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Missing √  作者: 双葉 ミリカ
√T
22/28

secret

 

 《065》


 人は見かけによらないとは確かに言うかもしれない。けどこの展開は衝撃的すぎるぞ! ?


「入ったな……」


「入り……ましたね」


 大したことのない、ただの好奇心でしていた尾行でこんなに大きな秘密を握ってしまうとは。これはまずいのでは……?


 三笠が入った後ゆっくりと自動ドアが自らの仕事を全うしてパタリとしまった。

 アニモイトのある駅近くの路地裏に一瞬静寂が流れる。


「とりあえず……どうする? 入る? 」


「そうですね……」


 2人とも予想外の出来事にどうすればいいか分かっていない。小豆はともかく俺はまさかそんなことは……みたいなスタンスでここまで来たのでそりゃもうびっくり大当たりって感じだった。


 まあとりあえず、とりあえず目の前にアニモイトがあるんだから入ろうという安直な考えで俺達もやけにゆっくり動く自動ドアをくぐり抜けた。


「いらっしゃませー」


 入口付近でCDかなにかの整理をしていたお姉さんが元気よく俺たちを歓迎した。

 敬語の対象が自分に向かっていると改めて考えるとなんか王様にでもなった気分だ。

 しかし王たるもの愚行は許されぬ。店員に横柄な横暴な態度をとるなど言語道断。借りてきた猫のごとく大人しく買い物を楽しむのが正しい姿勢だ。


「えっと……あれ、三笠は……? 」


 さっき入ったばかりなんだからすぐ見つかると思ったのだが、入口付近に三笠の姿は見当たらない。

 となると、やっぱり目的を決めていてそこに直行するまでのガチウーマン……! ?

 俺の中でおかしな三笠がどんどん組み上げられていく。


「先輩先輩! こっちこっち! ノダマルコ先生の画集ですよ! さすがド田舎、残ってたんですね! 」


 小豆が隣の棚の影からちょいちょいと手招きしてきた。にまーっと満足そうな笑みを浮かべて。

 ノダマルコ先生と言えばfakeシリーズの1つ、fake/ex(フェイクエクスタシー)のキャラデザインをしたことでも有名なイラストレーターさんだ。コミケなどに同人イベントにもよく参加しているが、その人気故に即完売。現地で手に入れるにはかなりの気合と準備が必要とされる。

 要するにすげえ人って思ってくれれば大丈夫だ。


 そんなお方の画集が入荷しているとは…...これは逃せない!

 その時嶺士郎に電流が走るっ! !

 瞬時にカバンから財布を取り出し中身を確認。所持金、たったの3000円っ!

 野口英世が、3人!

 そしてその画集、値段は2500円っ!

 買えば残金、500円となる!


 嶺士郎がこの先、お小遣いが支給されるまでできる贅沢は、うまい棒一日半欠片!


「うるせえ! 俺は買うんだ! 誰かのためじゃない。自分自身のために! 」


「先輩! 」


 不安そうに俺を見つめる小豆をよそに突き進む。俺は止まらない。

 小豆が手招くその角を曲がった先に、待ち構えていた…...


「え 」


「あ 」


 少女……三笠と目が合った。

 同じ棚の少し向こうからこっちに向かう形で右足を踏み出したまま固まった彼女を、俺は呆然と見つめることしか出来なかった。


 衝撃的なシーンに遭遇した時雷に打たれたような感覚なんて比喩を用いるのを聞いたことも見たこともあるが、この言葉を使うのはまさに今この時なんだなぁと身体中のありとあらゆるところに存在するであろう感覚でバッチリ感じ取った。


「なんで……その……林……! ? 」


 飛び出るかと言うぐらい見開いた目に、わなわなと震える身体と声音。見るからに焦っている。彼女の心中を一言で言うならばこうだ。


「やべぇ……」


「あ、えーっと……なんだっけ、あー……三笠さん? クラスメイトの……」


「え、あ、はい! 」


 相当焦っていたのか、少しは誤魔化せばいいものを随分元気のいい返事をいただいた。健康観察簿には「みかさ つゆ 元気」と赤ペンで綺麗に書いておこう。


「あ……やっぱり……? 」


 相手は一応クラスメイトとは言えどほとんど接触はなく、さらに住む世界も真逆 (と思っていた) 人間。だから声は小さく、たどたどしく、いつもの威勢はどうしたんだと言われそうだがそこは目を瞑って欲しい。

 自分で言うのもなんだが俺は別にコミュニケーション能力がない訳では無い。よくコミュ障だと自らを卑下するが、実際のところ俺は自分を完璧なコミュ障だとは思っていない節がある。


 人に話しかけられれば返すことが出来る。

 話しかけることも出来る。

 ワイワイ騒ぐことも出来る。

 それでも心のどこかで「俺はコミュ障ではない」と言い切るのを何かが妨げているような、引っかかっているような気がしてならなかった。

 それが最近、というか2回目に入ってからようやくわかった。俺は女の子が苦手なんだ……!


