第61話 勝利の日
勝利を祝う日まで10日を切ったある日。
『今日から別々の部屋で寝るぞ。それから寝室への入室も許さん』
ん?
『これは王の命令だ。決して覗いてはなりませぬ…』
ん??
知ってるぞ…これは鶴の恩返しだ。
覗かれた鶴は、もう此処に居る事は出来ませんと言って飛び立ってしまうという結末だった。
見るなと言われると見たくなるという人間の愚かさを比喩した物語。
どうやら俺も相当な愚か者だったようだ。
気になって仕方無い。
ディーテも、俺が愚か者なのを見抜いていたのだろう。しかしだ、部屋の前をセレネに警備させるのはやり過ぎてはないだろうか。
誰も入れん。
「セレネ?ディーテは何してんの?」
《グルナ様、申し訳ありませんが私も伺っておりませんの。因みに、この部屋は私の最強結界で覆われており盗聴、盗撮は不可能ですわ。悪しからず》
「…………」
結局、勝利の日までディーテは引きこもってしまったのであった。
会場も出来上がり、遂に当日を迎えた。
久しぶりにディーテを見たような気がする。
少し痩せたか?
眠そうだが、式典は始まった。
会場は住民達で埋め尽くされ、中央には戦闘に参加した兵士達が整列している。
『皆の者よ、先の戦いご苦労であった。
国の為に、愛する者の為に勇敢に尽力した皆のおかげで、今此処に、こうして、この国の形があるのだ。
皆の覚悟と決意に、敬意と心から感謝の意を表する。
皆の決意が、北の連邦国の交戦継続を踏み止めさせ、終戦へと導いたのだ。
戦争とは愚かな行為だ…。
北の連邦国が侵略戦争を開戦したのも愚かな理由であったが、その愚かな理由は立場が違えば甘美なのだ。
楽な方へ、より利のある方へ。そうして容易く戦争とは始まってしまう。
国を築く年月に比べれば、国の破壊は一瞬の事。それも虚しく悲しいが、命を失い、故郷を失い、大切な者を失った者達を思えば、心を引き裂かれる思いをし悔やみきれない後悔に襲われる。
恐らく、北の連邦国皇帝もその思いに至り後悔の念に駆られたに違いない。
今回、皇帝以下軍や政治に関わる者達に恩赦を与えたのは、皇帝オルガが民を思い自らの命を賭して守ろうとした心に、我々は未来を見たからだ。
今後、北の連邦国は踏むべき道を外れる事無く、本来在るべき国の姿へ成るべく揺るぎない志を持って進んで行くだろう。
時期が来れば、交流も始まる。
戦勝国が優れ、敗戦国は劣っている。
戦勝国は偉く、敗戦国は跪くべき。
皆は、これが間違いだと分かっているはずだ。互いに手を取り合い、許し、認め合う事が平和へ繋がる。それが正しいと信じ理性的に行動する皆の姿が更なる平和へ繋げていく為の道標になると私は思っている。
だが、備えは疎かに出来ん。
国を、愛する者を、弱者を不当な暴力から守る為には兵士達の力は必要だ。今後も頼りにしているぞ!
