表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハインリッヒの旅枕  作者: えくぼ えみ
第二部 『名もない花畑より。』
47/141

序章 その時、彼は


 195番地という砂漠の町にいたはずの運び屋、クラウン=ラウスは、その時、過去の記憶を思い返していた。


(なんで、今、そんなことを思い出したんだろう)


 不可解に思いながらも、心の中は懐かしい思い出で、焚き火に当たった時のようにじんわりとした暖かさを感じた。


 意識は、懐古の記憶から現在に立ち返る。


 彼の眼前には、禁術『入れ違う猫(イレ・キーゴ)』の魔術陣内に大の字で倒れているハイン・リッヒがいた。


 彼女の横腹を挟むようにして立つクラウンは、彼女の腹を爪先で踏まないように(ひざまづ)く。


 風に煽られて消えいく灯火(ともしび)のように、ハインの瞳の光が息を潜め始めた。


 死に顔に近い青白いハインを見て、クラウンは優しく微笑む。


 彼はゆっくりとハインの胸元――正確には心の臓がある方に手を伸ばす。


 ハインの体から数cm上のところに、水面に石を投げられて広がるような波紋が現れた。それは、魔術陣と同じく翡翠(ひすい)色に輝いている。


 クラウンの片手は、ハインが着衣している服や皮膚、肉すらも透過し、すっと彼女の体内に入り込む。


 何かを(さぐ)るように手を動かすと、やがて、手に伝わる熱の塊を見つけた。


 その熱の塊は、手の平に収まってしまう程の大きさで程よい弾力がある。


 クラウンは、それを握り潰さないようにハインの体外へと引きずり出す。


 たぽん、と水中から取り上げるような水音と共に波紋からハインの体内に入っていた片手が出てきた。


 閉じた片手をゆっくりと開くと、そこには色とりどりの火花を間隔的に散らす神聖な輝きを放った熱の塊――魂がある。


(これが、ハインさんの……)


 意志を持ったかのようにハインの魂は、クラウンの手の平の中で形を変える。


 クラウンは、それを大切そうにまた手の平で包み込むと、彼女を見た。


「大丈夫、必ず助けるから」


 彼は、いつかの日に見せた(ほが)らかな笑顔でそう言って、ハインの魂を自身の胸元に埋めるようにしまい込んだ――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