ep.33 なんとか
ヴィドーが反応する前に、既にガントレットは風の防壁を創り出していた。
ガギィンッ!と刃とそれを阻む風の防壁から、鮮烈な火花が散る。
「ぐぅうッ!」
ハインは低く唸り、何としても刃を通そうと踏ん張る。
だが、魚の大群のような軌道を描いて吹き荒れる風の防壁は、強固だ。
「めんどくさいわねッ!」
苛立ちのままに吐き捨てると、片足を上げて大刀の刃を踏んづけて足場にし、ヴィドーの頭上を飛び超えて倉庫内に入る。
すぐに振り返って彼と対峙すると、足元に血の跡を見つけた。
その後を目で追うことはせず、またヴィドーを睨みつける。
「クラウンッ!いるんでしょ!?」
返答はなかった。だが、それを期待していたのではない。
「私が、何とかやってみるから。あんたも、何とかして!それでも動けそうにないなら、私が代わりにコイツを倒す!」
高らかに宣言して、大刀をしっかりと握り直す。
ふっ、と軽く息を吐き出し、意を決して突っ込んだ。
「甘いな」
ヴィドーが諫めると、鞭を振るうような鋭い音と共に、無数の風の刃が流星群のように襲いかかる。
ハインは息を飲み立ち止まり、飛来してくる風の刃を目にも止まらぬ速さと正確な剣筋で受け流す。
刃が震える音が、絶え間なく倉庫内に響き渡った。
「くっ…!」
「いつまで持つか、見物だな」
風の刃の気配を肌で感じ取りながら刃で払い除け、時に身を躱すその姿は、まるで乱舞だ。
言葉通り、ヴィドーは、悠々とした表情でその光景を眺めている。
(さっさと間合いを詰めて、コイツを叩きたいってのに!)
風の刃が発動している時、同時に風の防壁は現れない。今のヴィドーは、無防備に等しかった。
一気に距離を詰めて一太刀でも叩き込めれば、戦いに終止符を打てる。
だが、そんなハインの思惑を見透かしたように風の刃の攻撃が緩むことはない。
ならば、余計な小細工は無用だ。ハインは、大きく大刀を振って、風の刃を薙ぎ払った。
一瞬、弾かれた風の刃の隙をついて姿勢を低く走り出す。風の刃が、即座に背中を追いかけてきた。
頭上から風の刃が雨のように降り注ぐが、大刀で受け流す。
二m程の間合いを更に縮める為、ハインは片足を軸に高く飛び上がる。
「甘い、と言っただろう」
ガギギィッ!と振り下ろした刃は、またしても風の防壁に阻まれた。不快な音を上げて、火花が散る。
ハインは歯を食い縛って唸りながら、全身で目一杯体重をかける。だが、防壁を斬り破れない。
風の防壁越しに、ヴィドーが小首を傾げたのが見えた。
「物分りが悪いな。……その身に叩き込めば、少しは理解できるか?」
ガントレットを嵌めた腕を、強く薙ぐ。
風の防壁が瞬時に膨張したかと思えば、溜めた力を放出するように全方位に暴風を巻き起こした。
暴風の風圧で建屋内は、ガタガタと地鳴りのように揺れて唸る。
その衝撃は凄まじく、ハインの体は奥にあった荷馬車に叩きつけられた。
彼女の手から離れた大刀は虚空を舞うと、からんと空虚な音を立て地に落ちる。
後頭部を強打したハインは、意識を手放した。
「貴様が、ここに来たということはゴダは倒されたようだな……」
ヴィドーは、月光を遮る奥の暗闇に消えたハインに、歩み寄っていく。
「貴様の持っている刀は、魔術に対抗できるそうだな?…だが、欲張りすぎだ。戦闘用として造られた魔具の前では、呆気ない。魔術に対抗できたとしても、魔術を無効化するわけではないからな」
進んでいくと視界が暗闇に慣れ、数m先にいるハインの足先が見えた。
再び、ガントレットが金切り音を上げる。
「心配するな、気絶している間にさっさと始末してやるさ」
一糸の風の刃が、ゆらりと現れ、ぴんっと張り詰めた。
苦痛を感じぬ間に死へと向かわせるため、狙いをしっかりと定める。
だが、
「いいとこ取りみたいで、なんだか申し訳ないですね」
はっとした様子で、ヴィドーは勢いよく見上げた。そこには。
「おかげで何とかできそうです、ハインさん」






