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ダンジョンズガーディアン  作者: イチアナゴニトロ
32/49

16話

 全力で走り、ダンジョンに帰った。ふぅ、やっぱり思いっきり身体を動かすのは気持ちがいいな。


 あの騎士との戦いも、ある意味運動だが命の危険があるのはできれば遠慮したい。お館様が身代わり人形を用意してくれてるから、死にはしないんだろうけど致命傷でないと効果がないそうだから、痛いのは避けたい。


 第二城壁に入り、出迎えてくれたクロによると、連絡した通りお館様に献上しようにも、氷の拘束がどうやっても解けないので檻に入れたままにしてるらしい。勿論クロが本気を出せば氷を砕くくらいは可能だが、そうするとお館様が血を飲む前に床の染みになってしまうからな。


「すまんな、手強かったんで加減できなかった。それはそうとあの男を知ってるか?」


「はぁ、思い出したくもないのですけど、勇者が現れる前は一応婚約者でした。名前はレオン、一応王家の血を引く名家の出で、何と言いますか人の話を聞かないで理想を押し付けてくる男です」


 王女の婚約者だったのか、身なりもいいしそれなりに地位があるから、強力な武器を持っていたのも納得か。


「しかし、勇者が五人いるのは聞いていたが、そんなポッと出てくるものなのか?」


「いえ、異世界から召喚するらしいのです。公には神託が下ったとされてますが、実態はさらに南方への領土拡大がうまくいかないので、軍に近い派閥のゴリ押しですね」


 うーん、平和の裏で結構黒いなアルファスト。


「異世界から召喚された勇者は5人。使命を果たせば帰すなんて言ってましたけど、実際は無理ですし。ご機嫌取りの一環で私や高位貴族の子女、女性勇者には美男子をあてがった感じです」


