『03』/08
何度もやり合った相手だ――手の内は知れている。
まして、こんな風に、出てくる範囲が半分固定なら――
――ブスブスと、燃え落ちているそれを見下ろしながら、索敵をする。念の為、全周を。
<光学>――<障害無し>
<感熱――――<障害無し>
<音声>――<障害無し>
<魔素>――<障害無し>
<敵性脅威>――<微小、乃至、無視可能レベル>
<――周囲に敵影は無し。戦闘終了です>
「――し、しんどいぃ……」
「なんもやってないじゃん、シャチョー……俺もだけど」
「いや、気は使うもんよ――ゲームと違って、落ちたらOUTだし……」
戦友達が、そんな事を言い合う中、私は身体を低くする。
――ぷしぅ
「うっは――お肉の焼ける匂いwww アパム、焼肉弁当辺り念じて」
「ピンポイントで出せるなら苦労無いって言ってんじゃん……
……ああ、でも、そろそろ刻限だな――出るかどうか分からんが――『引く』か」
……独り、戦っていた頃は、戦闘後がこんなにも賑やかだった事は無い。
あくまで、得た戦訓の検証に費やす時間だったからだ――
『喜び』等無く――次へが始まる時間。
・ ・ ・ ・ ・ ・
――さて――自己紹介をしようか。
私の名は、『ゲニトリクス556Type・BG041』。
諸君等の言う所の、ゴーレムであり――
現行のこの世界では、かつても、恐らくは今も、最新鋭・最先端の技術に当たる――
組み込まれた魔術回路で、外部から魔力を吸収し、半永久的に稼動する、貴方がた人間の『盟友』だ。
もっとも――私が護るべきだった存在群は、遥かな昔々に居なくなり。
護るべき使命も形骸と成り果て――
(´・ω・`)
今や、君たちで言えば『顔面』に当たるだろう場所に、こんな謎マークを描かれている。
うん――げせぬ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
――過去について、少し触れておこう。
私の『始まり』は、とてもとても旧い時代に遡る。
遡るが――正確に『何時』、と言う事は出来かねる。
私の記録は、戦闘記録がメインなので、正確な年代は記録から除外されている。
最初は記録の紐付けで、有ったは有ったのだが――除外した。
『季節』での敵の出現度合い変化等、『日付』を参照する意味が無いでは無いが――
そちらはどちらかと言えば、『気温』『湿度』『日照』等からも類推出来る。
無駄に時間を数えている暇も無かった――とも言える。
それでも、『命令』を受けたシーンの記録を残しているのは――
――自分が何の為に存在しているのかを忘れない為だ。
= = = = = =
あの時代――私を作った者たちは、『敵』の襲来に悩まされていた。
広々とした領土も喪い、どんどん追い詰められていく――まあ、良くある話だ。
そんな中、私は生み出された。
残存領土の北東端――
具体的には、『キウ=リ城砦』と呼ばれた場所を、単機でも守護出来る様、私の主によって造られたのだ。
作り手の個人名は覚えていない――と言うより、教えて貰っていない気がする。
作戦行動に移ってからで、自分で除外した『記録』はないし――
……『記録』内の言葉を参照するなら、『センチメンタルに過ぎる』、そう思ったのかも知れない。
= = = = = =
さて。操機兵――ゴーレムには様々な種類があるが、基本の基本としては、命令の受け付け方で大別出来る。
『命令遂行』型。
これは自我的なモノをほぼ持たず、一つ一つの命令に対して動く。
細々とした挙動まで指図できるが、逆を言うと、命令を伝達する分の反応速度が掛かる。
『自律動』型。
こちらは、大目的をインプットする事によって、ある程度を自分で判断をする。
しかし、目的行動中の柔軟な判断までは出来ない事も多い。
それらの他にも様々にあるのだが――
私は『戦略補佐型』という特殊なタイプになる。
戦略状況を観察し、可能な限りの最適解を導き――それを以って戦闘を進める。
その中でも私は、この砦の防衛を単機で出来る様に、特殊なチューンを受けていたのだが――
ああまあ、そこは、詳しく言う必要はあるまい。
