costume
《068》
あれから数日後、三笠さんの秘密を知ったからといって特に俺の日常が変化するわけでもなく、日々は過ぎていった。
相変わらず空気はからっとしているが外は寒いし、体育は持久走でキツいしと冬のこの時期ははいいことがない。
頑張っていい所をあげるとすれば…...豚汁とかの温かい汁物が美味しいってぐらいだろうか。
今日も朝から体を突き刺すような寒波の中とぼとぼ学校へ向かっていた。
両手に手袋、首元にネックウォーマーは標準装備。それに加えて寒さに応じてカイロやマスクを用意する。
もうそろそろ1年だが飽きもせず迅と毎日しっかり登校するも、こんなに寒いと体が震え上がり縮こまり、口数もなんだか少なくなっている気がする。
2人肩を並べて道を歩いていると突然、ピコンッと俺のスマホが音を立てた。
「我が名はつゆみん! 嶺士郎殿、例のブツは持ってきてくれましたかな? 」
メッセージアプリの通知を開くと、三笠さんからオタク色の強いメッセージが届いていた。
あれから俺達はこんな感じでやり取りをしている。三笠さんは学校で正体を見せることが出来ない。ましてや俺と話しているところなんて見られたらたまったもんじゃない。
俺は別に構わないが三笠さんに多大な迷惑がかかってしまうのだけは避けたい。
責任を取るって嫌なんだよね…...
「あぁ.....任しておけ。昼休みに例の場所で」
げきおん!のキャラ、夏山 雫がにやっとしているスタンプと共に返信してスマホをまたポケットへと戻した。
三笠さん曰く「普段隠れオタクやってて誰とも感動を共有できないから、言い方はあれだけどはけ口ができて気持ちが楽になった」とのこと。
本当に言い方はあれだが、特に俺には害はない、むしろ女の子とアニメの話をするなんてなかなかない機会なので得をしている。
ウィンウィンの関係とはまさにこの事なんだなぁと俺は心の中で頷いた。
「お、嶺士郎なんかいいことでもあったのか? 」
隣を見るとカイロを一生懸命振り手を温めている迅がニヤニヤしていた。
「いやーまぁ〜別に? こんなクソ寒いと心もキンキンに冷えて憂鬱だぜ」
「ホントにそうかぁ〜? お前の今の表情は心がぽっかぽかな人の顔なんだがな」
「なっ……! ? 」
まさかそんなに顔に現れているなんて……これからは気をつけないとな。
なんか恥ずかしい。
ぷいっとそっぽを向いてみるも相変わらず生暖かい視線が後頭部に当たる。
この全てを見透かしたような態度がなんとも……味方になればかなり頼もしいのだが、敵になるとたまったものではない。
出来ることならこのままずっと味方でいてほしい。
《069》
「おーっし! 嶺士郎帰ろうぜ! 」
「あー……すまん。今日はちょっと帰り用事があるんだ。すまんな? 」
「……そっか! じゃあ1人悲しく帰りますかね…...」
おいおいと大げさな泣き真似をする迅を軽くあしらって荷物を抱える。
三笠さんと友達になってから早1ヶ月。時が流れるのはなんだか早いもので、俺達は主にメッセージアプリを使ってかなり仲を深めていた。
今日も放課後一緒にアニモイトへ行く約束をしている。
三笠さんは相変わらず学校から駅に向かう途中にあるアニモイトに行こうとしていたが、そこはなんとか説得してちょっと離れたところにあるアニモイトに行くことにしている。
この人、三笠露はアホだ。
もうちょっと良さげにいえば純粋だ。
高校生にもなってこんなに純粋な女の子はなかなかいないんじゃないだろうか。
オタバレを気にするも対策は穴だらけでボロもすぐ出かける。
具体的にいえば、近くでアニメの話をすればチラチラこっちを気にしたり、アニソンが流れていればいきなり表情が明るくなったり、もうガバガバだ。いや、そういう意味じゃなくてね。
「なー嶺士郎、今日は三笠さんとどこ行くんさ? 」
「今日はちょっとな」
「へぇ〜仲いいんだね〜最近」
「まーなー……あっ! 」
しまった。完全に気が緩んでいた。
っていうかこいつなんで俺の用事の内容把握してるんだよ! 迅はおろか、学校の誰にも俺と三笠さんが親しくしているところは見られていないはず。今さっきミスったのでなんとも言えないが、気をつけて入るつもりだ。
「はは〜ん? 図星か。まあ知ってたんだけどな」
「っ! 」
随分前にエアコンを切った教室では、コートを着ていても少し冷える。
だが今俺の体からは1滴、また1滴汗が滲み出てきた。あーもうなんなんだよこのポンコツ!
