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18/18

18.世代

塔の扉を押し開く。


重い石の扉が、低い音を立てて開いた。


デジレは荒い息を整えながら、一歩、中へ足を踏み入れる。


古びた石の階段が、上へと続いていた。


「メアリー……。」


妖精の剣を握り直し、階段を登り始める。


踊り場に黒い靄のようなものが、漂っていた。


「これは……。」


指先が触れる。


第三の妖精から授かった『シンガン』が、勝手に発動する。


景色が反転した。


−−−−−−−−−−−−−−


「あなたを採用するメリットは何ですか?」


面接官が腕を組んでいる。


若い女性が必死に答える。


冷たい笑い声。


「では次の方。」


景色が消えた。


−−−−−−−−−−−−−−


デジレは息を呑む。


「今のは……。」


再び階段を登ると、また黒い霧が漂っている。


−−−−−−−−−−−−−−


「今日はありがとう。」


年上の男が笑う。


「人事部長に伝手があるから、安心して任せてほしい」


女性の表情が明るくなる。


男は椅子から立ち上がった。


「でも、その前に。」


腰へ手を回す。


「分かるよね?」


女性はその手を振り払った。


−−−−−−−−−−−−−−


工場。


同じ作業服姿の従業員が並んで作業をしている。


女性の胸の名札だけ色が違う。


「派遣さん。」


正社員が言う。


「食堂は向こう。」


「ロッカーは使わないで。」


「社員とは別だから。」


女性は黙って頭を下げた。


−−−−−−−−−−−−−−


「今日で契約終了です。」


「え?」


「更新はありません。」


「理由を教えてください。」


「会社の判断です。」


紙一枚だけが差し出される。


−−−−−−−−−−−−−−


古い実家、親戚が集まる居間。


久しぶりに帰省した女性は、小さく頭を下げていた。


「今は何をしているの?」


親戚のおばさんが尋ねる。


「派遣で働いています。」


おばさんの表情が曇る。


「大学まで行かせてもらったのに、正社員にならないなんて。」


女性は黙って俯く。


「親に申し訳ないと思わないの?」


隣に座っていた親戚のおじさんが苦笑しながら口を開く。


「まあまあ。女なんだから、いずれ家庭に入ればいいんだから。」


おばさんも頷く。


「そうね。早くいい人を見つけて結婚なさい。」


女性は、小さく笑顔を作る。


−−−−−−−−−−−−−−


履歴書、職務経歴書。


三年。一年。二年。半年。


短い職歴が並ぶ。


面接官が鼻で笑う。


「長続きしませんね。」


「雇い止めで……。」


「他責思考なんですね。」


−−−−−−−−−−−−−−


景色が消える。


デジレは階段に手をついた。


息が苦しい。


また残滓。


−−−−−−−−−−−−−−


「選ばなければ仕事はある。」


「甘えているだけ。」


「代わりなんていくらでもいる。」


「努力不足だ。」


「自己責任。」


「うつは甘え。」


「ガマンが足りない。」


「人生の負け組。」


「車がほしいとか思わないの?」


「最近の若者は旅行に行かない。」


「昔はお金がなくても結婚して子供を産んだものだけど、今は価値観が違うからね。」


「老後のために投資で資産形成しましょう。」


「もう三十年も経つのに、未だに氷河期を言い訳にしてるの?」


無数の声が、刃のように降り注ぐ。


女性は何も言い返さない。


ただ黙って、それを受け続ける。


−−−−−−−−−−−−−−


景色が終わる。


静寂。


デジレはその場へ膝をついた。


震える声が漏れる。


「僕は、何と戦っていたんだ?」


誰も答える者はいない。


ただ、黒い魔力の残滓だけが、長い年月の痛みを語るように静かに漂っていた。

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