16話・裏
「レオンが街で警備兵を剣振り回して追いかけてる? なにやってんだ酔っぱらってんのか?」
王女クロ―ディアが攫われてから自棄になって悪魔の城に突撃しないよう、頭が冷えるまで自室に軟禁され―――表向きは負傷による休養し―――ていた勇者ヒカルは、部屋に駆け込んできた役人の話に困惑するばかりだった。
「えっと、別に暴れてる奴を取り押さえるくらい構わないけど、俺が部屋を出て良いのか?」
「はっ、本来警備兵たちが取り押さえるのですが、ちと身分が高く誰もが二の足を踏みまして、勇者様なら誰も文句は言えないと……これは建前でして、レオン様の剣はご存じでしょう、魔性の気配を感知し震える特性があります」
レオンは尊大で嫌な貴族の見本のような男だが、決して馬鹿ではない。白昼堂々剣を振り回せば政敵に付け入る隙を与える。真っ先にそういう思考になる男だ。
「追い掛け回してる相手を悪魔と断じているからには、間違いなく魔性の存在かと。あの方の剣才と伸縮自在の特性と合わせて、即座に倒さないのは捕らえて情報を得るためでしょう」
「俺もすぐに行く! 他の皆は……」
「南方小国家群にて不穏な動きがあり、タクミ様とタケキヨ様が向かっております。ツムギ様は……」
「女二人は王族の護衛だろ、俺一人で行く!」
男二人がいないのだと聞いたヒカルは、役人の話をそこで遮り部屋から飛び出す。ひょっとしたらクロ―ディアを助けるヒントだけでも得られる可能性があるのだから、じっとしていられない。
感覚を極限まで研ぎ澄ませる。クロ―ディアに最初に教わった魔法でいざという時の切り札となりうる。長時間は無理だし、反動でかなり疲労する魔法だが、遠くで魔性と聖性がぶつかる気配を何とか見つけ全速力で駆ける。
そして王都から外れた森の中では、レオンの剣で切り裂かれたであろう木々に、地面を抉る氷の塊。地面から剣山のように突き出た氷のナイフに残った血の跡。そしてレオンは勿論悪魔の姿もない。
間に合わなかった、ヒカルは自分の不甲斐無さに臍を噛む。八つ当たり気味に聖剣で氷を砕こうとすると……。
「御剣君、止めなさい」
「各務さん……」
背後から声をかけて止めた、一歳年上の少女、各務紡の短くも厳しい声に、一瞬苛立ちを忘れる。しかし。
「ここに駆け付けてくるって事は悪魔との戦闘があったって気付いたんでしょ! 各務さんの能力ならレオンを援護できたんじゃ……」
自分に言う資格はないと分かっていながらも、つい八つ当たり気味な言葉を吐いてしまう。光の責める声に眉一つ動かさずに少女はポケットから数体、金属でできた虫のようなものを取り出した。
「これが何だか分かるかい? お城の魔法使いは、とんでもない技術で作られたゴーレムだって驚いてたけど、君、これが街中を飛び回ってたとしたらどう思う?」
「え、えっとラジコンみたいなもの……いや、ドローン? まさか!」
「バルドス将軍が言ってたよ、悪魔が使役するゴーレムは人間の作るそれとは比較にならないって。これが簡単に探しただけで数体見つかったよ、王都だけでもどれだけ送り込まれたんだろうね」
「各務さん冗談だよね? 悪魔がドローンを使って偵察ってそんなこと」
「彼らかすると使い魔を放って偵察、盗聴、嫌がらせ。別にありえない訳じゃないだろう。それともう一つ、なんで援護できなかったって君は言ったけど出来なかったんだ。氷の術を使う悪魔なら条件を満たしやすいと思ったけど、少し前にここで行われた戦闘では一切、鏡と認識できるような氷壁の類は一つも生成されてない。私たちの固有魔法は知られてると思った方が良いぞ」
光は思い出す、クロ―ディアが攫われた事ばかり思い返していたが、あの悪魔は常に霧などで自分の視界を封じるように動いてなかっただろうか?
「考えたくもないが、悪魔側の人間がいると思った方が良い」
勇者二人はしばし、無言でその場に立ち尽くした。




