『つか、こんなイカレコンセプトの機体、無いだろ実際www』
「『総統閣下』のお国だからなぁ……『地上の大艦巨砲主義』をやろうとする国だし――
こいつ――『シルト=ウント=シュペーア』位、在りそうで困るんだよな……」
今回乗ったのは、空想魔改造シリーズとかいうやつだった。
『盾と投槍』を関するこの機体、アホのような機体だった。
ティーガーを、砲塔位置ずらして強化して、偏向防弾盾つけて、とか頭おかしい。
『撃たれそうなら盾を向けろ!!』じゃねえって……砲塔旋廻、えっらい速いけど……
『とりあえず、これで本戦だな』
「――え? 何? 本戦て」
『――アパムっさん、話聞いてたか?
BFexTAMにエントリーしてるって言ってたじゃん』
「ああ。それは知ってるけど――」
『最終予選、勝ったじゃん、今』
「……おま、ちょ、はぁあああ!?
久々に呼んだと思ったら、全国規模の大会の最終予選にいきなり!?」
『言ったら仕事忙しいって出てこないじゃん、アパム』
その通りなのだが、お前ら、俺が『普通』に生きたいと言ってるのに――
『Xenさんがご指名で呼べって言ったんだよ、自分無理だって。
状況伏せて呼べって言ったのもXenさん』
「ゼンジィィィィ!!」
『あの人、これから山狩りとか言ってたけど、何者なん?』
「自衛隊上がりの狩猟農家だよ!! マジで何考えてんだあいつ!?」
今頃山篭りしてクマでも追っかけてやがんだろうと思いつつ、俺は叫んだ。
「――てか、シャチョー。お前、『対人恐怖症』とか言ってなかったか?」
『いや、どうにか克服したわよ……本業に支障出ない様に……
――実際問題アレだ、アパムに聞いた『おまじない』は、中々、効いたわ』
『いよっ、社長にして車長!!』
――あんなの効いたの? 『私は一丁の拳銃である』的なアレが?
「本業は?」
『副官――じゃねえや、兎に角、脇に有能な人材が居るから問題ない』
「――日取り、何時よ?」
『一月後。ゲーセンとかにあるVR型の筐体使ってネットワークでやるらしいよ』
「……取れるかな、休み……」
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この時点で、俺はこいつらの顔すら知らなかったんだから、正直大事である。
偶然チーム組んで、その流れで数年付き合いが在ったと言えど、ネットって怖い。
兎に角、その日――参加可能な場所に、俺たちは集まり――
――うっそだろ、お前、じゃね、貴女がシャチョー!? とか色々あったが、会場入りし――
そして、あの事故が起きた――多分、事故だ。実際には――良く分からんが。
対戦中、異常と思える振動と、身体を貫くような衝撃を受けて――
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――なあ、クラマよ」
「うん? 何?」
「――俺らってさ、謎現象でこっちに来ただけの、一般人じゃん」
――そう。あのコクーン型のVR装置に入って、対戦中落雷だかに遭っただけだ。
俺たちは、別に来たくて来た訳じゃないし――
そこの婦警の様に、この世界が楽しくて仕方ないって訳でもない。
ゲームと割り切れていたあれとは違うし、そもそも――
……『生き物』を『殺す』覚悟があるか、と言われると、未だに微妙だ。
「――それでもまあ、関わっちゃったじゃん」
「……そうだな……」
「んで、見ちゃったじゃん、アレ」
「…………」
「……アパムっさんがどうかは解んないけど、俺的には、アレは――敵にしか思えない」
アレとは――俺たちが落ちた島に、無数に現れた、アレだ。
――そう――
「――おい、アパム。戦闘準備!!」
正にその入り口を振り返った瞬間、カティが叫んだ。
「――こんな勘、要らないっての――」
アレ――今正に、『禁宮』から顔を覗かせたバケモノ――
――『アガザル』という、『危機』。
「――特別に成りたかった訳じゃないのに、得体の知れないモノに絡まれるとか――」
ふざけた運命だよな、全く――そう口走りながら、機体に飛び移る。
あの頃、望んでも無かったのに関わらせられ。
しごかれ、罵倒され、引っ繰り返っても立ち上がらせられ――
……今もまた、望んでもないのに、向こうからやってくる。
……違いがあるとすれば――
「よし、アパム――派手に決めろ!! んで飯だ!!」
「――いや、何はともあれ、先ず撃ってからにしよ――」
「はいよ、ドーン!!」
「はええよクラーマー!!」
『特別』でなくても、立ち向かう理由が在ると言う事だ。
望んでいる訳じゃない。
望んで来た訳じゃない。
それでも――累々たる屍を掻き分けて――生きているし、生きていく。




