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Missing √  作者: 双葉 ミリカ
√T
25/28

secret

だいぶ更新が遅れてしまいました。

先日のPV急増で読んでくださった新規さんもぜひよろしくお願いします!

 

 《071》


「で……これは一体どういうことなんだ……」


「どうって……コスプレ? 」


「んなこた分かってんだよ! 問題は、『なんで俺もイベントでコスプレしているのか』だよ! ? 」


 2月某日、「まぁ1回試しにこういうイベントに足を運ぶのもいいかもな」というような軽い気持ちでコスプレイベントに参加した俺は、何故かコスプレを「する側」としてイベントに参加していた。


 事態は数時間前、いや、言ってしまえば何週間も前から始まっていたのかもしれない。

 あの喫茶店での三笠さんとの会話、


 □


「そーだな。じゃあ行ってみようかな…...」


「ホント! ? やった! ! じゃあ林くんの分もちゃーんと用意しておくからね! 」


 □


 伏線はしっかり貼られていたんだ! あの時に!


 林くんの分だ? どう考えても突っ込んでいくべきポイントじゃねえか! 違和感丸出し、テキストで何故かそこだけ色が違うってぐらいに強調された伏線じゃねえか!

 どうしてこんなあからさまなポイントに気づかなかったのか……恥ずかしい。


「これって、FGOの主人公だよな? 」


「うん! そうだよ! 今日の林くんは私のマスターだよっ! 」


 この衣装はfake/great ownerという人気シリーズのスマホゲームの主人公。fakeシリーズはマスターと呼ばれる魔術師と使い魔が力を合わせマスター同士のバトルロイヤルを勝ち抜くというシナリオだ。


 そして今日の俺はそのマスターのコスプレ。白く少し長めの袖の上着に黒のズボン。こうやって文字に起こしてみると至って普通の服装だが、やっぱりコスプレと言えばコスプレだ。デザインが近未来というか2次元というか……


 ちなみに三笠は主人公のパートナーのラシュ。片目隠しの髪型、盾を使いマスターを守る後輩キャラ。かなり人気がある。

 俺もfakeシリーズは好きでもちろんFGOにも手を出していたが、やっぱりラシュは好きだ。


 そんなラシュの格好をした同級生が隣で周りの人に笑顔で手を振っている。

 前世でどんな徳を積めばこんなシチュエーションに出くわすことが出来るんだろう! はは! 最高!


 今、ここにいるたくさんの人々、高そうなカメラを構えているあのお兄さんも、隣でコスプレしているお姉さんも、横目でチラチラ見ながら通り過ぎていくおっさんも、この写真をネットで見るであろう少年達も、誰もこのラシュの本当の顔を知らない。


 三笠露がラシュに変身している、そんなことを知っているのは俺だけ! なんだろうかこの優越感。たまんねぇ〜!


「あの〜……」


「はいっ! ? 」


 コスプレイベントなんて初めてで勝手も全くわからないのでボケーッとしていたところ不意とつかれた。

 この約1年で人と接すること、異性であってもそれなりに会話することができるようになったが、やはりまだ見ず知らずの他人となると戸惑う所がある。


「そちらのラシュちゃんと合わせて撮影よろしくですか? 」


 チラッと三笠さんの方を見ると、俺の状況を分かっていたのかニコッと笑顔で返してきた。


「みか……レイン! 」


「はいはーい! 今行くね〜」


 レインと言うのは三笠のネット上でのハンドルネームらしい。

 今ネット上で話題のコスプレイヤー、期待の新人レイン、それが俺の知らなかった方の三笠さん。そして今俺の隣にいるレインは、明らかに三笠さんより自然な笑顔で、輝いていた、気がする。



 《072》

 コスプレイベントから数日後。非日常から一気に日常に引き戻された俺と三笠さんは、いつもの喫茶店でネットにアップされたコスプレ画像を見たりしてダラダラと余韻に浸っていた。


「お〜RTも多いし評判もいいな……さすが三笠さん」


「本当! ? よかったぁ〜……」


 三笠さん、レインのアカウントにupした写真以外にもたくさんの人が写真を撮りネットにあげている。それをツイートする時にはルールというかマナーというか、被写体の方に届くような工夫がされているので当然三笠さんも把握している。


 だが、インターネットというのはアホみたいに人がいる。アホみたいに人がいるのならばその人の数だけ思想、感性、信条が存在しする。ならば注目されるような人には大体アンチと呼ばれるその人その文化を快く思っていない人種も当然存在する。


