ep.27 強行突破 _ 後編
先程とは打って変わって、まるで敵の気配がない。警戒を完全に解いたわけではないが、少し緩気持ちで長い廊下を歩き続ける。
すると、照明のない薄暗い場所が見えてきた。
開け放たれたままの鉄の扉――、宿屋の裏口だ。そこから、陽の光が入り込んでいる。
なんの気なしに、ハインが先に裏口から外へと出ようとした。その時、クラウンのウサギの耳が立ち上がる。
「!?」
突然ハインの腕が強い力で引っ張られ、建物内に引き倒された。直後、パシュッ!と頭上直下から落ちてきたのは光の線――弾丸だ。
「こっちも見張られているなんて…。用心深いですね」
クラウンは、独り言のように呟く。
彼に引き倒れたハインは、尻もちをついて痛めた腰を摩りながら外を睨みつけた。
「時間がないってのに…!」
「これから先は、イェロヴェルリの兵士たちの妨害が何度もあると想定して動いた方が良いでしょう」
「どっからでもかかって来いってのよ。要は、全員ブン殴れば良いんでしょ?」
立ち上がって、ハインはフンと鼻息を荒くして堂々と言い放つ。
クラウンは、「脳ミソまで拳で出来てるんですか?」と主張を変えない彼女にたじたじになりながらも突っ込む。続けて、
「とにかく、今はここから出ましょう」
「て言っても、どうするつもり?」
「策はあります。こういう時に便利なのが、これです」
クラウンは、手に持っていたアルトンを見せつける。対して、ハインは顔を顰めた。
「安心してください。今は僕が折れたんですから、殺したりしませんよ」
ハインの言いたい事を察したクラウンは、宥めた。
ハインは腰に手を当て、彼の言葉に懐疑的に思い、目を細めて彼を見る。
「口先だけじゃないでしょうね?」
「信用ないなぁ。そこまで疑わなくても、自分で吐いた言葉くらいはちゃんと守りますよ。…今は」
保険のように最後だけは小声で呟いて、クラウンはアルトンのチャンバーを押し出した。
装填していた弾を抜くと、代わりに腰にあるポシェットから、既に六発の弾が備え付けられたスピードローダーを取り出す。
弾丸全体に魔術陣が彫り込まれたその弾丸は、『兎足の弾』だ。
薬室の穴に弾の先端を合わせるようにスピードローダーを押し込むと、一瞬にして装填される。再びチャンバーを戻すと、撃鉄を指で押し下げた。
先程の弾道から見て、外にある別建物の屋上に兵士が控えているのだろう。だが、一発しか発砲されていないところを見ると、ここを見張っている兵士は一人の可能性が高い。
(当たり所が悪いと死ぬかもしれないけど、そこは幸運を祈ろう)
そんな軽薄な祈りを込めながら、室内から外にある建物の外壁に狙いを定める。
「ハインさん、僕が合図を出したら外へ走ってください」
「分かったわ」
クラウンは、狙いを定めた壁に向かって発砲する。
時鐘のような銃声と共に銃口から撃ち出された『兎足の弾』は、黄金色のウサギの陽炎を纏い、壁から壁へと跳弾を繰り返しながら屋上へと駆け登る。
『兎足の弾』の弾道の先には、標的がいた。突然現れたウサギの陽炎に驚いた兵士だったが、
「ぐガ…ッ!?」
「今だ!」
着弾した兵士の呻き声を、ウサギの耳で聞き拾ったクラウンは、ハインと共に外へと勢いよく走り出す。
「うゥ…ッ」
薄暗い路地を走る二人の背中を、負傷した兵士が捉えた。肩からの出血を他所に痛みで震える手で、銃を構える。
(浅かったか!)
標的は、ハインだ。兵士の気配に気づいたクラウンは、振り返ってアルトンの引き金を引こうとする。
その瞬間、ガキンッ!と大砲のような銃声が一帯に轟いた。直後、兵士の頭が弾け飛び、霧散した血飛沫が上がる。
「へ!?なに!?」
その音に驚いたハインは、思わず足を止めて頭を守るように腕で覆い隠す。
頭を失った兵士の体が倒れるのを見届けたクラウンは、
「…大丈夫です。先を行きましょう」
「う、うん…」
ハインがそこに目を向ける前に、クラウンは先へと走って彼女の興味を逸らした。
(借りを作ってしまったな…。後が怖いや)
クラウンは杞憂しながら、どこか遠方で微笑むクリスティーナの姿を思い浮かべた。






