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灰色の記憶と紅い秘密  作者: 天音タク
10/11

醜い世界

 ――二週間前



 二人は公園を後にして、再び夜の街へ駆けだした。明かりを避けながら、人の目を避けながら、必死に走った。しばらくして、二人は町外れの空地へと入り、身を隠した。


「はぁ……。畜生、最近面倒なことがよく起こるようになってきてる……。サツは来るし、変な男が来るし、痴漢冤罪の現場を見るし、悠華のクラスメイトがここに来るし……」

「……」


「今までこんなことは無かった。誰にも見つからないし気づかれない、普通の生活を送れた。でも……」

「……」


 武和が心配して悠華の方を見ると、悠華は顔色を悪くして座っていた。


「悠華ちゃん? 大丈夫?」

「……」


 悠華はもじもじとしたが、口は開かなかった。武和は隣に座って話し始めた。


「ごめん、嫌なクラスメイトに会った後だから、だよね……。うん、そうだよね。嫌いな人に会って、殺されそうになった上、髪を切られたり傷を付けられた。色んな痛みでいっぱいだろうね……」

「……それもある」

「うん、そっか」

 

 武和はそっけなくそう言った。武和は悠華に何か別の感情があることを察したが、聞くことはしなかった。


「何か希望があれば、出来る限り手伝うけど……」

「…………今はない、です」


 それを言うと悠華は膝を抱えて静かに泣き始めた。武和はそんな悠華にただ寄り添うことしかできなかった。


 程なくして悠華が泣き止み、二人は空地から出た。すると、雨が降り始めた。雨はだんだん強くなり、まもなく本降りとなった。二人は雨宿りするために空き家を探し始めた。空き家は空き地から歩いてすぐに見つかった。、二人はそこに駆け込んで一息ついた。空き家の窓は割れているものが多かったが、雨を避けるには十分だった。二人は中に入ってもらい物の傘を干し、湿気臭い部屋に入った。


「はぁ……。これでひとまず大丈夫そう、かな」


 悠華は濡れた髪をタオルで拭いた。武和は靴と靴下を脱ぎ、足の水気を拭った。


「悠華ちゃん、濡れてない? 大丈夫? 」

「少し濡れたけど大丈夫。でも、シャワー浴びたいな……」

「俺も。でも明日より後にならないと無理かな……。サツも警戒しているだろうし」

「そう、だよね」


 二人は部屋の壁にもたれかかり、少しの沈黙を続けた。そして、悠華が口を開いた。


「私、捕まるかな?」


 悠華はうつむいた。その目は赤く、まだ涙の跡があった。武和は励ましたいと思っても何をすべきか分からず、隣に座ってるだけだった。


「…………」

「…………」


 二人は何もせず、雨音を聞きながらぼんやりとしていた。やがて、悠華は目を閉じ眠りについた。その様子を見た武和も寝る体勢になった。


『これから、何もなければいいけど……』


 武和は心の中でそうつぶやき、眠りについた。



「ん……」


 夜が明け、悠華は目を覚ました。しばらく横になったまま部屋の中を見回すと、武和が隣で寝ていた。その寝顔に、いつものような明るさはなかった。悠華は体を起こして立ち上がり、洗面所に行き水道をひねった。だが水は出なかった。


「まぁ、空き家だし当たり前だよね」


 悠華は水道を探しに家の外に出た。雨上がりの匂いが鼻を刺す。


『この匂い……。嫌いじゃない』


 少し歩くと、小さな駅にたどり着いた。悠華はその横に併設されているトイレに入った。悠華はトイレを済ませて手洗い場の蛇口をひねり、傷と顔を洗った。


「うっ!」


『やっぱり、まだ痛い』


 悠華はタオルで顔を拭きながら、鏡に映った自分を見た。


「……ひどい顔」


 悠華は顔を下に向け、目をつぶった。そして、昨日のことを思い返した。


『あいつのせいで……』


 悠華は怒りと悔しさが沸き上がってきた。また、涙も出てきそうになった。悠華は拳を握りしめて、涙をこらえようとした。悠華は目を拭ってトイレを後にし、武和がいる空き家へと帰った。