これより、表彰を行う!』
『カラ!此処に来い!』
ディーテの元に行き、跪くカラ。
『森への脅威を排除し、巨神族との戦いでは後方線の分断と素晴らしい働きであった。
引き続き、ネモフィラ連邦国飛行部隊長として励むがいい』
ディーテが手配していたのは高純度ビトラス神威シリーズのブーツである。
タラリアと名付けられたブーツは装備した者の速度を上昇させる。その速さは時速13000km。音速の10倍である。所有者の潜在能力”破壊の宝石”の力を大幅に増幅させる効果もある。
《ディーテ様、恐れながら私は受け取る事が出来ません。敵を分断したのはエキドナ様。私は仰る様な働きはしておりません》
『いや、お前が音響兵器を破壊しなければ、エキドナの魔物は無力化されていた可能性がある。そうなればグルナ達もどうなっていたかは分からんぞ?』
(それとな、お前にグルナがセクハラしたと聞いたぞ!抱きついて離れなかったそうじゃないか。その慰謝料だ。笑)
《………!!?//》
『受け取るがいい 』
《有り難き幸せ!ネモフィラ連邦国の矛として力を尽くします!》
『セレネ!此処に来い!』
『街の防衛ご苦労であった。お前のおかげで民の命は勿論、建物1つも破壊されずに済んだ。今後も国の守護神として民を守ってくれ』
《お任せ下さいですわ!!》
セレネには神威シリーズのラージシールドとフルプレートアーマーだ。
この盾はセットの鎧を装備している者を自律して守る絶対防御能力を備えている。
この防御を抜ける者は居ないだろう。
『エキドナ!此処へ来い!』
『よくぞカラの元へ駆け付けてくれた、お前のおかげで敵勢力にカラを奪われなくて済んだのだ。礼を言うぞ』
《今後もラミア族共々、貴方様に忠誠を誓います》
エキドナには、オピオタウロスの毛皮で作ったショールだ。
神話の魔獣オピオタウロスの毛皮は虹色に輝きエキドナを更に美しく引き立たせる。
この世に2つと無い逸品だ。
『上杉!此処へ来い!』
『影で特訓してる成果かな?巨神族との戦い見事であったぞ。地上軍の司令官として今後も励むがいい!』
《有り難き幸せ、より一層精進して参ります!》
上杉には神威シリーズの軽装鎧だ。
動きやすさを重視した鎧だが魔物糸で作った防刃服とセットなので防御力は相当なものだ。
そして、何より見た目がとてもお洒落なのだ。
『アレス!此処へ来い!』
《!?はい!!》
『呼ばれるとは思ってなかったって感じだな。南部から敵戦力の殲滅ご苦労であった!要塞と化した軍事基地はお前の城壁破壊が無ければ難しかっただろう。
今後は敵陣地内での破壊工作部隊長として活躍してくれ!』
アレスには神威シリーズの双槍だ。
扱いは難しいだろうが、アレスのセンスを見込んでの選択だ。
今使っている武器は大きなバトルアックスだが、意外と俊敏な動きをするアレスに斧は適していないと判断した。
《ディーテ様…漢アレス!この命に代えても役目を果たすっス!!》
『ファム!此処へ来い!』
『カラの命を救ってくれてありがとな。お前が居なかったら我が国の損害は計り知れないものになっていた』
ファムには神威シリーズのネックレスだ。
保護と救済の祈りが込められている、ファムの身に何か起きてもネックレスが守ってくれるだろう。
《ディーテ様!おおきに!国の為に今後も頑張ったるで!!》
『最後に、アマゾネスの族長!此処へ来い!』
アマゾネスの族長はディーテの前で跪いた。
『お前達は新入りだが、その戦闘力に期待しているぞ!上杉のサポートをよろしく頼む。
お前には名を授ける。
マリと名乗り上杉の元で励むがいい!』
《女王様!私ばり頑張るけんね!!》
『以上だ!
この後、宴を準備してある。皆楽しんでくれ!』
一瞬、会場が静寂に包まれたが直ぐにざわめき始めた。
《ご主人様の表彰は無いの?》
ムックだ。
『いや、忘れていたとかじゃないぞ?
後で個人的に言おうと思ってた…けど、そういうのは良くないな!』
『グルナ!此処へ来い!』
俺はディーテの前で跪く。
『グルナ、部隊の指揮、そして巨神族との戦い見事であった。
軍の最高司令官として引き続き励むがいい…』
その時、ディーテの目からは涙が零れ落ちていた。
『お前にはコレを授ける。私の魔力を注ぎ込んだ胸当てだ。大事にするんだぞ?』
贈られたのは神威シリーズを膨大な魔力で更に強化した”光輝”の胸当て。
これを用意する為に引きこもっていた様だ。
『グルナ…絶対に死ぬな!私はお前の身を常に案じている。何が有っても生きて帰って来るのだ』
(こんな事を言ってはいけないのは分かってる…でもグルナは私の全てなのだ。私が心の底から守りたいと思っているのは、お前だけなのかも知れない…)
2人にしか聞こえない様な声でディーテは呟いた。
ディーテ…何故、泣いているんだ?
その涙は、まるで此れから起こる出来事を予知している様な、とても悲しい涙だった。
その後、戦闘に参加した兵士全員に純度は高くないもののビトラスの防具が贈られ、盛大に宴が始まった。
しかし、宴の最中も俺の心は混沌としていたのであった。
次話から新章入ります⸜( ´ ꒳ ` )⸝




