第68話 オリンピック開幕
遂にオリンピック開幕の日を迎えた。
観客席は満員、天気もいい。
選手達は中央に整列しているが国別ではなく、くじ引きで適当に振り分けている。
早速、ディーテから開会の挨拶だ。
『今日は、各国から多くの参加者が集まり、盛大に大会が行われる事を非常に嬉しく思う。
この大会は各国の素晴らしい兵士や種族を讃えるものでもあるが、様々な種族が暮らすこの世界で、国を超え種族を超え、互いを認め合い尊敬し合える、そんな大会になって欲しいと思っている。
このオリンピックは4年に1度開催する。今回敗れた者も勝者を讃える事で、自分に足りない部分が何なのか見出す良い切っ掛けとなるだろう。
勝者を認め、自己を研鑽し更なる高みを目指して欲しい。
健闘を祈る』
会場からは拍手が起こった。
いよいよ、採火だ。
これは俺がやる。
この日の為に、凹面鏡を準備し、松明に採火。聖火台に点火する。
聖火台の炎はムックが維持しているのだ。
日程は、円盤投、槍投、短距離走の予選を今日行い、本戦出場の選手を8名に絞りこむ。
1日目、3種目予選
2日目、3種目本戦
3日目、長距離走
4日目、5日目、戦車競技の予選
6日目、戦車競技本戦
7日目、総合格闘技予選
8日目、総合格闘技本戦
9日目、表彰式と閉会式
10日目は、丸々1日勝者の為の宴だ。
事前に3つのグループに分けておいたので、それぞれ競技場に移動してもらい予選を行う。
距離は、円盤や槍にカラの赤い結晶体を埋め込み計測しする。精度は誤差10mm以内という超高精度だ。ストップウォッチはドワーフ特製、10億分の1秒まで計測出来る優れ物だ。
街のみんなの動きも素晴らしい、滞りなく予選が進んでいる。
因みに、会場の外ではフライドポテトや串焼き肉、ソフトドリンクの販売を行い、本戦ではラミアやメデューサ、ニンフ、エルフ族の美女達がカンパーイガールモドキを行うのだ。
会場を縦横無尽に動き回る彼女達も必見だが、是非、本戦に注目してもらいたものだ。
その時、短距離走の方で歓声が上がった。
カラだ。
記録は6秒フラット。距離は200mなので、前世の世界記録が19秒台…異常である。
因みに、この種目はただ走るだけでは無い。
人型の者は重い盾を持って走り、獣型の者は盾と同じ重さの鎧を装備して走るのだ。
初日の予選も無事に終わり、本戦出場選手が発表された。
短距離
1.カラ(ネモフィラ連邦国)
2.ムック(ネモフィラ連邦国)
3.アレクシア(コルヌコピア王国)
4.ケルベロス(ヘルモス王国)
5.アトラス(ドワーフ国)
6.ニキアス(エトリア国)
7.パメラ(エトリア国)
8.グルナ(ネモフィラ連邦国)
円盤投
1.セレネ(ネモフィラ連邦国)
2.ジーノ(マカリオス王国)
3.クラトス(ヴィエン王国)
4.グルナ(ネモフィラ連邦国)
5.アレクシア(コルヌコピア王国)
6.ニキアス(エトリア国)
7.イオエル(アグロス国)
8.ジーク(ヴィエン王国)
槍投
1.パメラ(エトリア国)
2.アトラス(ドワーフ国)
3.グルナ(ネモフィラ連邦国)
4.セレネ(ネモフィラ連邦国)
5.アレクシア(コルヌコピア王国)
6.ララノア(ネモフィラ連邦国)
7.ジーク(ヴィエン王国)
8.アレス(ネモフィラ連邦国)
となった。
森の国の幹部も善戦しているが、コルヌコピア王国騎士団の副団長アレクシア、エトリア国のニキアス、アマゾネスのパメラ、この辺かなりヤバそうだ。
それと、獣型の者に投げる系は辛かった様なので次回は要改善だ。
いよいよ、明日は本戦。この8名の中で勝者は1名だけなのだ。
………………………
翌朝。
本戦が始まった。
会場は超満員、先ずは短距離からだ。
昨日はトップスピードになる前に終わってしまった…この競技は恐らく、可能な限り早くトップスピードに持っていくべきなのだ。トップスピードの維持など考えてはいけない。
スタートの合図はランスでは無くスタートピストルを装備した暗黒騎士が務める。
闘争心剥き出しのムックとカラが視界に入る。
無視だ、集中するのだ…負ければ婿養子と厳罰が待っているのは俺だけなのだから。
バンッ!!
