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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
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22話

 作戦開始から数日経った。頻繁に俺の部屋にやって来る影狐の報告を受けて、思っていた以上に王国側の対処が早く、被害が少ないのに頭を悩ませていた。お館様の分身も殆どダンジョンに戻り万全の時よりもさらに強くなり、そろそろ奪還に出る時期なのにコレは拙い。


「廃材を広場に集めて一網打尽か。これなら確かに現場の兵だけでも対処できそうだ、初見の魔界生物の筈なのによく観察するものだ」


「はい、それと一部の者たちは人間に対する憎しみから、直接攻撃に出て返り討ちに。分かってるだけでも5人は死亡もしくは捕らえられました」


「捕らえてもろくに情報は与えてないからすぐ処刑だろうな。クロの容姿くらいはバレたと思った方が良い、後は第二城壁内部の間取りか」


 転送のカギで送った場合、地下三階にある配下たち用の居住スペースの一番下層に送られる。ここには強力なモンスターとそれを指揮する権限を与えた配下がいて、送ったのが人間なら拘束して牢に入れて、同胞なら保護するようになっている。


 本来のダンジョンは第一城壁内部の城から入るが、住居スペースは侵入者が立ち入れないよう区画が独立していて、第二城壁内部、クロの拠点の砦に出入口がある。


「命令違反の上に捕らえられて、ダンジョンの情報を漏らすなんて最低ですね!」


「恨み辛みは命令だからと言って無視できるものじゃない。逃げ足の速さだけを見て、その辺りを考えなかった俺の失態だろうな」


「そ、そんな事はありません!」


「命令した者が命令を受けた者の失態の責を負う、そういうものだ。それに予算をケチったせいで思ったよりも作戦の効果が無かったからな、併せてお館様の叱責を受けるさ」


「で、では私も……」


「お前は拠点の管理者で、この作戦とはあまり関係ないだろうが」


 とりあえず軽いデコピンで黙らせ、最下層へ向かう。朝議の部屋に入るとお館様を中心にクロと、眷属になってから部屋に籠っていた筈のカガミがお茶を飲んでいた。


「お寛ぎのところ失礼いたします」


「おぉ、紅雪鬼かよく来た。ほれ蒼鏡姫は作ったこの『おはぎ』なるもの美味であるぞ、お前も食べるのだ」


 俺が部屋に入ると、すぐにクロが立ち上がってお茶を淹れてくれる、この匂いは抹茶か?


「この緑色のお茶は最初は苦いばかりだと思いましたが、お菓子を食べてからいただくと、口の中に残った甘みと合わさって本当に美味しいですわ」


「砂糖をたっぷり入れると美味いぞ」


 とりあえずお館様は指に付いた餡子を舐め取っちゃいけません、お行儀悪いですよ。その点クロは黒文字(大きめの爪楊枝みたいなもの)を使っててなんと言うか上品に見えるな、和菓子食べるの初めてなのに。


「お館様お忘れですか? 俺も元人間で病死するまでは異世界人、まして蒼鏡姫とは同国人ですよ……多少ズレた世界ではあるようですが」


 少なくとも前世では退魔師なんて漫画かゲームの存在だしな。まぁ異世界は無数にあるそうだし、近い世界の出身だと言った方が良いか。


「お前も作れるのか?」


「勉強ばっかりだった病人に無茶言わないでください」


 席に座って出されたおはぎを黒文字で半分にして一口で食べる。うん病死するまでの一年くらい、固形物食べられなかったから、久しぶりの餡子の甘さは感動ものだ。コメはともかく、餡子なんて魔界通販では買えないだろうし、小豆から作ったのか? 普通に売り物に出来るくらい美味いんだが。


「紅雪鬼さんの口に合いますか?」


「あぁ美味いぞ」


 美味いので何個か口に放り込んだ後お茶を飲んで、一息ついたところで話を切り出す。


「お楽しみの所に水を差すようで申し訳ないのですが、此度の作戦、王国側の対処が早くこのままでは戦力の分散という目的を果たすには難しいのです。加えて配下にも被害を出してしまった仕儀お詫び申し上げます」


