第2話 魅惑のバスタイム
王室の者だけが使用を許された広い浴室。
そこで、仔猫は大きな桶の中に入れられ、王子の着替えを待っていた。
「にゃぁぁ……」
(リアン王子と一緒の風呂…前世では絶対に考えられません…)
「もう少し、待っててね。いい子にするんだよ」
「にゃ!」
(ガラスの向こう側で、あのリアン王子が衣服を脱がれている……)
「…にゃあ」
仔猫は天にも昇る顔で鳴きながら、桶の中で大人しく待っていた。
「一人にしてごめんね」
ガラスの扉が開いて、リアン王子が浴室に入ってくる。
すると、ちょうど床に置かれた仔猫の眼前に彼の下半身があった。
「にゃっ!」
(リ、リアン王子!)
彼は腰にタオルを巻いており、いつもとは違って、前髪を耳にかけていた。
「ふにゃぁぁぁ……」
(しなやかな身体…こちらの髪型も凄くお似合いです…)
仔猫は、またしても小さな頭に血が昇ってふらつく。
「大丈夫かい?」
彼が桶から仔猫を抱きかかえると、生身の身体がもふもふの毛に触れる。
「にゃぁ……」
(リアン王子のお身体、すごく大きくて立派です…)
「にゃっ!!」
リアンはそのまま仔猫を床に置くと、優しく身体にお湯をかけた。
そして、石鹸で泡を作ると、仔猫の毛をシャンプーするように丁寧に洗っていく。
「んにゃぁぁぁ……」
(なんて、気持ちいいの…)
仔猫は目を半開きにしながら、その愉悦に浸っていた。
「よしよし、綺麗になってるよ」
そのまま、リアン王子との魅惑のバスタイムを楽しんだリリアナであった。
「にゃぁ!」
(私、仔猫になって、最高かもです……!)
◇
「すっかり綺麗になったね」
お風呂からあがった仔猫は、自慢のふわふわの毛がさらに艶を増していた。
濡れた仔猫を丁寧に拭き、仕上げに王子の風魔法で乾かしてもらったのだ。
「にゃ!」
(貴方様のおかげです…)
仔猫は元気よく返事をすると、王子の足にすり寄っていく。
そして、猫なで声で身体をぴったりとつけ、全身を使い、感謝の意を表していた。
「君、本当はそんなに人懐っこいんだね」
リアンは喜んだ様子で仔猫を抱いて、背中を優しく撫でる。
「にゃん!」
(懐いて当然です。私は、前世から貴方だけを見てるんですから)
その時、机の上に置かれた”ある物”が仔猫の目に止まった。
白い花が装飾された銀のブローチ。
「……にゃ…」
(あれは、前世で私がリアン王子にプレゼントした品…)
「にゃっ…にゃん」
(ずっとつけてくれてないなぁと思ってましたが—―)
(大切に持っていてくれたんですね!)
喜んだ仔猫は、王子の腕から降りるとそのブローチに向かって飛び上がった。
「どうしたの?」
「にゃん…にゃん!!」
(私が、これを貴方にお渡しした)
(リリアナ・ラグドールなんです!)
仔猫は銀のブローチを口に咥えて、王子の前に差し出した。
「これは—―」
その瞬間、リアンは先程までの和やかな笑顔から一転し、表情が曇っていく。
「とある女の子から貰った物だね。本当は返そうと思ったんだけど…」
「彼女は、処刑されてしまった」
そう言って、リアン王子は銀のブローチを仔猫から受け取る。
「……にゃ………」
(悲しい顔をしてる……)
「……にゃん、にゃん!!」
(リアン王子、私はここにいます!!リリアナは猫になって貴方に会いにきました!)
仔猫がリアン王子の足にすがりつくように、必死で食らいつく。
「……まさか、あの変わった女の子がこの国を乗っ取ろうとしてたなんてね」
「にゃ……」
「にゃん!!」
(まさか、そんなこと考えたことありません!)
(私はただ貴方が好きなだけです!!)
仔猫は必死で鳴いて、リアン王子の気を引こうとする。
「ごめんね」
「こんな暗い話をしても、君には分からないよね」
彼はそう言って、そばにあった紐を輪にして、仔猫の首に巻いた。
そして、銀のブローチを首輪につけてやる。
「このブローチは君にあげるよ」
「にゃ…?」
(え……)
仔猫は自身の首に取り付けられた首輪とブローチを、じっと見つめる。
「うん、すごく似合ってるね」
「……にゃん」
(リアン王子から、はじめてのプレゼント……)
「にゃんっ!!」
(最高な気分ですっ!!)
嬉しそうに飛び上がる仔猫を見て、満足げなリアン。
「にゃん……」
だが、仔猫は静止する。
(でも、もとはといえば、私があげたもの……)
(なんか複雑です…)
「なら君の名前は、リリーがいい」
首輪にある銀のブローチに描かれた百合の花を見て、リアン王子が言った。
「ずっと君って呼ぶのも変だったし」
「これからは、リリー。そう呼ぼう」
彼の言葉に反応するように、仔猫が鳴く。
「にゃんにゃん!」
(すごく嬉しい……)
(リアン王子に、プレゼントと名前まで貰うなんて)
「にゃんっ!!」
(まるで夢のようです!!!!)
仔猫はそのまま、王子の周りを飛んで回ると、その喜びを最大限に表現した。