「あれ、悠華ちゃん。出かけてた?」

「うん、ここの水が出なかったので、駅のトイレに行って傷と顔を洗ってきた」

「そっか。お腹すいてない?」

「少し空いた」


 悠華がそう言うと、武和はバックの中からスティックパンを取り出した。そして、二人は二本ずつ食べ終えた。悠華はふと思い武和に聞いた。


「まだ食料を買うお金って残ってる?」

「あんまり手持ちはない。そろそろ銀行から下ろしてこようかな」


 武和はそう言うと通帳を取り出した。


「でも、よく今までお金が持ちましたね」

「あー……。実は、これ俺のじゃなくて、親のなんだ」

「え?」

「どうせ俺の貯金だけじゃ一年も生きられないだろうと思ったから、盗んだ」


 武和はそう言って通帳の名義欄を見えるようにした。よく見ると、そこには武和の名前は無かった。悠華は少し驚いていたのか喋れなかった。


「……初めて知りました」


 悠華がそう言うと、武和は過去を語り始めた。


「……俺の親もクソ野郎だったんだ。過干渉で、自由にさせてくれなかった。それが俺のためになるとか言いながら……。俺の親は、俺が成功することを望んでた。だから、俺が望んでいないことに金を使って教育させてた。それが俺にとって苦痛だった。でも、当時の俺は逆らえなかったんだ……。それに学校の環境もクソで、俺を排他して無視して、挙句の果てにはクラスメイトにはめられて除籍の危機だ。吐き出す相手もいなくて、ひとりで抱え込んでた。それで結局、俺は俺を取り巻く人に復讐するため、大犯罪を起こした。そして、親の通帳と金を下ろすのに必要なものを持って逃げた。でも、多分一人じゃ、今まで生きられなかったかもしれない。君がいたから、今まで生きてこれたんだって、俺は思ってる」


 武和は淡々とそう言って、通帳をバックに戻した。悠華は黙って武和の話を聞いていた。程なくして、悠華が口を開いた。


「私も同じ。武和がいたから、私も今まで生きてこれたんだって思ってる」

「……」

「私の親もいい人とは言えませんでした。小学生の終わり、私のお母さんは浮気してお父さんと喧嘩になって、親権で言い合ってた。でも、なぜか私はお母さんの方に行くことになったんだ。お父さんはいい人で、私を大切にしてくれた。これからはお父さんと一緒に暮らすんだって思ったんだ。でも私は、お母さんと暮らすことになった。それからは……。あまり思い出したくない。私は中学高校といじめられて、お母さんにはこき使われて、本当に耐えられなくなって……。私は、人間なんかいなくなってしまえばいいと思って、大犯罪を起こした。今も、あなた以外の人を信用したくない」

「……そっか」

「うん……」


 悠華はそう言って立ち上がり、窓枠に手をついて外を見た。すると人影が突然隠れたのが見えた。


「……?」

「悠華ちゃん? どうかした?」

「さっき人影が……」


 悠華はそう返事をして、再び外を見た。しかし、人影はもうなかった。その後二人は空き家にこもってじっとしていた。その日は何も起きなかった。そして次の日も、その次の日も、次の次の日も、武和と悠華はほとんどの時間、空き家に隠れていた。二人は食べ物や水を節約しながら、誰にも見つからないようにした。そして一週間が経ったが、その間も人影は毎日現れ続けた。二人は恐怖からこの空き家を離れることにした。二人は荷物をまとめて別の空き家のある場所に移動した。だがその場所でも人影は毎日現れた。そしてまた一週間が経った。