「全員聖剣の類を持ってるのか?」


「いいえ、アルファストには聖剣と聖杖の二つだけです。ダンジョンの運営に頭がいっぱい出お伝えするのを忘れてましたね」


 クロと一緒にいた勇者以外は、このレオンとやらと同等程度の聖なる気を帯びた武器を神殿から授かってるそうだ。


「後回しにしていたが勇者については後で詳しく教えてくれ……あぁそうだ、お前が眷属になった日にメルを俺にくれたよな? そのお返しにお前あの男の血を吸うか?」


「好みじゃないので遠慮します。それよりお館様が消耗から回復する方がはるかに重要ですわ」


 報われないなレオンとやら、まぁ俺には関係ないが。


 話してるうちにレオンを捕らえてる檻に到着し、さっそく氷の拘束を解除する。全身凍傷で今にも死にかけてるが辛うじて生きてる。


 手足だけもう一度拘束して、回復効果のある魔法薬をふりかけると、早速回復したようで俺を噛みつきそうな形相で睨みつける。


「くそっ! くそっ! この程度の拘束で……」


「暴れてもいいがあまり血は流すなよ、もったいない。それとほら約束通り会わせたぞ、この黒天姫がお前の元婚約者のなれの果てだ」


「あの……セツ様なれの果てはちょっと酷いのでは」


 クロのツッコミは聞き流すとして、拘束され転がされた状態でも暴れだしたこの男が、クロの姿を見た瞬間目を見開いて硬直し……そして。


「貴様! 貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁぁ!」


「うるさいですよ」


 狭い部屋で大声で叫ぶものだから耳を押さえたクロが蹴り飛ばし静かになった。


「はぁ、寝かせたまま運べばいいでしょうに、好意なんて全くない元婚約者に会わせるなんて、デリカシーがないですよセツ様」


「すまん会いたがってたから……つい。詫びと言ってはなんだが今度アルファスト……では新鮮味がないから、シーガルかオルザインに行ったとき何でも買ってこよう」


「ふふっ気にしてませんから大丈夫ですよ」


 知ってる、女の気にしてないは男の甲斐性を量る催促だって、痴情の縺れで刺されて入院した知り合いが言ってたし。


「まぁこれから東西南北工作して回るんだ、珍しいものがあれば土産くらい買うさ。その為にもある程度欲しいもの言っておけよ」


「あらあら、楽しみにしてますわ」


「勇者について異世界召喚されたって事はお館様の耳に入れておいた方が良いかもしれん、文字通り生まれた世界が違うからクロたちの予想外の行動をするだろうからな」


 男を担いで最下層に降りると、最下層の守護モンスター、レックスの姿を目にして荷物が騒ぐので口を氷で塞ぐ。まぁ怖いのは分かるが耳元で叫ぶな。


 朝議を行う部屋に入ると、俺たちが来たことを察したらしいお館様が水晶の間からでてきた。


「ここより南の国アルファストに転移門の設置が完了いたしました。その際に手に入れた聖の気を帯びた剣と、その使い手をお館様に献上いたします」


「うむ、大儀である。聖なる武具を魔界に送れば大きな貢献と認められよう。褒美に我のできることなら何でもするぞ」


 ん? 今何でもするって……まぁそれは置いといて、注意はしとかないとな。


「お館様、いくら眷属が相手でもなんでもするなんて言ってはいけません」


「むぅ、分かった」


 悪魔なのに素直ないい子なのもどうかと思うが、褒美については後回しにしよう、被害を受けた影狐に分け前をやるためにも何が欲しいか聞いとかないとな。


「ひとまずこの男をどうぞ、聖なる武具を扱えるということは、贄としては悪くないかと」


「むぐっ! むぐぅぅぅぅぅ……」


「ふむ、そういえば増えた配下を指揮するものが欲しいと言っていたが、この者も眷属とするか? 聖性が中途半端ゆえ悪魔としても黒天姫に遠く及ばぬが」


 眷属化にもルールがあって、聖の属性を持つ人間を眷属とすると属性が反転し、属性の強さがそのまま悪魔としての才能に繋がるのだとか。


 これが他の属性だと生来の属性はそのままに魔性が追加される。俺の場合お館様の固有魔法で魂を呼び寄せられ、加工されて悪魔の肉体に入ったから前例がないのでよく分からんそうだ。


「お館様のお考え次第ではありますが、ご自身の傍に侍る者はよく吟味なされるが上策かと」


「紅雪鬼様に賛成です。自身を鑑みて、眷属と化して考え方は変わっても人格はそれほど変化はございません、正直この者は信用に値しないかと」


 このレオン、剣の才能はあるが身分を笠に着た必要以上に居丈高な態度のせいで、相当嫌われていたそうだ。道理で悪魔だなんだと叫んで暴れてても誰も手助けに来ないわけだ、こいつが眷属になると、配下たちへの態度が簡単に想像できる。


「二人がそう言うのであれば、無理はしないでおこう」


 必死に暴れるが拘束されてどうしようもない、お館様の小さな唇がレオンの首筋に触れるとあっという間にミイラになる。


「ふむ、まぁまぁだったな」


 レオンの血を飲み干したお館様は、徐々に背が伸びて70センチから80センチくらいまでになった。


「もう一つ、勇者についてお知らせすることがございます」


「ふむ? 聞こう」


 俺がミイラを魔法のゴミ箱(生ゴミなどを放り込むと分解して僅かなりとも精気を得られる魔法道具)に放り込んでる間に、さっき話した勇者召喚について説明を始めていた。


「……よってアルファストが異世界から召喚した、五人の勇者への対策として私から提案が……」


「待て。黒天姫、お前は今異世界から勇者を召喚したと言ったな?」


「は、はい。そのせいかなにぶん常識がなく、予想外の行動をとることも」


「いや、勇者の常識よりも『異世界から召喚』というのが重要なのだ。確認するが召喚の儀式で祭壇の中心に置かれていたのは、黄金で装飾された大きな鏡で間違いないな?」


「はっ、召喚そのものには立ち会いませんでしたが、儀式場の中心にそのような鏡が置かれてるのは間違いございません」


「そうか……紅雪鬼、黒天姫よ、勅命だ。黄金の鏡の奪取、それが叶わぬなら破壊をせよ。追加で資金を与えるが、すべて使い切っても構わぬ」

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