終章 ep.6 名もない花畑 _ 後編
花畑をより彩るように、華やいだ声が聞こえた。
三人組の少女は、楽しげに笑って走る。踏まれた花は、花弁を散らしてひしゃげそうになった茎をまた立て直す。
彼女たちの頭には、綺麗な花輪が飾られている。
その様子を離れたところで、ハインとクラウンが見守っていた。
しばらく無言だったが、クラウンが何の気なしに口を開く。
「ハインさんって、絶望的に不器用なんですね」
「……わざわざ言わなくても良いでしょ。私だって練習すれば作れるようになるわよ、花輪くらい」
ハインは、むくれて答える。
不満そうなのも無理はない。彼女の手には、バラバラになった花輪の残骸が握り締められている。
クラウンが丁寧に教えたが、要領良くコツを掴めたのは少女たちで、ハインは上手く作ることができなかった。
強がっているが、自身の不器用さを引きずっているようだ。ハインは、険しそうに眉間に皺を寄せて大きな溜息をつく。
「良いなぁ…、私もやりたい」
「花輪を頭に乗っけて走り回るんですか?…想像したらちょっとこわ…―」
「またほっぺた抓るわよ」
「黙ります」
ハインにじっと睨まれて、クラウンは食い気味で即答する。
忘れていたはずの頬の痛みを思い出して、怯んでしまった。
ハインはようやく彼が黙って、静かに花畑を眺める。
結局、思い出作りはできなかった。せっかくの観光名所だと言うのにやったことといえば、侍女の格好をして接客したくらいだ。
楽しめたのは、初日くらいではないだろうか。その後は、落ち着けるわけでもなく半日を費やして奔走した。
記憶を振り返って、ハインの顔がまたどことなく暗くなった。
その隣で、クラウンは暇になって自分の手にある花輪を適当に指先で弄る。最初に少女たちに見せた花輪だ。ふと何かを思いついて、その花輪を見る。
ハインは、三角座りで囲った腕に顎を乗せて物思いに耽っていた。
すると、頭に突然ふわっと何かが置かれた。
「え…、」
「大きさは合ってるか分かりませんけど。あげます」
クラウンは機転を利かせて、ハインに花輪を渡したのだ。
ハインは、素っ頓狂な顔をして呆然とする。それから、
「い、良いの?」
「見本として作っただけですから。好きに使ってください」
持っていても仕方ないと思ったクラウンは、正直に答えた。
ハインは、今だ驚いたような顔をしてクラウンを見るも、頭の上に適当に置かれた花輪の位置を正す。
「それで…、走り回りますか?」
クラウンに聞かれたハインは、ちゃんと花輪を被ると微笑んだ。
※
「おねえちゃん、すごくきれい!」
「そ、そうかな…?」
「うん!妖精さんみたい!」
「ありがとう」
少女たちに囲まれて褒められるハインは、どこか照れくさそうにしている。
そのまま少女たちに手を引かれて、念願通り花畑を走り回った。風に乗っているからか、様々な花の香りが体を包むようだ。
その後ろで、クラウンは両手と片腕に少女たちの花籠を持って歩いてついていく。
すると、走っていたハインが何かに気づいて突然立ち止まる。前のめりになった体を何とか起こして、振り返った。
うっかり制約のことを忘れていたことに気づいて、はしゃぎ過ぎた自身に苦笑いする。
クラウンは、ただぼんやりとした表情で彼女を見ていた。
そして、その口元が、
「――――。」
譫言のように、何かを呟いた。
直後、花畑に少し風が吹きつける。
飛んでいきそうになった花輪を抑えて、ハインはまたクラウンを見た。
「今、なんか言った?」
クラウンは、そう聞かれて我に返る。
きょとんとした表情で、ハインは彼を見つめた。
クラウンは、どこか物悲しそうな目を伏せて瞳を揺らす。
ハインの方へと近づいた。
そして、手に持っていた花籠を勢いよく振りかぶって、
「ぶっ!」
中に入っていた花を全てハインの顔に叩きつけた――。
「ちょっと、いきなり何すんのよー!それから花をぞんざいに扱うなっての!」
「…いや、何だか無性にムカついて」
「なんか言われたような気がしたから単に聞いただけじゃない!」
「日頃の恨みを唱えただけですよ。花には申し訳ないことをしたと思ってます」
「じゃあ、私は八つ当たりされたってこと?」
「日頃の行いを見直さないから僕のストレスが爆発したんですよ。なので、ハインさんが悪いです」
「責任転嫁にも程があるでしょ!叩っ斬るわよ!」
「そんな鈍ら刀振り回したところで斬れませんよ」
「なら逃げんじゃないわよ!あ、こら!待てってのぉおお!」






