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《066》
「友達……? 」
俺はその時、彼女の言ったことが理解出来なかった。
ちょっと潤いが普段より多めの目でこちらを見つめながら訴えかけるように放った言葉を理解出来なかった。
もちろん友達という言葉の意味は知っている。と思いたい。
ただ、なぜ俺はここまで困惑したのか。
5W1Hが意味不明すぎた。
学校の帰りに、(when)
アニメグッズショップで、(where)
クラスのイケイケ女子が俺に、 (who)
訴えかけるように、(how)
友達になってくださいと言った。(what)
こうして改めて板書するかのごとくまとめてみてもますますわからん。(why)
「え……それは構わないけど……なんでいきなり? 」
「えっと……その…….」
いつもの教室での三笠さんが偽者のように思える狼狽っぷり。これじゃあまるでコミュ障オタクみたいじゃないか! それは俺か! はっはっは!
「ここじゃなんだから……ちょっと外に……」
そっと周りを見渡してみると、俺たち一行はなんだかよく分からない注目を集めていた。
それもそのはず、アニモイトに似合わぬイマドキのJKと金髪少女がいるのだから何事もなくすすすっとやっていくなんて端から無理だった。すっかり「金髪のウィッグを被ってコスプレをしている女の子が周りをうろちょろしている状況」に慣れてしまっていて、本来感じるべき違和感を全く感じていなかった。慣れって怖い。
そんな三笠さんの提案ももっともだろうと、楽しそうに漫画本の棚を眺めていた小豆を引き剥がし、手を引いて店の外へと出た。
《067》
「じゃあ、ちょっとずつ話すね」
時間をおいていくらか落ち着いたのか、三笠さんの口調はいつものソレにほとんど戻っていた。軽めの雰囲気で、相手に対してヘラヘラと受け答えをする。まさにJK……
(かなり彼の偏見が混ざっておりますご了承ください)
「私ね、中学の頃はすっげー陰キャで芋な女の子だったの」
「え! ? 」
今の彼女の風貌、口調からは全くそんな想像ができない。むしろ正反対、対極に位置する存在なのだが。
「えっとね〜……あ、これこれ、中学の時の私」
するすると画面にいくらか指を走らせた後、三笠さんはピンク色の可愛らしいカバーのついたスマホを俺に手渡してきた。
その最新機種の大きな画面には、黒髪メガネでお下げの少女が写っていた。
確かにいかにもって感じだ。でも、これはこれの良さというか持ち味というか魅力があるんですよわかるかなぁ〜?
(かなり彼の偏見が混ざっておりますご了承ください。)
「こんな見た目で性格も良くいえばおとなしいって感じで友達もろくにいなかった。いつも教室の後ろの方でワイワイやってる奴らが羨ましくてさ〜そんでもって私は決意したの、」
「高校デビューを! 」
「そう……って気になってたんだけどあんたは一体何者……? 」
急に会話に参加してきた小豆にすかさずツッコミを入れる三笠さん。
きっとここまで気にはなっていたけど触れたら面倒だろうな〜でも気になるな〜とか思っていたんだろう。そりゃあこんなのがいたら気になる。至極当然のことだ。多分コミケ会場であった人以外はみんなそう思っていただろうし、今道を俺たちを横目に通り過ぎるサラリーマンやら他校性やらも絶対そう思っている。
「私? 私ですか? 気になります? 気になりますか? しょうがないですねぇ……」
「三笠さん、すまない。時間無駄に食うからこいつのことは後回しにしてくれ」
「あ、うん……そうする……」
特に頼んでもいないのに壮大な自己紹介を始めたところでスッとナチュラルに小豆から2人目線を外し元の位置に戻った。
思ってたより三笠さんが物分りが良くて非常に助かる。
「それで? 」
「それでね、やっぱりその、無事高校デビューは上手く行ってそういう友達もできたんだけど…...やっぱりオタクは抜けられなくて……」
落ちるのは簡単だが抜けるのは厳しい。それがオタク沼。池ではなく沼と表現するあたりでどんなものなのか察してほしい。
「だからこうやって隠れながら変装しながら休日とかにアニモイト行ってたんだけど、今日はどーしても帰る途中に寄りたくて……それで……」
途中までハキハキと喋っていた三笠さんは、小さな穴の空いた風船のようにどんどんどんどんしぼんでいった。心なしか体も最初より小さく見える気がする。
「それでね、せっかくバレちゃったらもうしょうがないし、友達にでもなっちゃおうかな〜て……林くんもオタクでしょ? 」
さも当然のように聞いてくる。
まぁ俺の風貌はそう見えるのかもしれない。
特に見た目に力を入れているわけでもないし、顔が特別いいわけでもない。普段活発に動くほうでもないし、そもそもオーラが全くない。
以前小豆に「先輩って生まれながらのオタクって感じですよね」とか言われたことがある。なんか傷付いた。
人を見かけで判断してはいけない。そう習わなかったのかこいつらは! まったく……
「うん、オタクだけど」
「だよね! やっぱり! だと思った! 」
あーそうですよ大大大正解! ! 百点満点のベストアンサー!