要するに私は、最前線に置かれる為に――置き去られる為に――造られたのだ。
――そんな私に、何故こんなアプローチを施したのか――今もって不明だ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「君の使命は、ここを護る事」
そう、私を作った者は言った。
「ただし、最優先事項は――分かっているね?」
<――はい>
――映像データは嵩張るので、と、何時だったか音声のみに切り替えたこのデータ。
――今では、取って置けばよかったと思うのだが――まあ、後悔とは、後からする物だ。
――記録の中の作り手――恐らくは女性――その声が、凛としたものに成る。
「――復唱」
<命令遂行が困難となった、或いはその意味を喪失したと判断した場合――
AC9を実行に移し、自己判断を行う事。
自己判断が出来かねる場合は――>
「よろしい。そこまで分かっているなら――後は時が君を未来へと運ぶ」
先程の一言の調子はどこへやら――その声は嬉しそうに言う。
「……もっと何かを言って置きたくもあるのだが――言うだけ湿っぽくなるし、センチメンタルに過ぎる。
どの途、私の全精力を傾けて、そこに全てを残した――だから、そうだな――こう言おう」
とても――被造物とか、人造物――或いは『兵器』に語るのでは無い、親しげで優しげな口調で。
「――では、よき旅を――『生き残り』たまえ、戦友」
・ ・ ・ ・ ・ ・
それから――何年の年月が流れたのか、不明だ。
再度になるが、年数カウント等と言う意味の無いソフトはさっさと除外したし――
撃墜カウントもカンストした段階でアンインストールした。
逆を言えば――最初の頃は、それらにメモリを割ける余裕すらない、激戦や泥沼の日々だった、とも言える。
潤沢な資材が収められた砦とはいえ、それで敗戦したり、破壊されたりがなかったのだから――
――自画自賛めくが、自分はそれなりに優秀で、運が良かったのだろう。
ひたすら――押し寄せる『敵』を倒し、それを『考査』し、次の戦闘で『証明』する。
何体倒したか知れない――何度繰返したか知れない、『戦闘証明』。
幾千、幾万と、戦闘を繰り返し続け――その果てに――
・ ・ ・ ・ ・
ゴパァッ!!
「でぇいチックショ!! デブで不出来な『フ○ミー』の癖に、好き放題しやがって!!」
<――あの、ですね、ヒトの話――>
「何だ原住民!? 兎に角手伝え、それ動け!!
おい、アパム!! 武装確認してくれ、アパーム!!」
「聞こえてるし遣ってるよ、落ち着――ひぇっ!? リアル火球って超こええ!!」
「なん、なんだよ!? 一体何なんだこりゃ!?
んで、なんでお前らそんなに落ち着いてんの!? ねぇ!?」
「落ち着いちゃいねえよクラーマー!! 最っ高にハイって奴だわよアハハハハハ!!」
<……聞こうよ、ヒトの話……>
……戦闘中に、謎の発光体とぶつかったと思ったら、この謎状態である。
発光体だったと思しきモノは、私の機体を侵食し、私もまた侵食し――
キュラララララ――ズザザザザザ!!
「ぎぇああああああ!? こら原住民!! ちゃんと走れ!! なんで滑って転んでんだ!?」
「おいー!! ぎぇあああって!! しっかりしろ『元アイドル』ぅぅぅ!! ファンが泣き叫ぶぞぉぉ!!」
<なん、これ何なんです!? 凄い速い動き出来るけど!!>
「――あー、おい、ちょっとコントロール寄越せ、えーと……名前は?」
<識別番号はゲニトリクス――>
「はい!! ゲンちゃんな!! アパム!! 動かせ!!」
「――操縦違ったらすまんな――行くぞ!!」
<ちょっ>
――『無限軌道』なるものを足に持ち――
「っしゃぁ!! 位置取り完璧!!」
「あーもー、あんなのに撃ったら、確実にミンチ――」
「死ねぇ!! 『偽フラ○ー』!!」
ああも、――はい、ドー――
キュンっ――ズパァアアアアアアア!!!!
――おん?」
……あの、全員が遠い目で、てんでばらばらの中空を見た、空気感よ……
「「「…………」」」」
<――なんだ、私は、何を見てるんだ――>
「――ちょ、クラーマーてめぇ、あっぶねぇ!?」
「クラマだって言ってんだろ、クラーマーじゃねえよ!!
