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  作者: 蒼山詩乃
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 この村は極端すぎるぐらいに『穢れ』を嫌っている。

 特に「魂」というよりは自分を構成している自己意識が微塵でも穢れてしまうことに関して、ひどく敏感なのだ。

 要は変な自尊心を他の村の人よりも無駄にあることだと、僕は認識している。

 そんなことをも全く考えたことがないような顔で、村人たちは一日一日を質素に暮らしていた。

 晴れの日は畑仕事を日中続け、夜は静かに寝息を立てる。雨の日には縄をなう。娯楽も何も無い、子供すら一緒に遊ばせようとはしない。勉強もしていないのだろう、前に子供たちに見せた本の文字をひとつも読めもしなかった。

 そして土地も見所が無くどこの国にも所属していない、ある意味無法地帯である。

 そんな村にも『祭』が二十年ごとに行われる。

 自分たちの「魂」を綺麗にし続けるために、この土地に住む神に稲の奉納を行い、最後には神社の巫女が神楽を舞い、最後には神楽の舞台にいた六人の男性が剣を構え、巫女の胸を六方から貫くのだ。その際使った剣は湖で洗った後、棄てることになっている。

 その巫女の魂に村人たちは己の罪や穢れを預け、天に持ってゆき浄化してもらう、という考えなのだろう。

 巫女は神社を管理している一族かその分家から一人、女の子をその『祭』を行った後決め、世話係の元で二十年間育て上げる。

 その巫女にずっとついている監視役兼護衛が、その女の子と同じ年に生まれた男の子であることは決まっている。『祭』が終わった後、その監視役は村から離れることも決まっている。

 つまり、美咲と僕のことだ。

 小さい頃から何をするにもずっと一緒にいて、家族同然に接してきたのだ。この二十年間、そんな結末がとっくの昔から決められていることなんて、耳にタコができるほど聞かされていても、体が鋏みでバラバラ綺麗に切り取られて分解された紙になった気分を味わったことは何回もある。

 それは年齢を重ねるにつれて、顕著になっていた。

 ここ最近では、遠くにあったはずのものが近くまで迫ってくることに対する現実感が辺りに撒き散らしては、村の雰囲気が重々しく誰かを処刑する数日前といったものだった。

 彼女は悪いことを一切していないのに。

 村のみんなと同じように息をして、体を動かしているだけなのに。

 巫女の家で勉強をしている僕らを近くにいた子どもたちは、「穢れている」と連呼したことを思い出す。

 ただただ無邪気に面白がって笑う子供たちが、こんなにも腹の底から恨めしく、でも何も言い返せないことを呪った。

 では、あの子達と僕らが逆だったら。

 こんな感情なんて持っていなくても良かったのか。

 あの子達と同じように、何も知らず無垢に、純粋に、天真爛漫に、笑っていたのだろうか。

 もし、神様がいるのならば。

 どうして、彼女が殺されなければならないのでしょうか?


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