そうさ、俺は生粋のオタク。小学五年生の頃、昼寝をしていたためたまたま夜起きていた時に見た「げきおん! 」に引きずられ沼に落ちたんだよ!
あの時俺は恋に落ちたんだ……あずぴょんに……今はあんまりその名前に愛を叫びたくはないけど…...君に罪はないんだ……あぁ。
「やっぱり高校デビューしても根はオタクだし、そういうこと話せる友達欲しかったんだよね! いや〜ありがとうっ! 」
三笠さんはガシッと急に俺の両手をつかみ、ぶんぶん上下に振り始めた。何? ナンナノコノコ! ? スキンシップヤバない! ?
「あ、そうだな。うん。よかったよかった〜」
「あ、そうだ! あれ交換しよ! あれ! 」
急に元気になったと思ったら今度は胸ポケットからさっきの可愛らしいスマホを取り出し何やら操作し始めた。
「ほい! 」
俺に見えるよう向けられた画面には俺が小豆と話したりするのに使っている無料のコミュニケーションアプリの画面が写っていた。
そしてそのまま、三笠さんに操られるようにお互いの連絡先を交換。所要時間たったの30秒。今ではそこそこ多くなった「ともだち」の欄に『Tsuyu』というアカウントが増える。
アイコンは先日の文化祭に撮ったであろう女子3人の自撮り写真。今人気のSMOWがもれなく使われてる。いや、盛れてるけど。多分。
一応根はそのままでも今のポジションをキープするためかオタク趣味は完全秘匿のトップシークレット扱いらしい。
の割には俺と小豆にあっさり看破されたしセキュリティの見直しを俺からは提案したい。
「んーこの『Zero』ってのが林くんね! ちなみになんでZeroなの? 」
「嶺士郎の嶺を数字の零として0(ぜろ)……ってなんか恥ずかしいから説明させんなよっ! 」
「あはは〜ごめんっごめんっ! 」
中学までバリバリのオタクと言っていたが、この軽く薄っぺらく無駄に高いテンションは完全にアイツらだ。紛れもなくアイツらだ。
教室後方でバカ騒ぎしてるアイツらだ。
一体どんな鍛錬を積めば人間ここまでレベルの高い仮面をかぶることが出来るのだろうか。
まぁ、デキはいいけど外れやすいんだよなこの仮面。
《なうろーでぃんぐ》
T⑤
「それで、この金髪少女は何者?」
「えーっと......(ホントのことは言えないよなぁ…...)」
「私は先輩の後輩兼恋人です!」
「おぉ〜!やるじゃん林く〜ん!」
「適当なこと言うなアホっ!」
「アホとはなんですかアホとは!」
「「ぐぬぬぬぬ......」」
(とりあえずホントに仲はいいんだねこの2人......)




