ep.15 餌食
観光地の活気が一気に静まり返った、深夜の102番地。
宿屋街には、ちらほらと人影が見えるものの人気は少ない。
そんな中、小気味いい四拍を一定に保つ馬の蹄鉄の音が響いた。
一台の帆馬車が、一本の路地裏の前で停車する。
一寸先の闇が広がる奥から、ぞろぞろと人の姿が現れた。
「人目に付くな。迅速に運び出せ」
まるで型で量産されたように同じ白い薄汚れたローブを纏うイェロヴェルリの兵士一行だ。
ここは、彼らもといブクタスが宿泊する一等級宿屋の裏口――。
部隊長の男が的確な命令を下すと、数人の部下が何かを担ぎ上げる。
布地でできた、黒い麻袋だ。凹凸していることから、中身が入っていることが分かる。
人型のような膨らみを持つ黒い麻袋は、彼の部下たちによって手早く帆馬車に積載された。
中に入って、引っ張りあげる作業が行われている最中、部隊長の男は馬車を操作する乗り手の部下に声をかける。
「荷物は乗った。始末は、後日行う。…行っていいぞ」
男から、許可を出された部下は頷く。
手綱で馬を軽く叩くと、帆馬車は動き出す。
そろりと荷台に乗っていた部下たちが降車する。
帆馬車を見送りながら、注意深く周囲を見る。
誰もいないことを確認してから、彼らは再び路地の暗闇に姿を晦ました――。
しかし、一連の流れを遠くから観察する者がいた。
彼女は普段と変わりなく、今日行われる仕事の為に最適な持ち場を探していた。
用心に越したことはない。そんな考えの下、受取場所となる宿屋の近くに訪れていたのだ。
丈の短いスカートが伏せていることで、より一層際どいところまでずり上がる。
彼女のいる場所は、宿屋から約一km南方。イェロヴェルリの兵士らが『何か』を運び出したところを、別の宿屋の屋上からたまたま目撃した。
場数だけなら、並みの兵士より踏んでいる。その経験則から導き出された答えは、至ってシンプルだ。
臆病風は、とうの昔に放ってきた。沸き立つ感情は『優越感』だ。持ち場探しのついでに手に入った情報は、えらく大物で昂る。
黒く、長い銃身――彼女の愛銃であるスナイパーライフルだ。
マウントベースに装備されているのは、魔学照準器だ。風速や標的までの距離が数値化され、照準器内で表示している。
倍率されたスコープ内で捉えた彼らの姿を見届けた後、
「ふーん…、何だか面白いことになってるじゃない?」
クリスティーナ・シャルルは、楽しげに微笑んだ。






