21話
恥ずかしがって水晶の間からなかなか出てこないお館様を何とか説得し、クロと三人でダンジョンの外に出る。転移門を使わないのかと聞いてみても、せっかくだから外の景色が見たいそうだ。
その際にクロも濃密な魔性の気配を放つ杖を与えられた。杖術の使い手であるクロからすると、扱いやすい上に魔法の増幅率が桁外れで、しかも魔法防御を無効化する特殊能力まである杖の凄まじさに目を輝かせる。
紅い雪の積もった地上の城の予想外の寒さに驚いたり、ついうっかり太陽を直視してダメージ受けたりしたのはまぁご愛嬌か。
片方の翼だけで10メートルはあるであろうドラゴンを呼び出し、飛び立った……が、はしゃぎすぎて落ちそうになったので俺が後ろで支える。仮に落ちても怪我一つしないだろうけど、眷属としては一応ね?
途中クロは自分の翼でドラゴンの後ろを飛び、落ちても大丈夫なように気を使ってくれた。
自分の足で走るよりも、ドラゴンの飛行速度の方がはるかに速いのであっという間にアルファストの上空。雲の上で未だ混乱している王都を見下ろす。
「現在進行中の作戦を説明いたします。第一段階としてつい先程、蒼鏡姫の前身である勇者各務紡を捕らえた際、我々の行動が王を始めとした王族が狙いであり、混乱により国力を低下させる為であると匂わせております」
「うむ、黄金の鏡が狙いであると悟られぬようにだな?」
「ご賢察恐れ入ります。第二段階は、各地の食糧の保管庫であり、軍の駐屯する砦に順番に火を放ち、王都から騎士を援軍に向かわせるよう仕向けます」
「消火など倉庫番一人で何とかなるのではないか?」
それはちょっと過大評価しすぎかな? 確かに悪魔なら魔界から水蒸気玉でも買えば簡単だろうけど、人間は殆どそんなことできないのだ。
「火を放つ小さな魔物を多く召喚する手筈ですので、大勢動員する必要があります。また同時に数か所放火しますので、どこか一か所だけ守るような判断をすれば民衆を守る力ないと判断されるので、さらに分散させることでしょう」
ふむふむと、感心したように頷いてるお館様。多分だが、皆でまとまって王城に突撃とか考えてたんだろうなぁ、俺たちのこと心配してたし。
「そのまま範囲を広げていき、勇者が地方の救援に向かうほど手薄になれば、作戦の第三段階に入ります」
「恐らく4人の勇者の内一人か二人は残りますが、そこは私たち眷属にお任せください。捕えて勇者の血をお館様に献上いたしますわ」
「うむ、そして我が黄金の鏡を奪取する。それが叶わねば破壊するというのだな」
「このドラゴンも見える場所を旋回させれば、さらに守備兵は減るでしょう」
「うむ、うむうむ! いけるぞこの策が成れば我が城も20階層、否30階層まで深くできるやもしれぬし、天使の妨害もなくなる」
はしゃぐお館様を見て、なんか変なフラグが立った気もするが、注意だけはしておこう。俺とクロは頷き合うのだった。
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王都から見て東西南にある三つの砦は早馬で約一時間の距離にあり、周囲の農村を守る兵が常駐していて、災害が起きた時の避難場所も兼ねている。それぞれ王都の住民が、一年は飢えないだけの食糧が保管されている。
指定した日の夜明けとともに、潜伏した配下の者が砦の内部に放たれた火鼠を約百匹召喚する。火鼠とは尻尾の先端が蝋燭のように燃えている魔界生物で、魔界ではランプ代わりに飼われてたりする。
見た目は尻尾の細いハムスター。特徴はむやみに範囲の広い雑食性で、とにかく何でも尻尾の火で焼いて食べる。籠の中に生ごみを放り込めば綺麗にしてくれる世話の楽さが、ペットとして人気がある秘訣だろうか?