でもマジすまん、こんなヤバキチ火力とは思わなかった!!」
「あ、あぶ、あぶねえ……何かヤバイと思って車体傾けて、よかった……」
<うっそでしょ――防衛対象が半分吹っ飛んじゃったんですが――>
――『シャチョー』曰く、キョシンヘイの様な火力を得てしまったのだ――キョシンヘイって、何ぞ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
……後は正直――口に出すのも億劫な様な、そんな日々である。
彼らと一緒に、沢山の冒険をこなしたが――正直、気苦労が絶えない。
アパムと一緒に、胃を(私には別に無いのだが)押さえる日々だ。
……え? 具体的に、だって?
……そう、だな……
――『一番酷い』例を挙げるなら――
= = = = = =
ドンドコドンドコドコドコカカカ――
「ぬあーっはっはぁあ!! 出て来いや、『オーガ』のパチモンども!!
出て来ないなら隠れてる砦ごと、ホットな一撃をお見舞いすんぞぉ!!」
<あぶ、ちょ、直立しなさんな――!!>
『肩に乗せて前進』つうから、何かと思えば!!
「……タンクデサントって、ああだっけ?」
「知らねぇよ。太鼓打ち鳴らせ……」
「――なんつう愉快な女の手下に付いてんの、俺ら……」
「――知らんよ、太鼓打ち鳴らせ……」
「なぁにやってんですかねえ……」ニヤニヤ
<呆れてないで止めて下さい、ジン!! ――あぶねえってば!! 煽る為に両手を広げるな!!>
= = = = = =
……これで、『戦績』も良いし、カリスマ有るのか、依頼人とかから妙に人気在るし……
アパムとクラーマーも、何だかんだ――いや、いい。
特にアパムは、基本的に大人でマトモだし……
……騒がしい――定期的に敵が来ただけの、あの日々に比べ、なんと騒がしい事か。
――大体シャチョーが悪いのだが。
依頼人の態度が気に食わなくても、頭部の衰退は放って置いてあげようよ。
誰もがフェルゾ太守みたいじゃないんだから……
<……何だって、この人たちと居るんだ、私……>
「愚痴るなよ、ほらー、ご飯よー」
<――これのせいかもなあ……>
渡されたブツを『食べる』――ゴーレムの癖に、と思うだろう。
私自身、何故この機能を与えられたか知らないが、コアとしての私は、食物を食べる事が出来る――
まあ、解析してそのままエネルギーに分解してるのだが。
本日の食事は――エビカツサンドか、当たりの分類だな。
「便利だよな、あいつらの能力……てか、どうやって出してんだ? ザミー?」
「前も言ったけど、不明だってば。
"廃棄"に限定されてるって言うけど、見たら場所がまちまちだし。
そうなると、ピンポイントで何処かと繋がってるとは思えないし――」
「お前も気合入れて"SPAS"とか呼べよ」
「時空系は専門外だって言ってるでしょうが!!
それに、座標特定出来てもあんたに今以上の玩具はやらん!!」
「ちっ――」
不本意、という顔をしたカティが、顔を歪め――
「――おい、第二波が来るぞ?」
「――何?」
「例のアレとは違うッぽいが――押し出された別の奴だろ。ケモ臭い」
「飯時ぐらい、静かにさせてくれよー……」
<いや、シャチョーは普段からうるさいでしょう……>
――まあ、他にする事もないのだ。
この騒がしい日々を――
彼らと一緒に護る事も、在りだろう。
<チグサ、例のアタッチメントは使用可能ですか?>
「ああ、例の拾ってこられた奴? 使えるよ? でもあれ、接近戦用だよ?」
<準備してください。これ以上美味しい匂いが漂うと、シャチョーが暴れます>
「はっはっは、ぬかしおる――うん、焼肉食いたいなあ……」
「これ終わったら、街で打ち上げでもやろうぜ。
日本式の焼肉は流石に無ぇだろうけど、ケバブっぽいのはあるだろ」
<そうですね――>
<「「「「「「ジンのおごりで」」」」」」>
とりあえず、こんな厄介な状況の首謀者には、それぐらい請求してもいいだろう。