「おかしいです、もうここに来てから一週間くらい経ったのに、ずっとあの人影は毎日現れる。でも私たちには何も起こらない。一体どういうこと?」

「……もしかして、あの人影は俺たちを見張ってるのかもな」

「だとしたら誰?」


 武和は考えた。するとただ一人、当てはまりそうな人物が頭に浮かんだ。


「……もしかして、前に悠華に傘を渡しただけで去っていった、グレーの服を着ていて、"事務所"って言ってた人かもな」

「え? あの人?」

「俺は最初から奴が怪しいと思ってたんだ。もし、あの人が俺たちを見張っている本人なら……」


 武和は考え込んだ。


「でも、あの人は悠華ちゃんだけがターゲットなはず。なら、俺は全くのノーマーク……」


 すると武和ははっとしたように悠華の方を向いた。


「確かめたいことがある。悠華ちゃん、一度一人で外に出てくれないかな?」

「え?」

「もしかしたら、あの人は悠華ちゃんと接触するために傘を渡したのかもしれない。俺はそんな気がする」

「え? でも……」

「大丈夫。もし狙われても俺が守るから」

「……分かった」


 悠華はそう言って、空き家を出て行った。武和はそれを見送った後、悠華がもらった傘を持った。すると傘の先端の方から何やら音がした。武和は傘の先端をひねって外してみた。するとそこには小さな丸い何かが入っていた。


「これは……」


 武和はそれを見てとっさに裏蓋を外してボタン電池を抜いた。そしてそれを放り投げ、再び傘を持って人影のあった場所の裏へと回るため走った。降り注ぐ日差しに目を細めながら。



「……」


 悠華は少し怯えながら住宅街を歩きはじめた。武和は守ってくれると言ったが、それでも不安だった。


「武和……。もしあの人が襲ってきても、私、大丈夫かな?」


 悠華は不安に駆られながら人気のない住宅街をジグザグに歩いた。


 一方武和は人影のあった場所の裏に回り込んだ。そこには人影はなかったが、先に歩くと、青のシャツを着た男が曲がり角から悠華を覗いていた。だが、まだ確たる証拠はなく、武和は隠れて様子を見た。


「あいつか?」


 武和は、あの男が悠華を見張っていた人物なのか確かめようと近づいた。そして、曲がり角に近づき男を確認しようとした。すると男も移動を始め、次の曲がり角で止まった。


『間違いない、やつが悠華が見た人影……』


 武和は男に気づかれないように、傘を持って忍び寄った。そして男が悠華を見ている隙に、傘で男の後頭部を叩きつけた。


「うっ!」


 男は痛みと驚きにに声を上げ、道路に倒れこんだ。武和は倒れこんだ男の顔を見て、傘の先を向けた。


「彼女に近づくな」


 武和は冷ややかに言い、一発傘で男の顔を殴りつけた。男は悠華に渡したはずの傘を、なぜこの男が持っているのかが理解できなかった。


「なぜ、あなたかその傘を……?」


 男は必死に抵抗しながら、武和に問いただした。武和はその言葉に、この男が、あの時悠華に傘を渡した、グレーの服を着た男だと確信を持ったが、彼は一言も話さず男を殴ろうとしていた。


「誰か、誰か助けてくれ……!」

 

 すると突如、武和は男と距離を取り、そして傘を捨ててナイフを取り出した。


「……!」


 武和は折り畳みナイフを展開して男に襲いかかった。男は恐怖に顔を青くした。男は必死に抵抗したが、ナイフで頬を切りつけられた。男は痛みに顔を歪めた。


「あんたは何者だ?」


 武和は目の前にナイフの刃先を向けてそう言った。


「わ、私はしがない"探偵事務所"の人だ。あなたとは何の関係も……!」


 武和は抵抗する手に負けないくらいの力で、刃先を男の顔に近づけた。だが男は抵抗をやめることはなかった。そして力を込めて武和の腹を蹴った。


「ぐっ!」


 武和は腹を蹴られて後ろに倒れた。男はその隙に立ち上がり、逃げようとした。


「クッソ……。あいつ……!」


 武和は痛みに耐えながら立ち上がり、ナイフを畳んでポケットに入れ、走って男を追った。男は目視できる範囲にいた。しかしその瞬間、曲がり角から一時停止無視の車が飛び出してきた。


