才能
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沈黙が続く。
じゃ、帰ります!と言おうとした
「ね、一回だけでいいから、きて」
こわい!逃げ出したい気持ちでいっぱいになった
なにされるかわからないよ
「見せたいものがあるんだ」
見せたいものって何。好奇心。
強引に手を引っ張られて家の中に入る。
やっぱりボロボロな家だから歩くときしむ。
すとん!て今にも穴があきそうな気配
彼からは爽やかな柔軟剤の香りがするのに家の中は腐った匂いがする
よく生活できるなあ
きしむ階段を上がる
青年はわくわくしてるみたいであたしまでわくわくしちゃう
「入って」
と言われて彼の部屋らしい場所に案内される
そこらじゅう描きかけの紙や絵の具が散らばり、歩く場所がないや
デッサン?
マネキン?
「そこに座って!」
椅子じゃない。小さな机に座らされる
彼はパレットに絵の具で色を混ぜ始めた
ちらちらとこっちを目で確認している
紺のジーンズ、白いキャミソール
あたしが今日着てる服の色。
黒とうすい橙色は、髪と肌の色かな。
「見せたいものって・・?」
「今、作ってるから。ちょっと待って」
彼の額には汗が滲んでいる 時々ぽたっと床に落ちる
どんな顔をすればいいのかわからない
キャミソールの皺を直そうとして動いたら、怒られた
窓が開いてるのに暑い
しばらく座っていたのだと思う
「できた!」
声が響き渡った
気まずそうに下を向くあたしがいた
声を失った。
肌の質感、唇の色、すべてがリアルに表現されている
絵の才能を持っているんだ
これを見せたかったんだ
「上手いでしょ?似てるでしょ?」
うん!と頷く。
「でも専門は空想絵画。」
ベッドの下に重なった紙をとりだす
すごい。
この人は天才だ
絵の具の使い方が違う 細かい
あーー、疲れた!と彼はベッドに倒れる。
「星中の子でしょ。部活はないの?」
部活・・・一応美術部だけどあまり行ってない
学校に行きたくない
「行ってない」
「ふーーーん。どうやら運動部ではなさそう」
「仕事は?」
・・・・・・・さあね
ごにょごにょ言って、結局さあね。
一瞬傷ついた顔したから問い詰めようとは思わなかった
外を見たらもう夕方だった。
もうこんな時間なんだ
本当は帰りたくないけど、迷惑だと思ったから帰ることにした
彼は気づいたみたいで無言で手を振った。
あ、聞きたいコトがある
「名前、なにですか」
むくっと起き上がる
「宏典。苗字は日野」
「鈴です。さよなら!」
坂を自転車で勢いよくくだった
風が心地よかった




