行間 ある兵士の話
その日は、雨だった。
どんよりとした厚い雨雲が、イェロヴェルリの上空に停滞している。城内の空気はしっとりとした湿気で充満していた。
城下番地から『献上品』の受領を申し出たイェロヴェルリ国。
遡ること、ブクタス率いる分隊が102番地に出立する数日前の話だ。
薄暗い会議室で、長テーブルを囲むように座っているのは、名だたる将校の顔ぶれ。
もっとも室内のランプは、彼らの手元を明るくしているだけでその表情までは窺い知れない。
彼らが着席したテーブルの前に立っているのは、後にブクタスの護衛隊の隊長となる兵士の男だ。
兵士は、手に持った薄っぺらい書類に目を向けている。書類の見開きには『極秘事項』と判が押されていた。
「あの…、これは一体…、」
一通り目を通した兵士は、戸惑った様子で将校たちのいるテーブルに目を向ける。
皺の目立つ両の手の甲――、
がさついた指を組む両手――、
腕を組む手――、
はたまたテーブルの上に足を乗せている者まで様々だ。
誰の声なのか区別はできないが、ある者が語り出す。
「我々の今回の目的は、長らく受け取りを拒否していた城下番地からの献上品の受領だ。しかし、それはあくまで表向きの任務」
「表向き…?」
怪訝そうに繰り返す兵士に、暗がりの方から先程とは違う厳格な男の声が訂正する。
「勘違いしないでくれたまえ。イェロヴェルリ再建する為に、献上品が必要不可欠なのは事実だ。だが、宝石や金がその『最たるもの』というわけではない、ということなのだ」
「国の再建費に、宝石や金はただの石ころと変わらん。一時凌ぎにもならない。重要なのは、その献上品に含まれている『ある物』だ」
どこか気怠そうな初老の男の声が、暗がりの中から補足を付け足す。
話を聞いた兵士は、任務を完遂する以外に興味が湧いた。
「『ある物』…ですか?それは一体どういったもので?」
「君は一兵士に過ぎない。そこまで知る権限はないぞ」
「は…、失礼しました」
初老の気怠そうな男の声に牽制された兵士は軽く頭を下げた。
再び暗がりの中の『声』は、最初に話していた物々しい雰囲気の男の声に変わる。
「…話を続ける。表向きの任務は、ブクタス少佐含めた分隊での献上品受領。だが、君にはもう一つ、極秘任務を与える」
「極秘任務ですか…?」
「詳しくはその書類に目を通してくれ。この事は我々と君のみ、くれぐれも他言は無用だ」
兵士は手に持った書類を再び一瞥する。
現時点できちんと詳細を読んだわけでないが、今回の任務とは関係のない情報に思えた。
すると、それまでの声とは違う陽気そうな男の声が付け加えるように念を押す。
「目を通した後は即刻処分しろ。誰の目や耳にも一切入れるな。分かったな?」
「は、承知しました」
兵士は背筋を伸ばし綺麗に揃えた指で敬礼をすると、何の疑いを持つこともせず彼らの命令を飲んだ――。