スタートだ!!
イメージは0から1秒以内に時速1200kmへの加速!
最高のスタートを切り、200m先のゴール目指す。
前を走る者は皆無!
「俺の勝ちだッ!!!!」
結果は
1.カラ
2.ムック
3.グルナ
4.ケルベロス
5.アレクシア
6.イオエル
7.アトラス
8.パメラ
無念だ…ムックもカラも終盤の伸びが凄まじかったのだ。
短距離はカラが勝者となった。
王族専用の客席からディーテの視線が痛い。
次は円盤投だ。
投げる順番はくじ引きで決まり、現在暫定1位はジーノの984m。化物だ。
俺の番がやって来た。
厳罰は確定しているが、刑が軽くなるか重くなるかの材料は重要なのだ。
この種目は遠心力が重要だろう。
円盤の重さ✕軸から指先までの距離✕回転スピード
=遠心力!
自己最速のターンを決めた俺の記録は1109m。
暫定1位に躍り出た。
後は祈るしかない…頼むぞ。
遂に、最後の1人。セレネだ。
徐々にターンのスピードを上げていくセレネ。
踊るようにターンするセレネのフォームは何と美しいのだ…観客席からため息が漏れる。
そして結果発表。
1.セレネ
2.グルナ
3.ジーノ
4.ニキアス
5.ジーク
6.クラトス
7.イオエル
8.アレクシア
因みにセレネの記録は1431m。
森の国に円盤投げの神が降臨したのである。
ジークも大健闘だ。
非常に不味い。
厳罰を超えて拷問されてしまうかも知れない。
いよいよ、2日目最終種目やり投げだ。
この種目は槍を手放すまでに、どれだけ加速させる事が出来るかが肝だ。
トップバッターはアレスだ。
《ぬぅうぉぉぉ!!デラッ!!ベッピンッッッ!!!!》
6mの助走路を使い切り、謎の咆哮を上げて放った槍はみるみる飛距離を伸ばしていく。
「…ッッッ!!!?」
その距離、実に1812m。
観客席から歓声が巻き起こった。
《これが漢の生き様よ!!》
謎な決めゼリフを言い放ち、そのままアレスは暫定1位を維持し続け、遂に、最後俺の番がやって来た。
身体を鞭の様に動かし槍を加速させるイメージ。
助走路を目一杯使い…鞭のように撓らせ…投げるッ!!
ドカッ!!ビイィィン…
「…………… 」
地面に刺さっていた…
念の為言っておくが、わざとではない。
観客席が静まり返り、記録の発表が行われた。
《グルナ選手、記録3.91m!》
手を離すタイミングが遅れてしまったのだ。
観客席が爆笑の渦に包まれた。
セレネは何も言わなかったが、口元が爆発しそうになっていた。何も言わなくても、目は口ほどに物を言うのだ。
[どんまいw爆]
セレネの目から伝わって来たのはコレだ…
1.アレス
2.パメラ
3.セレネ
4.ララノア
5.アトラス
6.アレクシア
7.ジーク
8.グルナ
《グルナ!これ飲んで早く寝るのだ!!》
森の回復薬をいただいてしまった…体調不良だと思われてしまったが違うのだ。
やり投げは兎も角、他の種目は周りがハイレベル過ぎるのだ。
2日目終了の時点で既に追い込まれてしまったが諦めてはいない。
その日は、早めに部屋に帰り内省したのであった。