そしてなんでも食う火鼠だが、食べ物が複数あるなら真っ先に狙う好物が木材だ。特に水分を抜いた木材は燃やしやすいせいか、先を競って群がるほど。そして嗅覚も鋭く餌のありかを見逃さない。
下手に地上にばら撒けば滅亡まっしぐらな危険生物のような気がするが、召喚するのは全部オスで繁殖する心配はない。っていうかメスは滅多に生まれないそうで管理して個体数を調節してるそうで、売ってくれないそうだ。
そんな火鼠を百匹ほど放り込めば、建物は倒壊し、食料もあっという間に焼かれ食われるだろう。そして火のついた蝋燭が走り回ってるようなものなので、少しすれば砦中から火の手が上がる。
ただ多少すばしっこくても見つけるのは容易だし、子供でも倒せるのでそこまで致命的な損害は受けないだろう。
ドラゴンの背に乗り上空から煙の上がる砦を眺める。お館様は援護射撃してはダメかとか言ってきたが駄目です。焼け残った食料を更に消費させつつ不満を溜めさせるのに殺傷力のある魔物は呼ばせなかったんだから。
決して追加予算の前に立てた作戦だからケチったわけではない。ローコストで大きな成果を出す方針を選んだだけだ。
「お館様の攻撃で兵士が全滅しては困ったことになってしまうんですよ。ほら恨みを抱いて死ぬ覚悟でダンジョンに入られるよりも、少ない食料を同国民で奪い合って貰いましょう。そうすればこっちに関わってくる暇は無くなりますから」
「後は疲弊したところで食料をこっそり支援しつつ、こちら側に有利になるよう動かすのも良し。西のシーグマにダンジョンよりもアルファストを攻めた方が容易く領地を得られると唆すも良しですわ」
「うむ、先ずは黄金の鏡ぞ、この件が終わったら状況を見極め行動を決めるとしよう」
「かしこまりました」
王都上空に戻ると、騎馬の兵士200人ほどがそれぞれ砦へ向かったのを見届けて、ダンジョンに戻る。
「第二段階は本来は援軍がいつ来てもいいように、一週間かけて範囲を広げ砦に火を放つ予定でした。援軍がない以上、我らだけで王城に攻め入るのであれば、監視を続け好機と見れば即座に攻め入り、黄金の鏡を奪取に動きます」
「その間に何かするべきことはあるか? 蒼鏡姫の気持ちの整理がつくまで……いやかつての仲間と戦わせるのも酷であろう、あれはどうにも情に深いところがある、だからこそ鬼人族と相性が良かったのだが」
悪魔になったその日のうちに妹攫って、俺に差し出してきたクロはどうなんだと思うが、内心重圧をかけ続けた国が嫌いだったみたいだし、その辺は立場の違いか。
「時機を待つのも戦のうちですよお館様。恐らく今日と明日は大きく動かないでしょう、いつ出撃できても良いように体調を整えてくださいませ」
「うむ、では我はちと蒼鏡姫の様子を見てまいる。お前たちも監視は部下たちに任せ休むが良い」
「私は部下たちの勉強の続きがありますのでそちらに。セツ様は大立ち回りでお疲れでしょう、お館様のおっしゃられる通り休まれては?」
そう言えばオルザインから戻ってからずっと動きっぱなしで休んでなかったな。
「部下たちの命令系統をはっきりさせるのに話したかったけど、その辺は蒼鏡姫の踏ん切りがついてからにするか。それじゃ俺は寝る」
「今のところセツ様直属はエーコさんだけですから、何かあったら彼女を通すようにしますので」
なんかいつの間にか影狐が俺の秘書的ポジションに収まってるというか、クロは何故か伝言を彼女に任せたがるんだよな。以前言ってた緊急時以外は誰か仲介させてワンクッションおくようにしてるんだろう。なぜか意地悪そうな笑顔を浮かべてる気がするが、疲れてるから気のせいだろう。
「任せた。なんか休むと決めたら眠くなってきた」
「おやすみなさいませ」
作戦第一段階の成果が出るまで大人しく英気を養うとするか。




