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プロローグ
「愛してる」
夜は静かで、吐息の温度だけが近かった。
囁くような声は、確信に満ちていて、迷いがない。
トワはその言葉を受け止めて、少しだけ考える。
それから、同じように返した。
「……私も、愛してる」
声は穏やかで、表情も柔らかい。
けれど、その言葉がどこに落ちたのかは、
彼女自身にも分からなかった。
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「古代遺跡ダンジョンが発見された」
ギルドの空気が、わずかに変わる。
未踏破――その響きに、期待と緊張が混じる。
「今回は軽い調査だ。本格的な踏破は後になる」
戦闘魔術師クオンは、
先輩たちの背中を見ながら、静かに息を整えた。
初めての未踏破ダンジョン。
胸の奥が、理由もなくざわつく。
石造りの入口は、ひどく整っていて、
長い時間が流れた痕跡を感じさせなかった。
「行くぞ」
短い合図とともに、一歩、足を踏み入れる。
まさかそれが、
自分の人生で、いちばん深く、
何かを残す場所になるとは――
この時は、まだ知らなかった。




