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ハインリッヒの旅枕  作者: えくぼ えみ
第二部 『名もない花畑より。』
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ep.24 巨砲と悪魔 _ 前編

 


 花の雄蕊(おしべ)のような広場には、宿屋の建物が花弁(かべん)のように囲うようにして立ち並んでいる。本来なら、この光景にすら感嘆とした息をついてしまいそうだ。


 だが、今ここは小さな戦場と化していた。敷き詰められたレンガ畳や建物の外装には生々しい銃痕(じゅうこん)が残り、瞳から光を失って息を止めた人々の体が横たわり、点在している。


 ある宿屋の屋上では、クリスティーナが相棒でもあるセミオート式スナイパーライフル『()ルバン』を構えていた。

 取引場所となっていた宿屋にハインとクラウンが再び突入した様子を確認する。


(無事に戻れたようね……)


 安心する一方で、クリスティーナには残された仕事がある。倍率スコープから見えるのは、広場の花壇や建物の路地に身を(ひそ)める兵士たちの姿だ。


 クリスティーナへの攻撃を緩めない。兵士たちは身を潜めながら、彼女に銃口を向ける。クリスティーナが伏せていても、構わない。数を打てば当たるような無作為な銃撃に、彼女は顔を(しか)めた。


「全くもう…っ!諦めが悪いわね!」


 屋上のヘリに弾が当たる度に、レンガは砕け、土埃を立たせて破片を散らす。

 クリスティーナは頬をべったりと地面にくっつけて、頭を隠す。遠距離攻撃を得意とする自身の持ち味を活かす為に好機を伺った。


 瞳を閉じて、耳を澄ます。引き金を引くと同時に空薬莢が飛び出す音――、バチバチと火花を吹く銃声――、全てが水中にいるようなぼやけた音響に聞こえる。

 添えていただけの指を、ゆっくりとトリガーにかけた。弾倉が、ガチャ、と落ちるその瞬間を彼女は聞き逃さなかった。


 即座に上体を起こし、スコープを覗き込む。銃口は、既に標的に狙いを定めている。(かろ)やかに引き金を引けば、大砲のような銃声と共に標的の頭が吹き飛んだ。


 銃口を細かく切り替えながら、リロードの間に合わない者から次々と狙撃する。少しでも、顔を出しているだけで良い。この愛銃『ウルバン』の破壊力からは、逃れられない。


 顔面の半分が血肉と一緒に弾け飛び、ある者は銃弾が頭を(かす)めただけで骨ごと肉を(えぐ)り取る。伏せては起き上がる度に狙撃するという繰り返せば、順調に敵の数を減らすことができるだろう。


 だが、クリスティーナが少し目を離した瞬間。物陰から兵士が広場に飛び出した。


 集中力を研ぎ()ませていたクリスティーナは、即座にその兵士を撃つが、狙いが少し外れ、片方の足首が弾ける。


 兵士は、その拍子に転んだが。


「ちょ、ちょっと!なんてもの持ち込んでるのよ!」


 スコープから見えたのは、兵士が苦悶の表情を浮かべて(よだれ)を垂らしながら、グラグラと不安定に掲げた鉄の大筒――ロケットランチャーだ。


 頭を狙い撃とうとしたが、間に合わない。


「くっ!」


 クリスティーナは、『ウルバン』を抱えて立ち上がる。

 兵士は、クリスティーナのいる建物に狙いを定めて、ロケットランチャーの引き金を引いた。射出された弾頭は、煙の線を(えが)きながら建物へと飛んでいく。


 その先端が、衝突した瞬間。強烈な爆発を起き、爆風が吹き荒れる。


「きゃああっ!」


 衝撃で、クリスティーナの体は建物の裏側まで一気に吹き飛ばされる。一瞬意識を失い、そのまま地面へ真っ逆さまに落ちていく。


 しかし、宙に放り出されたクリスティーナを寸でのところで何者かが受け止めた。その拍子(ひょうし)に、彼女の意識が戻る。


「へ、ヘルくん…?」


 横抱きにされたクリスティーナは見上げて、(おもむ)ろに呼んだ。直後、ヘルはクリスティーナを抱えたまま地面に着地する。彼女を、ゆっくりと腕の中から下ろした。


「助かったわ……。ありがとう」


 クリスティーナが、痛む体を抑えながらそう言うと、ヘルは軽くシルクハットを持ち上げて返す。


 ひとまず落ち着いたクリスティーナは、建物を見上げた。


 広場の反対側に落ちたのは、不幸中の幸いだ。避難が遅れていれば、爆発に巻き込まれて無事では済まなかっただろう。


 とは言っても、今だ広場の状況は変わっていない。


「こうしちゃいられないわね。早く片付けないと……」


 普段のような軽薄な態度とは違い、クリスティーナは切迫していた。


 しゃがみ込んで、地面に落ちた『ウルバン』を拾い上げると、弾倉を抜き取る。再度それを差し込んだ後、全体を見た。

 傷はあるものの、大きな損傷はない。安堵したクリスティーナは、ほっと息をつく。


 隣にやってきたヘルが体を(かが)ませて、人差し指を立てた。そこから、光が文字を(つづ)る。


『どこかに移動する?』


「そうしたいところだけど…、敵の装備が厄介で近づけないの。まさか、あんな重装備だったなんて……」


 ヘルの協力は嬉しいことだが、クリスティーナは苦悩した。


 彼女には、魔術の心得はない。一般人よりも戦闘に長けているのは、射撃の腕と幾多もの場数を踏んだ経験だけ。主な攻撃は、遠距離からの卓越した狙撃だ。ロケットランチャーのような破壊力のある攻撃をされると、その利点を活かせない。


 クリスティーナは、策を打つべく考え込む。


 その姿を(かたわ)らで見守るヘルも、空を見上げて考えた。体のサイズには見合わない小さな棺桶型のリュックの肩紐を強く握る。


『…行っていいよ』


 自身を送り出してくれたヨハネスの声を思い出す。


 蒼馬の掟を捻じ曲げたくはないが、ここで動かなければ被害は広がる一方だ。何より今回の相手は魔術ではなく、呪術。だとしたら、最終的には――。


 その答えに辿り着き、ヘルは意を決して、指先でクリスティーナの肩を叩く。


 気づいた彼女は不思議そうな顔でヘルを見る。ヘルは両手を広げて、光の文字である策を講じた。


『オトリになる。その間に、撃って』


「ええー!だ、大丈夫なの…?」


 クリスティーナは驚愕して、不安そうに言う。対して、ヘルは『任せて』と言わんばかりに胸を張って叩いた。


 クリスティーナにしてみれば、願ったり叶ったりの策だが。蒼馬構成員直々の使い魔、という点だけが引っかかる。怪我でもさせたら、後で何を要求されるか……と悩んで軽く(うな)った。


 だが、それ以上の最適な策が他にない。


「……分かった。ヘルくんに任せるわ」


 真剣な表情で承諾すると、ヘルはしっかりと頷き返した。


 互いに広場のある建物の向こう側を見据()えて、


「反撃と行きましょうか!」


 ウルバンのハンドボルトを引き込むと、ガチャリと重厚な音と共に弾が装填された。





クリスティーナの相棒であり愛銃『ウルバン』の補足情報。

『ウルバン』はセミオート式スナイパーライフルなのですが、M200というChey-Tac社の実在のスナイパーライフルをモデルにしています。

なのですが、実在のM200はボルトアクション式(だったはず…ウロ覚えごめんなさい…)なので本作では、見た目はM200!でもセミオートだよ!という空想武器です…!

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