ep.23 本題
「まだ怒ってるんですか」
食事を終えたクラウンは、ローテーブルを挟んだ猫脚の一人掛けソファーに座るハインに向けて投げかけた。
ダンは、目を覚まさないカイルの容態を気にかけて、すでに寝室に入っている。
第三者がいなくなったせいか、クラウンは妙な緊張感を感じていた。ソファーの背もたれから離れて姿勢を正す。
一方のハインは、足を組んで肘掛けに肘を立て頬杖をつき、こちらを見ようともしない。問いかけにも、無反応だ。眉間に深く皺は寄せ、柳眉は曲げられている。
表情から窺えるのは、明らかな怒りだ。
当然、心当たりはある。
だが、今はそんな事よりも、ある事態が切迫しているのだ。一つ息を吐いて、説明する。
「ハインさんが眠っている間に、番地内を手乗りウサギで色々調査したんです。……その結果、昼間の強奪犯の居所が分かりました」
「そう、」
「はい。場所は、195番地の外れにある古い厩舎郡。そこが彼らの一時的なアジトのようです。作業が終わり次第、彼らは撤退するでしょう」
「ふーん……、」
ハインはこちらを見ることなく、適当な相槌を打つ。
どこか上の空のような彼女の態度に、若干苛立ちを覚えた。眉を顰めて、とりあえず咳払いを一つ。
「話、続けますけど…。彼らは、どうやら魔具『鍼』を使って、荷札の解除を試みているようです。魔術陣の陣式には、いくつか穴がある。『鍼』は、それを突けることができるものです。組み込まれた陣式を変換することができる。つまり、」
「運び屋なしで荷物を召喚できるってこと?」
「その通りです」
ハインの推察に、クラウンは頷いた。
まるで予想していなかった展開に、思わず苦い顔をする。続けて、
「本来『鍼』は、壊れた魔具の修理をする際、組み込まれた魔術を解除する時に使われる専門用具です。魔具を製作する職人……『魔道者』の職以外では、簡単に手に入る代物じゃない。
実際それを使っている強奪犯の一員の男は、素人のようでしたから。僕の予想では、彼らには何かしらの後ろ盾があると踏んでいます」
「後ろ盾も何も、あんたなら心当たりはいくらでもあるでしょうが……」
「何か言いました?」
ぼそりとハインが呟いたが、聞こえなかったクラウンは小首を傾げて聞き返す。
だが、彼女の態度は強硬なままで黙りこくった。
まだ、怒りを燻らせている。寝室での一件が、尾を引いていると思った。
「言い訳はしたくないですけど……。あれは、事故みたいなもので。まじまじと見てませんし、最初は目に飛び込んできたんで…、見たことには変わらないと思いますけど……」
つらつらと弁解の言葉が、ついて出てくる。
少なくともクラウンは、大したことではないと思った。だが、ハインの態度を見て良しとしていないことも分かる。
段々、弁解自体が不審に思われているのではないか、と一人で高度な心理戦を繰り広げていた。
すると、
「……あんた、」
「はい、」
ようやく口を開いたハインは、す、と流れるようにその眼差しをこちらに向けた。
そして、一言、投げかける。
「クラウン=ラウス、なんていう名前じゃないんでしょ」