「まぁまぁ誰にも言わねえよ。言って欲しくなさそうだし、なんとなく公言したらどうなるか察しがつくからな」
さすが迅。こいつ空気を読んで先を想像する力は計り知れない。こうやって言いにくいことを察してくれるのは特にありがたい。
「そりゃ助かるわ……」
「俺とお前の仲だろ? 」
迅はバチッと星が出るようなウインクを俺に向けて飛ばしてきた。
こうやって無自覚に女の子を何人も落としてきたんだなぁと思うとムカつくと言うか呆れてくる。あいつのことだし分かっててやってるのかもしれないという可能性も捨てきれないが…...
「と、とりあえず今日はこのまま行かせてもらう。じゃあな! 」
「ほーい! じゃあなー」
とりあえず俺は迅に別れを告げ教室を後にした。三笠さんとの待ち合わせにはまだ時間があるが、念には念をと特に寄り道もせずに現地へ向かった。もちろん1人で。
《070》
「お待たせ! いや〜途中で友達と出くわしちゃってね〜」
集合場所のアニモイトに、彼女は15分遅れで到着した。俺は予定時刻の10分前には着いていたので実質25分待ったことになる。
ただ、せっかくのお買い物にこんなくだらないことで水を指すほどアホな俺でもない。伝家の宝刀「俺も今来たとこだし〜」を発動し、そのまま2人買い物を楽しんだ。
一緒に買い物と言ってもお互い見たいものが被ることはあっても全く同じということはない。ましてや俺と三笠さんは性別も違う。三笠さんはイケメン男子よりきゃわわな女の子が好きとは言っていたがその中でもある程度分散する。
以上のことを踏まえて「アニモイトで友達と買い物する時の最善策」を実施すると、
「じゃあ15分後にここで」
「健闘を祈る」
こうなる。
そう、これでいいのだ。お互い変に干渉しない。色々話すのはその後でも構わない。個々を尊重し、認め合った結果こうなる。
マジで何言ってるんだ俺は。
□
「さてさて、今日の戦果はいかほどで? 」
「今日もしっかりゲットしたぜ」
買い物の後は2人近くのカフェで休憩。
まぁなんか色々話をする。ここに来るのに目的なんてない。でも、なんとなく毎回ここで少し時間を使ってから帰っている。それが自然と俺達の間にできた暗黙のルール、ルーティンだった。
おっと、三笠さんにあれこれ言っておきながら2人カフェだなんて危機管理能力がなさすぎる? んなことわかっている。こんな所に策もなしにいたら万が一の事がある。だからもうその件に関しては手を打ってある…...
「毎回思うんだけどさ、この服装なんか中学時代を思い出して……いや、あの時はよかったんだけど今は違和感というか抵抗があるというか…...」
「まぁ、ちょっと我慢してくれ。今後俺みたいなやつが現れないとも限らない。もしそれが前川さんや奥峰さんだったらどうする? 何もかもすっ飛ばして1発スリーアウトでゲームセットだ」
「むぅ……」
不満はいくらか残っているようだがなんとか納得してもらえたらしい。俺の「服装だけでもオタクに逆戻り作戦」に。
でも、最近はすっげー美人なお姉さんがクソオタクだったりするからもうわからない。人は見かけで判断してはいけないとはまさにこの事。先日、今日のように三笠さんとアニモイトに行った時、なんか棚の前に美人なお姉さんがいるなあと思ってたら真剣にエロ同人読んでたからやっぱりわからん。
「ねぇ林くん」
三笠さんが新作らしいなんとかフラペチーノを飲みながら俺に問いかけてきた。
「今度コスプレイベントあるんだけどさ、一緒に行かない? 」
「コスプレイベント? 」
「そ。同人誌即売会とかじゃなくてコスプレのオンリーイベント。私も参加したことあるんだけど、せっかくだし林くんもどうかなーって」
コスプレイベント……SNSでフォローしているコスプレイヤー様方がよく口にしているのは見るが、実際に行ったことは一度もない。
現地に行かなくともSNSにあがった写真を見れば十分満足できるしな。
でも、これもいい機会。行ってみてもいいかもしれない。あと、三笠さんの生コスプレもう1回見たいし。あの時は名も知らぬコスプレイヤーとして見たけど、今は同級生三笠露として見ることになる。そういうの秘密を覗いてるみたいでなんかゾクッとする。
「そーだな。じゃあ行ってみようかな…...」
「ホント! ? やった! ! じゃあ林くんの分もちゃーんと用意しておくからね! 」
「は? 」
この時、彼女の発言を瞬時に理解し反撃ができなかったことを少し後悔している。
《なうろーでぃんぐ!》
「そう言えば三笠さんはどうしてコスプレを始めたの? 」
「ん〜・・・・・・コレ! ってキッカケは無いんだけど、アニメとかの可愛い女の子見てて私もああなりたいな〜って思って・・・・・・」
「なるほどなるほど・・・・・・いや〜自分を磨き上げられる人ってすごいと思うな。俺はそういうの興味が湧かないというかめんどくさいというか・・・・・・」
「ははん? でも林くんちゃんと着飾ればなかなかアリじゃないかな? 今度メイクしてあげるよ! 」
「じゃあお願いしようかな・・・・・・ってメイク?」