「許す。そもそも何から何まで作戦通りに進むなら、今頃地上は悪魔が闊歩しておる。配下の事は残念だが戦である以上、あって当然と見るべきだ」


 なんだかんだと眷属の俺たちに甘いお館様だが、ただミスを許すだけでなくフォローを入れてくれるあたり、上に立つ者としての教育をしっかりと受けているのが分かる。


「それに効果が無いわけではないですよ、空から王都の様子を視認した限りでは、食料の値上げに伴う不満が引き金になって暴動が多発しております。それに人間に倒されたりしたのは魔物召喚後に即撤退の指示を守らず兵を襲った者たちばかり、紅雪鬼様が気に病むことはありません」


 空の散歩ついでにアルファストの様子を見に行ってくれてるクロも付け加えた。


「食料の保管庫である砦が連続で放火されたせいで、商人たちが勝手に動いたか。実際はそこまで被害が出てないからすぐ元に戻りそうだ」


「では本格的に食料を焼きましょう、次は火鼠ではなく派手に火竜など如何でしょうか?」


「守りの薄い農村を狙うのも捨てがたいな」


「あの二人とも、儀式場の中心にあった黄金の鏡を盗むだけなら、もっと別の手段があるんじゃ……」


 俺とクロの意見に、カガミが控えめに手をあげて割り込んできた。


「勇者だけでなく騎士たちまで決死の防衛に回られると、リスクがどうしても無視できない。せめて騎士たちだけでも王都から引き剥がしたい、可能なら勇者だが」


「作戦後の混乱も見据えた策ですもの、アルファストはシーガルへの食糧輸出国。精強な戦士団を擁するシーガルも兵糧が無かればこのダンジョンまで遠征できません」


「す、すいません……」


 そう言えば、連れてきた時の服は聖の気を帯びた鎧と一緒に処分したんだけど、何故に巫女服っぽい恰好なのだろうか? 鬼の角が生えてる以外は一切違和感がないくらい似合ってるが。


「蒼鏡姫は関わり合いの無い者を巻き込むのが嫌なんだろう?」


「申し訳ございません、一般人はどうしても……アルファストの騎士や仲間だった勇者たちが相手であれば、躊躇わずに殺せますが」


「悪魔は自由だと仰ったのはお館様だ、これは行動が自由なのでは無く気分的なもの。嫌なものを無理にやっても、寿命なんてない悪魔の人生辛いだけだぞ」


 もっと言えば、仲間内で関係悪くするくらいなら、多少妥協して折り合いをつけた方が話しは早いからな。そうすると俺の農村を攻撃する案はとれない。


「では最初に狙った三つの砦の糧食を燃やそう。早速今夜にでも仕掛けますが、お館様、宜しいでしょうか?」


「うむ、抵抗できない農民から精気を奪い尽すのも悪くない策と思ったが、襲撃する案に決めたのは何故だ?」


 うんうん、毎日朝議で俺とクロの意見交換の様子を見せた甲斐があって、全部任せるのではなく自分の考えを言葉にするの実践しているようだ。お館様の成長が嬉しいので今度何処かに出掛けた時は一番高いお菓子をお土産にしよう。


「まず蒼鏡姫が無力な民衆を攻撃するのを厭う、だからやりません。多少のリスクより、味方が迷いなく動ける策の方が良い、と判断したしました」


「うむ、弱者より強者を狙う方が良い、というのは分かるぞ。嫌な事をやっても楽しくないからの」


 腕を組んで頷く姿にちょっと和んだのは内緒だ。なんというか大人の姿に戻ったのに、子供の背伸びしてる感じがして微笑ましい。チラッとクロを見ると目が合ったので、俺たちは頷き合い気持ちを共有しているのを確信した。


「説明を続けます。破壊すると言っても三つだけならまだ周辺の砦から食料を融通できるので民衆が飢える事はありません、精気を収集するにあたって人口を減らす意味はないので、ご理解いただけるかと。多少食料が値上がりして生活が苦しくなりますが、人口は変わらず治安が悪くなるなら、間諜を送りやすくなる分、多少こちらに利益があるでしょう」


「砦を攻撃するのは魔物の召喚ですか? それとも私たちが?」


「そうだな俺たちで派手に暴れる。そうすると王国側はどう考える? おそらくだが別の砦も俺たち眷属が襲うんじゃないかと考える、そして無事な砦に兵を派遣する」


「狙われてると思ってる王族が兵を派遣しなかったらどうしますか?」


「メンツ丸潰れなんてもんじゃないから無いとは思うが、その場合気にせず無事な砦を狙う、ただ食糧には手を付けずに砦自体を壊し、周囲に見た目だけでも凶悪な魔物の群れでも徘徊させるか、援軍要請でもしてくれれば御の字だ」


