久しぶりの大広間
盾役の男が、短く名乗った。
「ゲイルだ。よろしく頼む」
続いて、剣を肩に担いだ前衛が一歩前に出る。
「剣士のハンスだ」
軽い挨拶のあと、
ハンスは自然な動作で彼女の手を取り、その甲に口付けを落とした。
――は?
反射的に、声が出た。
「待て! トワは俺の嫁だ!」
……あ。
しまった。
空気が、一瞬止まる。
彼女はきょとんとしたあと、
堪えきれないように笑った。
「あははは! みんな、よろしくね!」
明るく、屈託のない声。
……まったく、響いてない。
気を取り直して、探索を始める。
今回は迷いなく、地図を細かく書き込みながら進んだ。
曲がり角。
手信号。
魔物だ。
自然と戦闘態勢に入る。
エンカウント。
初手は慎重だったが、
数合も交えれば、連携はすぐに噛み合い始めた。
盾で受け、
剣で切り込み、
魔術で削り、
治癒が追いつく。
順応力が高い。
いい前衛だ。
戦闘が終わるたび、
彼女がぱちぱちと手を叩く。
「みんな、強い!」
ハンスが肩をすくめて笑う。
「惚れた?」
「惚れ……てなーい!」
即答。
しかも楽しそう。
……よし。
脈はない。
「まさか、古代遺跡の横に一戸建てを建てて、研究したい奴がいるとはな」
ゲイルが呆れたように言う。
「俺自身も、仕方なく、です」
本音だった。
選択肢がなかった。
やるしかなかった。
休憩を挟みながら、進む。
食事の時間。
保存食を広げると、二人の反応が分かりやすかった。
「美味い! 最近流行りのドライフード、クオンが作ってたのか!」
「助かってる。正直、救世主だな」
「気に入ってくれて、嬉しいよ」
彼女が、楽しそうに言う。
「永久就職先、決まったね?」
「……俺、戦闘魔術師だからな!?」
笑いが起きた。
久しぶりだ。
パーティを組んで、
ダンジョンに潜って、
戦って、笑って、生き残る。
……生きてる、って感じがする。
回廊の壁画を見ながら進む。
祝福の流星雨を降らせる女神と、
祈りを捧げる人々。
史実。
伝承じゃない。
すごい話だよな。
やがて、大広間へ続く扉が見えた。
重厚な扉を、慎重に開く。
警戒を解かないまま、足を踏み入れる。
中央に、祭壇。
俺は、喉を鳴らした。
(……頼むぞ)
灯りを展開し、
ゆっくりと近付く。
……ない。
…………ない。
………………魔術陣が、ない。
背筋が冷えた。
「……嘘、だろ……」
声が、震えた。
「……確かに、ここに魔術陣が描かれていたはずだ」
あの日。
先輩たちと調査を始めた、大広間。
床一面に、
幾重にも重なった魔術陣があった。
――まさか。
俺が、飛ばされた日より後に。
……描かれた、ものなのか?
力が抜けて、膝から崩れ落ちる。
駆け寄ってきた気配。
差し出される、ハンカチ。
……また、泣いていた。
悔しいのか。
怖いのか。
分からない。
ただ、
手がかりが、消えた。