「ぁ……!」


 武和は車に気づいたが遅かった。武和は車に撥ねられて道路に投げ出され、頭を打って倒れこんだ。武和は驚いて何もできなかった。



 一方、悠華は怯えながら住宅街を歩いていた。あの人影と武和がどうなったのか気になっていた。そんな時、後ろから車のエンジン音が聞こえてきた。悠華は道路の端に寄って立ち止まり、さらに怯えたが、車は悠華の横を通り過ぎた。悠華は車の方を見たとき、丁字路から男が飛び出して走っていくのを見たが、その男はすぐに消えた。そして車が一時停止を無視して丁字路に進入したところ、また別の男が飛び出してきて、その車に轢かれた。


『あ、あれって……』


 悠華はその男の姿を見ただけですぐ武和だと分かった。悠華は走って武和に駆け寄ろうとした。すると一時停止無視の車から人が下りてきた。悠華はそれを見て、民家の門に隠れた。


「大丈夫ですか!?」


 その人は武和に駆け寄り容態を確認したが、反応が薄かったのか、慌てて携帯を取り出して警察に通報した。


「もしもし、警察ですか? えっと私、一時停止を無視して事故を起こしてしまって……。私は大丈夫ですが、相手は出血は無いのですが、意識がはっきりしてなくて…………」


『まずい、あの人警察に……』


 悠華は警察が来ると、武和と一緒に捕まってしまうかもしれないと思った。悠華は何とか武和を助けなければと思ったが、車から降りてきた人が目の前にいるため、近づくこともできなかった。


『どうしよう……』


 悠華は焦りながら、民家の門に隠れていた。その時、悠華は車から降りてきた人が背中を向けたことに気づいた。悠華は今しかないと思い、静かに武和のもとへ向かった。悠華は武和の顔を覗き、人差し指を口に当てて、静かに武和を起こして腕を悠華の首に回した。


「立てる?」


 武和は頷いた。二人は静かに立ち上がり、悠華は武和の体を支えて、通話中の人に気づかれないようにあの空き家に向かって歩いた。


「武和、大丈夫?」


 悠華は心配そうに武和の顔を見た。武和は苦しそうな表情を浮かべた。


「……うん。びっくりして動けなかったし、それに頭も痛い」


 武和はそう言って大きく息を吐いた。悠華は武和の体を支えながら、空き家の前まで歩いた。


「あ、そうだ。傘を置いてきた……」

「武和は横になってて、私があとで取ってくる」


 二人は空き家に入って、ペットボトルの水を飲んで一息ついた。


「はぁ、ごめん悠華。あいつを追い詰めたんだけど、逃げられた……」

「ううん、大丈夫。武和が無事なら、それで……」

「……」

「……」



「あれ? え!? 消えた!?」


 一方、通話を終えた人は事故相手が消えたことに気づいた。その人はあたりを見渡したが、誰もいなかった。その人は恐怖を覚え、再び警察に通報した。


「もしもし、警察ですか? えっと私、さっき事故を起こしてしまった人です。さっき見たら、相手がいなくなってるんです! えっと、どうしたらいいですか!?」


 その人はパニックになりながら、警察に事情を説明した。警察はその人に現場に留まるように指示した。その人は携帯をボンネットに置き、警察の到着を待った。



 一方、悠華は警察が来る前に傘を取りに行った。悠華は武和に教えてもらった場所に向かい、そして周りに人の気配がないことを確認した。悠華は武和の傘を探し、道路の端に落ちているのを見つけた。悠華は傘を拾って、誰にも見つからないように急いで空き家に戻った。


「武和、傘取ってきました」


 悠華は空き家に入って、武和に傘を渡した。武和は傘を受け取って自分の横に置いた。


「そうだ悠華ちゃん、これが傘の先に仕組まれていた」


 武和は悠華に小さな丸いあるものを見せた。


「これって、多分なくしたものを見つけるための装置ですよね。駅の傘置き場とかで見たことあります。でも何で傘の先のところに?」

「……多分あいつは、この紛失防止タグで悠華の居場所を特定してたんだ。これを忘れ物防止用としてじゃなくて、追跡GPSの代用として……。だから何度も悠華の近くにあいつが現れたんだと思う」


