3話 交わらぬ愛情
「では、エリオール連合国(※1)は我がぺルジェ王国の属国化を目論んでいて……。」
「手始めにアルベール家(※2)と有力貴族を結びつけようと……。」
モクレンの蕾が固く閉じる小ヴェルリナ宮(※3)。アレンはサブリナを呼び出し、それぞれが集めた情報を交換していた。
「フローラは思慮深い方ではないし、印象操作さえすれば発言権を持たせられる。侯爵家という立場も利用しやすい。」
「敵からすれば扱いやすいと言うことですわね。」
ざあっと二人の間に風が吹く。寒さに眠る草木の前では、二人の間を取り持つものは何も無い。
「私はフローラの方を何とかしますわ。陛下は上層部の方を……。」
「頼む。あれでも一度は愛した女だ。」
サブリナは何も言わずに立ち去ろうとした。
「待て。」
「なんですの?」
アレンは前のめりになりながら、立ち上がる。
「……随分、落ち着いているな。」
「どういう意味ですの?」
アレンはしばし口ごもる。
「少しくらい嫉妬するかと思った。」
サブリナは腕をぎゅっと握る。
「私をそんな可愛げのある女だと思って?」
「いや、そうだ。そうだったな。」
振り返ることなく、サブリナは離宮を去る。
「(私たち、もう終わったでしょう─────?)」
置いてきたはずの後悔が、サブリナの身を裂く。
──────────。
「証拠は揃いまして?」
「はっ、陛下の密偵が目撃した宰相グラヴィルとフランシスの会合。内容もフランシスが内側から入り込み、上からグラヴィルが叩くものと。」
「やはり。」
「ただ……やはり難しいのはフローラ嬢との婚約です。何せフローラ嬢を利用しようとしている、という証拠がない。」
サブリナはふう、と息をつく。
「きな臭いところがあっても、フローラは証言するはずがありませんし……。」
「では、やはり……。」
「私が引き出しますわ。」
「そんな、危険です!」
サブリナは言い終わる前に、ハンスの胸に飛び込んだ。
「……ハンス、あなたは私だけですわね?」
「き、急に何を?」
「私以外愛しませんわね!?」
「……もちろんです。」
「私が老いて美しくなくなっても!?」
ハンスは唇をサブリナのそれに置く。2人の影はしばし重なり合っていた。
「誓います。このハンス・グザヴィエ・ド・ギーシュ。今までもこれからも、私の女性はあなただけだと。」
「……信じてますからね。」
ハンスはサブリナを強く抱き寄せた。
冬の淡い光に、二人の影だけが長く揺れていた。
※1……ぺルジェ王国の敵対国
※2……フローラの家系。侯爵家。
※3……王宮の離宮




