第3話 愛され仔猫リリーになりました
朝日が差し込み、もふもふとした白い毛がより輝きを増す。
ベッドの上では、眠気まなこの仔猫はあくびをしながら、大きく背伸びしていた。
「おはよう、リリー」
隣にいたのは、マルタニアの王太子、リアン・ウィラード。
今では彼女の飼い主であり、前世から愛する人である。
「にゃん」
(おはようございます、王太子様)
処刑された悪女リリアナ・ラグドールは、目を覚ませば愛らしい仔猫となっていた。
王子に拾われ、リリーと名付けられた彼女はいま、こうして一緒に暮らしている。
「朝食にしよう」
リアン王子の声。
低くてゆったりとしているが、リリーの名を呼ぶ時だけは優しく温かい。
暫くすると、使用人が入ってきて、小さな皿とガラス瓶のミルクを置く。
王子は女嫌いゆえに、私室には限られた者しか入れさせない。
「お召し上がりください」
そっと、目の前に置かれた真っ白なミルク。
前世のリリアナであれば、皿を舐めてミルクを飲むなんて、決して考えられなかった。
でも、仔猫のリリーとなった彼女の中で、本能がそれを欲していた。
「にゃっ!」
リリーは一心不乱にミルクを舐める。
舌先に伝わる甘さ、温度、まさに一級品のご馳走である。
「……にゃん」
(こんな贅沢…幸せすぎて倒れそう…)
◇
朝食後はいつも、リアン王子の膝の上で、リリーはごろごろと喉を鳴らす。
王子の細くて長い指が背中を往復するたび、小さな身体が震えてしまう。
「んにゃん…」
(気持ちいい…)
彼はそれを満足そうに眺めると、優しく微笑んだ。
冷徹と噂される王子は、人前では氷のように冷たかった。
だが、彼女にだけは違った。
優しい手つき、低く囁く。
「今日も可愛いよ、リリー」
「ふにゃん……」
(これです、これが私の求めていた”愛”なのです)
「にゃん…にゃん…にゃん」
(ここは天国なのでしょうか…)
前世のリリアナは、いくらアピールしても振り向いてもらえなかった。
茶会に、舞踏会。式典に、散歩。
どの場面で偶然を装って、出会っても彼女を見てくれることはなかった。
一方的な挨拶で終わってしまう。
ーーだから、前世でリリアナはあの事件を起こした。
でも、今は違う。
仔猫という身体になった私を、愛してくれている。
「…にゃん!」
(朝から、最高の気分です)
◇
昼になると、リアン王子は机で書類に目を落としていた。
その下では拗ねた仔猫が、膝の上に転がって気を引いてみせていた。
「にゃんっ!」
仔猫が鳴くと、彼はふと顔を下げる。
「おっと、今は仕事中だから待っててね」
しかし、抱き上げられて、床へと戻される。
「…にゃん」
(リアン王子はお仕事中、邪魔しちゃだめです…)
リリーは不満そうに小さく鳴くと、じっと眺めて足元で待っていた。
潤んだ瞳、もふもふして真っ白な毛並み、小さな手足。
その仔猫の愛らしい姿が、王子の胸に突き刺さる。
「…こっちにおいで」
すると、たまらず仔猫を呼びよせた。
「にゃん!」
(リアン王子、愛してますっ!!)
リリーは、勢いよく彼の膝に飛び乗って、もふもふした毛を撫でられる。
(決めました…)
私は王子の膝の上で生きる。
リアン王子と一緒になれるのなら、猫でもなんだっていい。
さらに、王子の手が仔猫のお腹を優しく撫でる。
「にゃん…にゃん」
(ずっと一緒です…リアン王子…)
だが、リリアナは人が猫になるということが、一体どういうことなのか。
この時はまだ気づいていなかった――。




