ep.25 巨砲と悪魔 _ 後編
宿屋街広場。
静寂が包み込む中、隷属された兵士たちは依然として持ち場を離れることはしなかった。
彼らに与えられた命令は、ただ一つ。『運び屋を足止めする』。
本来ならば、分隊長であるブクタスと合流することが懸命だろう。しかし、呪術による影響で彼らの判断能力は著しく低下している。
視界内には、死体が至る所に転がっているだけで動くものは何もない。その命令が遂行された今、こうしてその場に座り込むこと以外、何もできないのだ。
だが、それも不測の事態が起こるまでの話。
どこからともなく聞こえた足音に、彼らの体が僅かに反応する。
のろのろとした動作で、その音の聞こえた方へと一斉に目を向けた。
真っ昼間の太陽が、真っ向から眼球を刺激する。
「ァ……?」
きゅっと目を凝らして、ある建物の屋上を見た。
そこには、つい数分前にロケットランチャーで仕留めたはずのクリスティーナが、顔や服に煤埃をつけて立っていた。
『運び屋を足止めする』、『動く者は撃つ』。能動的な行動理由で、彼らは反射的に銃を構えた。引き金に指が食い込んでいく中、それはクリスティーナの背後から突然現れた。
逆光を背に飛び出し、彼らと同じ広場に堂々と降り立つ。燕尾服にシルクハットを被った紳士…顔も手も包帯でぐるぐるに巻かれた異様な人型の生き物。細い体躯ながらも、その長身は目を見張る。
兵士たちの鈍く光る赤い目が、オロオロと泳ぎ始めた。運び屋と動く者…、どちらを先に仕留めるべきか、その迷いが銃口を上下に揺らした。
隙を突いたのは、ヘルだ。スプリンターのような機敏な走りで、ヘルは真っ先に広場中央の花壇に向かう。
それを皮切りに兵士たちの排除対象が、『動く者』に断定された。ガガガッ!と銃口から火が吹く。
ヘルは、顔を覆うように両腕をガードしたまま、ただ突っ走る。
ただ銃を撃つことだけに特化した彼らの照準能力では、たった一つの的すらも撃ち抜けず、ヘルの体を掠めていくだけで全速力の疾走は制止できない。
「がぁッ!?」
ドガァッ!とけたたましい衝突音と共に、ヘルのタックルで花壇が大破した。砕け散った花壇の破片と共に身を潜めていた兵士たちは、まとめて吹き飛ばされる。
隠れていた姿が、一気に見晴らしの良いところに晒された。体制を整える間もなく、次にドォンッ!と大砲のような轟音が聞こえた瞬間、兵士の頭が消え去る。
屋上にいるクリスティーナの狙撃が、光った。
立て続けに『ウルバン』の銃声が、轟く。悲鳴を上げることすら、ままならない。身を隠そうとする前に、血飛沫にもならない肉が飛ぶ。
花壇にいた少数の兵士が抹殺されて行く中、最優先に対象となったヘルに各方面の兵士たちが一心不乱に攻撃する。
それに気づいたヘルは、後退しながら細かく体の向きを変えて銃弾を躱す。
だが、それだけでは終わらない。弾幕すら臆することなく、今度は路地にいる兵士たちに飛びかかった。
「ぐ、フ…!」
手前にいた兵士を抑え込み、そのまま広場へとボールのように放り投げる。
奥にいる兵士の顔面を大きな手の平で鷲掴み、力任せに地面に叩きつけた。気絶した兵士に目もくれず、また他の兵士を広場へと投げる。
「さっすがヘルくん!強いわね…!」
広場に放たれた兵士は、クリスティーナの狙撃で即死。各個撃破、一人一人確実に仕留める。単純なものだが、こうも楽に攻略できたことに、クリスティーナは思わず嬉しそうに笑った。
ヘルは、路地に残った兵士二人の銃を持つ手をそれぞれ掴み上げると、メリーゴーランドのようにぶん回し、広場に放つ。
起き上がろうとする兵士二人の姿を、建物屋上から捉えたクリスティーナは、トドメとばかりに連続で狙い撃つ。
その直後、『ウルバン』の倍率スコープから覗いた先で、兵士らの首元の上に真っ赤な血肉の花が咲いた――。