「えっと……その……三笠は、どうしてここに……いるんですか? 」


 女の子、特に初対面に近い女の子は距離感がわからなくこんな具合になってしまう。

 男だったら特に問題は無い。大体下ネタで仲良くなれる。

 ただ、女の子との距離感というものが未だに測れない。それを測るものさしを持ち合わせていない。

 どこまでフレンドリーに行っていいのか。

 どのくらい引けばいいのか。

 この言葉はつかっても大丈夫なのか。

 そもそも今相手は何を考えているのか。


 何もかもが「測定不能」と表示され、打つ手をなくし、フリーズ。

 毎回その流れの繰り返しだ。

 そういう時は大体迅になんとかしてもらう。

 あいつはそういうとこの受け答えが神がかりにうまいので何の心配もいらない。本当に助かっていますありがとうございます…...


 でも! 今はそんな助け舟の来ない!

 隣にいる金髪は状況があまり飲み込めていないのか呆然と俺の顔を眺めている。


「いやー……欲しいものがあってその帰り道に……あっ! 」


 神崎さんじゃないがこの人もこんななりだが根はめちゃくちゃ素直で真っ直ぐなんじゃないか?

 ここまで綺麗に墓穴を掘る人を俺は初めて見た。あと顔の周りにマンガの汗マークが見える人も。


「あ、そういう事ね。邪魔してごめん。それじゃ」


 あたふたしている三笠さんから目をそらしそのままくるっと体をターンさせる。

 ここでの正解選択肢はもちろん「逃走」!

 逃げるが勝ち、触らぬ神に祟りなし、なーに、恥ずかしいことではない。

 双方のこの先を考えればこれ以上に素晴らしい行動はないはず。我ながらとっさの判断力に身震いするぜ。


「あのー! この前の冬コミでモシュのコスプレしてましたよね? 」


 アホかてめえは!

 振り返らなくてもわかる。今背後から聞こえてきた声はあいつしかいない。

 余計なことをしやがって! このハゲ!

 違うだろ!


「そんなお葬式みたいな名前のキャラじゃないです! ! ラシュですラシュ! ! あ…….」


 お前も綺麗につっこむんじゃねえよおお! !

 アホか! ここにはアホしかいねえのか! ?

 なんで俺の気遣いに気づかない。いや、気づいた上でポイしただろポイ! !


 人間たった数秒、ここまでの短時間でこんなに怒りを煮えたぎらすことが出来るとは知らなかった。このアホ2人は手に負えない、その時俺は確信し、そして諦めた。


「三笠さんさぁ……なんなんすかねぇ……」


 一度は背を向けた三笠さんと小豆の方へ再度ターンする。


「やっぱりこの人だったんですよ先輩! 」


「なんで言っちゃったんだろ……あー! 」


 振り向いた先には、目をキラキラ輝かせこれでもかというぐらいの特大スペシャルスマイルを向けてくる金髪の後輩(? )と自らのここまでのつもりに積もった失敗の山に押しつぶされそうなイケイケ(だった)クラスメイトの姿が見えた。

 なんつー絵面なんだこれは。異色すぎんよ。


「三笠さん……? 」


「はい……」


 いつも元気なのに恐ろしいぐらい静かだ。怖い。これはこれで恐怖を感じる。


「別に三笠さんが隠してるんならだれに言うつもりもないし……大丈夫だけど? 」


 この情報をどこかにリークしたところで、俺の得にはならない。もはや町内ゴミ拾いボランティアより生産性が低い。あれはジュース貰えるし。


 その瞬間、今までこの世の終わりみたいな顔をしていた三笠さんの表情に光が差し込み、急速に「安心した顔」にトランスフォームしていった。

 本当にわかりやすいんだよなあこの人。


「ホントに! ? ホントのほんとに! ? 」


「ここ嘘をつく必要ないし」


「よかったぁ……」


 ホッと肩をなでおろす彼女を横目に見ながら俺は次の段階へと移動を開始した。


「いだっ! 何するんですか先輩! 」


 小豆はしっかりチョップの決まった脳天のあたりを細い両手で抑えながら、涙目で俺を睨みつける。

 身長差、及び前のめりな体勢から自然に上目遣いが作り上げられているのが嶺士郎的にポイント高い。


「お前なぁ…...余計なこというんじゃねえよ…...」


「なんでですか〜」


 やはり分かっていないのかギャンギャン抗議を続けるも俺はそれを華麗にスルーする。


「あの……林くん……」


「ん? あぁ、なんすか? 」


 こうなってしまえば相手が女の子でも関係ない。立場はハッキリしたし相手がどんな感じの人かもわかった。

 さぁどんとこい何でも来い! 鮮やかに受け答えしてしんぜよう!


「友達に……なりませんか…...? 」


 そんな予想外の一言に、RPGのモンスターのような声を上げてしまったあたり、俺はまだまだコミュ障という称号を捨てることはできないのかもしれない。


 そんな気がした。

《なうろーでぃんぐ》


「先輩そういえば文化祭のあたりからの早川さんのこと下の名前で呼んでますけど何かあったんですか?」


「いやー......別に?」


「なんですかそのごまかしの顔は…...なんか気持ち悪いです......」


「ちげえよ!そんなんじゃねえ!つーか今まで苗字で読んでたのがおかしかったんだよ!仲いいのに…...」


「あー!照れてる!先輩赤くなってブフォ!」


「あーもうあっちいけ!しっし!」


(でも私は知っていますよ。先輩は最近私のことも名前で呼んでくれてることを......!)

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