 コスプレを始めたばっかりの頃運悪くコスプレイヤーアンチの目に留まり軽い嫌がらせを受けてからあまり自分の評判を進んで調べることは無かったらしい。


「林くんがいて助かったよ〜1人じゃ怖くて見れないからさ〜」


「別に構わねえよ。俺もなかなか楽しいし? 」


「あはは! そりゃよかった! 」


 レインのフォロワー数は右肩上がり、評判も良く、アンチも少ない。そもそもアンチなんて可愛い人に嫉妬したり人気を僻んだりしてるだけのしょーもない奴らでしかない。

 端から気にする必要なんてないんだ。

 何より楽しそうにコスプレ活動をしている三笠さんに水を指したくない。


「ねぇねぇ見てここ! 私と一緒に林くんも出てるよ! 」


「え……うおぁ! ? ほんとだ! 俺じゃん! 」


 名前も名乗ってないし、特に有名でもないし、てっきりネットには上がっていないと思っていたがまさかこんな形で俺が出てくるとは……


「やっぱり私の選択は間違ってなかったみたいだね! 似合ってるにあってる! ほら! なかなか好評だよ? 林くんも」


「なんでやねん……」


 過去1度も関西圏に住んだことのない俺でも、何故か自然と口から本場のツッコミが出てくるくらい戸惑っていた。

 今まで狭いコミュニティ、その中でも日陰を選んで生きてきた俺にとって陽の光をもろに浴びるような経験はやはり慣れないものだ。めっちゃ疲れた。


「良かった良かった! どうだった? 初めてのコスプレは? 」


「まぁ……色々大変だったけど楽しかったよ。 こんな体験1人じゃ絶対できなかっただろうし」


「ふふふ〜いいねいいね〜」


 俺の反応がお気に召したらしく、三笠さんはニコニコしながら新作のストロベリーなんとかフラペチーノを啜っている。


 人の印象というのはこうも簡単に覆るものなのか。ほんの1ヶ月前迄までろくに話をしたこともなかったのに今では一緒にイベントにまで行く仲ときた。

 これは完全に研究結果などのない自論なのだが、人と人とが1番簡単かつ親密になる方法は「2人だけの秘密を共有する」

 だと思う。


 ふたりだけの秘密を持てば自ずと距離は縮まり、会話も増え、お互いを知ることが出来る。こいつとはどうも気が合わない離れようとしてもそう簡単にさようならという訳にはいかない。こんな言い方をすれば呪いのように聞こえるかもしれないが、案外悪くないんじゃないかとは俺は思っている。

 あくまで自論だけどな。


「また行こうね! イベント! 次は何かなぁ……今2月だから……」


「俺はもう参加決定なのか……」


「いや……かな……? 」


 やめてくれ。そんな寂しそうな、純粋な目で見ないでくれ。俺みたいなひねくれてる人間にはその手のピュアさが眩しすぎるんだ……っ!

 掘り返されたモグラ、石の裏のダンゴムシかのごとき影属性にそれはこうかがばつぐんだ! ▼


「ま、まぁ……? 別に? そんな嫌じゃなかったし……むしろ楽しかったし……」


「やった! 林くんならわかってくれると思ってた! やはり私の目に狂いはなかったか……」


「発端は三笠さんのドジだけどな」


「何〜! ! ? ? 」


 オタクには似合わないと言われるかもしれないおしゃれな喫茶店で笑い合う俺たちの姿は、まさに答えのない「青春とは何か」という問の一つの回答例ではないだろうか。


 かつて自らに課した一つの問。

 答えのない問。

「あの時の俺」が導き出した答え……青春の形と「今の俺」が導き出した青春の形は全くもって違うが、どちらも大きな丸で配点をすべてかっさらうことが出来ると自信を持って言えた。


《なうろーでぃんぐ!》


Tsuyu×Reishirou


「そういえばあの金髪の子も私と一緒でコスプレイヤーなの? 」


「あー……まぁそんな感じ。よくは知らないけど」


「そうなの? あんなに仲良さそうなのに? あの時アニモイトで会ったときも一緒だったし」


「い、色々あるんだよ色々! そりゃあ仲悪いとは思ってないけどさ……」


「だよねぇ〜あの子げきおん!の小豆ちゃんだよね? クオリティー高くてびっくりしちゃった!」


「それ! わかるか!? いや〜この感動をやっと他人と分かち合えるとは! 迅も桜ヶ丘も神崎さんもみーんな知らねえからもう嬉しい!ありがとう三笠さん!もうどこがいいってさその完成度!頭の先からつま先までもうあずぴょん!特に胸g……」



(この人……思ったよりやばいかも……?)

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