「そうなると農民は壊れた砦ではなく別の場所へ逃げますね、この場合は王都でしょうか? 討伐に入れ替わりで兵も派遣されるでしょう」


「その作戦、守里(モリサト)君が南部から戻ったら、固有魔法でどうにかしそうですけど」


「モリサトキヨタケの能力ですか? 簡単な命令を実行できる人形兵士を召喚できる彼の固有魔法なら、兵士の派遣は無さそうですが、私たちが出ればそれほど脅威になるとは思えませんが?」


「あの人の能力は人間相手だと便利なだけなんだけど、魔物や悪魔相手だと話が違うんです。人形兵士自体は並みの騎士より弱いですが、人形兵自体が強い聖性を帯びてて触られるだけでも弱い魔物は死んでしまいます。それを数日はかかりますが万単位で召喚して、見聞きした物を共有できるんです」


 この固有魔法については兵士の水増し程度に考えていたけど、聖の気を帯びてるとなると少し厄介だ。っていうかクロから聞いた固有魔法がより強力になってる?


「召喚してから実戦を経験したことで成長したのかしら? そうなると他の勇者も? ヒカルは剣術はともかく固有魔法は成長しませんでしたが」


御剣(ミツルギ)君は固有魔法の殺傷力のせいで練習しませんから……成長する前に彼は排除するとして、今は守里君の事です。今はまだ南部の小国家群で治安維持してますけど、手が足りなくなったら瞬間移動で呼び戻されると思います」


「南部にいるもう一人の勇者、タクミ。彼も一緒に戻って防衛に回られると、策を講じないで突撃するのと同じくらい危険かもしれませんね。彼の能力は兵の攻撃力を数百倍に引き上げるでしょう」


 実際に固有魔法の運用を見ていたカガミの指摘を受けて、作戦を修正する必要ができてきたな。そりゃ実戦に放り込めば成長もするか。


「勇者も成長してるのか、そうすると少し作戦を修正しよう。今王都にいる勇者二人は王族の護衛をしてるから……砦の破壊は止めて食糧庫に放火だけとする、一ヶ所だけな」


「複数を狙わないのと、破壊を止めた理由は?」


「まず前提として、アルファスト王城は侵入を防ぐのに適してない、ある程度の守りはあっても続けて侵入され、メルとカガミ浚われたから、守りに関しての信用はもうないだろう」


「確かに、行政の場として普段の利便性を優先、その次は権威を示す豪華さを追求したような城ですね」


「城の連中が分かる範囲で俺たちのした事を思い出せ。空から侵入して姫を連れ去り、門番を倒し城門を飛び越え勇者と一騎打ちで倒して攫った。周囲の砦には簡単に倒せる悪魔が、弱いが厄介な魔物を使い放火、兵士に化けていた影狐の存在……砦の方が安心だと思うんじゃないか?」


 実際は上級魔法で石を積み上げただけの城壁くらい破壊できるが、城の連中にはそれを見せていはいない。見せてないからできないと思ってもおかしくない。


「侵入しやすい王城より砦の方が安全。そこに悪魔討伐と領民慰撫の名目を用意してやればそっちに行くんじゃないか? だから一ヶ所だけで複数は狙わない。悪魔たちは強いのは小数で大多数は恐れるに足らないと、思わせる。王族とその護衛の勇者、ついでに騎士の精鋭も連れてくんじゃないかな?」


「国王の性格を鑑みるに、確立としてはそれなりに期待できますね。もう一押し欲しいですが」


「一つ、食料焼いた後ほど近い砦を占拠して、王宮に声明を出す『メルリーシャ王女を返してほしければ勇者との一騎打ちを望む』とな、声明が届く前にクロは占拠された南部の小国家群まで飛んで、空からアルファスト軍を攻撃。カガミはお館様の護衛を頼む」


 もう一度自分で提案した作戦を頭の中でシミュレートしつつ、お館様に意見を求める。


「うむ、では我はダンジョンにて蒼鏡姫と待機し時機を待つとする。紅雪鬼も声明を出した後は転移門のカギを配下に使わせすぐ戻れ、影武者ならエーコに任せよ」


「はっ! 仰せのままに!」


 お館様の号令の下、行動を開始する。

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