 武和はそのタグを指で持って言った。


「えっと、ちなみに私を追ってた人影って、誰だったか分かったんですか?」

「……あいつはこの傘に反応してた。それに『探偵事務所』って言ってた。だから、あの日悠華ちゃんに傘を渡した本人だと思う。……あいつの言ってた『事務所』って、探偵事務所のことだったんだな」

「探偵事務所……!?」


 悠華は驚いて頭を抱えた。


「もしかして、あいつの言ってた『探偵』って、この人のことだったの? でもなんで? あいつは私が……」

「……」


『なるほど。あの探偵が傘を渡したのは、悠華の居場所を特定するため。そして悠華のクラスメイトを会わせるため。でも、悠華のクラスメイトはすでに死んでいる。今更追う理由はあるか……? いや、もしかすると……』


「少しずつ、バレてきてるのかもしれない」

「え?」

「……もしそのクラスメイトが悠華ちゃんの名前を探偵に教えているのなら、かなりまずい。俺たちは顔こそ公表されてないけど、名前はすでに一部メディアが取り上げている。あの事件の関係者、そしてその事件の犯人の容疑者と同姓同名……。それを誰かが知ったのなら、たとえ探偵だとしても独自で調査をするのもおかしくない。そして、遅かれ早かれ警察に通報するだろう」


 武和はタグを見つめながらそう言った。


「悠華、今は危険だ。なるべく早くここを去らないと警察に捕まる。あのゴミ組織に捕まるのだけは、何としてでも避けないと」


 そのとき、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。


「多分、あの人の通報で来たんだと思う。静かにじっとしていれば、事故現場から離れているここをわざわざ調べて入ることなんてないはず……」


 悠華がそう言うと、武和は後頭部をさすった。痛みはほとんどなかった。そして空き家は静かになった。



「相手の特徴は覚えていますか?」

「えっと……。男性の方で、濃い青色の服とジーンズを着てて、髪は普通で黒かったです。……それ以上は覚えていません」

「なるほど……」


 少し経って、事故現場では事情聴取が行われた。事故を起こしたという人の話を聞きながら、警官はメモを取っていた。警官はその特徴から、どこにでもいそうな男だと言いそうになったが、かろうじて抑えた。


「あの、過去に交通事故で被害者がいなくなったことってありましたか?」

「このあたりでは聞きませんね。何か特別な事情がない限り、被害者が逃げるなんてことはあり得ませんからね。もしかして、相手は急いでましたか?」

「はい、走っていました」

「ならきっと用事があって急いでたのでしょう」


 警官はそう言うと、その人は心配になって口を開いた。


「私は、大丈夫でしょうか?」

「うーん、相手が後になって被害届を出したりして、大ごとにならない限りは大丈夫でしょう。そうなる可能性は低そうですけどね」

「……よかった」

「ですが、あなたは一時停止を無視したと言いました。本当なら違反点数や罰金がありますが、映像などの証拠がないので今回は何もありません。でもこのあたりは事故が多いので、一時停止は守ってくださいね」

「……申し訳ありませんでした」

「はい、次は気を付けてくださいね。どうか安全運転で」


 警官はそう言うと、免許証を返して早々にパトカーに乗り込み去っていった。違反者も車に乗り、丁字路の安全確認をして去っていった。



「……行ったみたい」

「よし」


 二人は空き家を去る準備をした。武器と食料、日用品と着替え、携帯電話を確認した。


「また雨が降るみたい。はぁ、この時期は嫌いだ……」


 武和はそう言って傘を開こうとした。だが壊れているのか途中までしか開かなかった。武和は傘を閉じてその場に放った。


「雨に打たれるギリギリまで歩こう。そして都市部に行って、人ごみに紛れながらとシャワーと洗濯、そして買い物を済ませる。……よし、行こう、悠華ちゃん」

「うん、分かりました」


 二人は荷物をまとめて空き家を出て行った。すでに空は暗く、雲は黒くなっていた。

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