第45話 北の国から
北の連邦国
「ミダス、順調か?」
「勿論だ、デケェから速度は出ないが物資と兵士の輸送って部分は文句無しだぜ。
お前の方こそ”あれ”の封印は解けそうなのか?」
「それはもう少しで完了する。封印が解け次第進軍を開始するぞ」
厄介な封印だ…当初の計画からかなり遅れてしまっている。
半年程前の事、北の連邦国は隣国ギガキドネス国へ進軍していた。
ギガキドネス国は大陸北側にある。
国の東は北の連邦国、南側はマカリオス王国、西側はエトリア国に接する人口の少ない小さな国だ。
国土の大部分は山岳地帯。
その為、時期によっては周辺国との行き来が完全に途絶えてしまう孤立する国なのだ。
特に目立った特色の無いギガキドネス国だが、ある伝説が語り継がれていた。
巨神族伝説
大昔、天空の神々と大地の神々ギガス族・ティタン族の戦争が起こった。
天空の神々は全宇宙を支配し大地の統治を巨神族に任せていたが、巨神族は天空の神々が全宇宙を支配している事に不満を持っていた。大地の統治に関して度々干渉してくる天空の神々に巨神族は猛反発する事となる。
その一件から巨神族は宇宙の主権を奪い取る為に天空の神々に戦いを挑んだのだ。
想像を絶する力と不死身に近い身体を持つ神々の戦いは永遠とも思える程長い年月続いたが、ある時決着がついた。
天空の神が創りあげた武器【雷霆】の登場である。
雷霆の力は巨人族を焼き払い、周囲の星々さえ破壊する程の猛威を振るった。
まさに宇宙全体が揺れる程の破壊が起き、巨神族は敗れ去った。天空の神々は巨神族の族長と生き残った者達をギガキドネスの山に封印したのだ。
ギガキドネス国の民、その先祖は天空の神々より封印の地を守る為に辺境に国を作り住むことを命じられたが、時と共に風化し御伽噺となってしまったようだ。
北の連邦国はマカリオス王国に敗戦した後、ギガキドネス国にスパイを送り長年調査して来た。
御伽噺、成果は期待していなかった。
しかし、実在したなら神の力を手に入れるに等しい。魔王共の力は強大だが宇宙全体に影響を及ぼすには程遠い。
魔王の力が天空の神々と宇宙を巻き込む闘いを繰り広げたという巨神族の足元にも及ばない事など容易に想像出来るというものだ。
調査の結果、奇跡が起こった。
遂に巨神族が封印されている場所を特定するに至ったのだ。
周辺国に知られる事無くギガキドネスへ侵攻した北の連邦国は、瞬く間に占領し属国とする。
巨神族の封印を解くのも手間が掛かるが、問題はコントロール出来るかどうかだった。
コントロール出来なければ諸刃の剣、自国にも危険が及ぶ。
しかし、支配下に置くという問題は解決してしまう。
北の連邦国 皇帝オルガの固有スキルの1つ”支配者”。
この能力は対象の精神に呪印を刻み込み、意のままに操るのだ。
ギガス族の族長とティタン族の族長に呪印を刻み込む、抵抗力は凄まじかったが繰り返し呪印を刻み込み、何とか支配する事に成功した。支配した族長達に配下の巨神族を従わせる。
この世界の最強戦力を手中に収めたオルガが次に狙うのは、勿論この世界の覇権なのだ。
北の連邦国内部では主権はオルガ1人に掌握されていた。
呪印を刻み込んだ配下が各自治体を支配し、軍拡を進め世界征服の時を待っていたのだ。
洗脳教育を受けた兵士達は打倒魔王の瞬間を心待ちにしている。
兵器の性能を実用段階に高める為の実験。
命乞いする魔物を躊躇なくバラバラに吹き飛ばす。
罪悪感など微塵も感じない。
人間こそが至高の存在であり、この世界の支配者に相応しいのだ。
北の連邦国軍の兵士達からすれば、亜人など下等。
魔物に至ってはゴミ以下なのだ。
オルガは配下の将軍達を集め会議を行う。
「オルガ様!航空部隊の練度も十分に上がっております!ご決断下さい!」
末端の兵士達は血に飢えていた。
しかし、それは将軍達も同じなのだ、この中にはマカリオス王国に進軍し地獄を味わった者も居る。
立場的に表に出す事は出来ないが、心に復讐の炎を燃やし続け開戦の時を誰よりも心待ちにしている者達だ。
「今こそ我等が世界の支配者となる時だ!進軍の準備に着手せよ!」
連邦国軍の兵士達は歓喜した。
ある者は、習い覚えた技術を遺憾無く発揮出来る事に。
ある者は、心に飼う殺人鬼という名の鬼を解き放てる事に。
ある者は、歴史の生き証人と成れる事に。
この1ヶ月後、北の連邦国は侵略戦争を開始するのであった。
…………………………………………………
数ヶ月程前
ギガキドネス国は北の連邦国の属国を宣言する。
この報せに森の国を除く各国の王は奇しくも同じ認識を持っていた。
大戦の予感である。
森の国にドワーフ国から緊急会談の要請が来たのだ。
翌日、パーシスやドワーフの大臣達と会談を行った。内容は北の連邦国がギガキドネス国を属国とした事と同国の最近の動向についてだ。
勿論、その件は魔法の紙が届いていて俺達も知っていたのだが、ドワーフ国は密偵を送り込んでおり北の連邦国の内部情報を手に入れていた。
《半年以上前からギガキドネス国に連邦国軍が駐留している。
連邦国は以前から軍拡は熱心に取り組んでいたが、最近は軍の幹部が頻繁に首都を訪れていて、かなりきな臭い様だ》
パーシスは記録映像を見せてきた。
その映像には複数の航空機が映っていたのだ。
「これってドローンじゃねぇか?」
《かなりのサイズだ、無人では無いだろう。密偵の話では旗艦が5隻、輸送艦が100隻以上建造されているそうだ。
ミダスと思しき人物も確認されている》
「有人無人というか…航空機というだけで厄介だ」
あの時、ミダスを始末出来なかった事が悔やまれるが、今それを考えても無意味だ。
ミダスの目的は世界征服だった…可能性は充分にある。
備えはしておくべきだろうな。
森の国へ帰って万が一の時の対策を考えるとしよう。
この件に関しては、今後関係各国と密に情報交換する事が決まり一旦解散した。
『グルナ、戦争になるのか?』
「いや、まだ分からない。でも可能性はあるな。でも早く可能性に気付けた事で平和を守る準備は出来るんだ。
必ず守ってみせる」
俺はこの世界で、一事を成せるのだろうか。