第14話
また短めで申し訳ないです。
「よし、今日一日の予定は済んだね。ルベルの稽古はだいぶ先の時間だし……そうだ、家の下見にでも行かない?」
昨日の子の時間はソルジャーゴブリンを倒していたのだが、まだまだ経験値が足りず、LV30になるには至っていない。今からまたトールの森に行くのは億劫だ。そこでジェリダが思いついたのは家探しだった。
「家ですか。購入する予定の場所を探すということですか?」
「そう。お金もだいぶ溜まって来てるし、そろそろいいかなって思って」
「いいですね。では一度、ギルドに行きましょう。確かギルドで売られている家の情報が置かれてあったはずなので、その中から気になった所に行ってみましょう」
「そうだね、薬草のクエストもついでに終わらせようか」
大概の情報はギルドで手に入れることが出来る。他にも役所などでも多くの情報を手に入れることが出来るが、役所は町に住む住民が多く利用する。冒険者は主にギルドから情報を得る。特に分けているのではないが、自然とこうなっている。
ギルドで薬草を買い取って貰い、銀貨二枚、石貨八枚を受け取った。少量の薬草を適当に摘んで来たのでいつもより額は少なめだった。
「家の情報が載ってるのってこの冊子だよね。結構分厚いな」
ジェリダが手に取ったのは今、ホロルの町からその周辺で売られている家の情報を集めた冊子だ。冊子と言ってもかなりの分厚さで誰か撲殺できるのではないかと思う程だ。
ギルドにある自由スペースで椅子に座り、適当に冊子をぱらぱらとめくる。冊子は家の広さで昇順に綴じてある。あまり小さな家は嫌だとジェリダが言うので、真ん中のページから家を探す。
「ルベルは何か希望はないの? 家のこだわり的な」
「こだわり、ですか……。それなら俺は小さくていいので庭が欲しいです。そこで何か育てたいです」
「庭か、いいね。じゃあそれも条件に入れて探そう」
探すのは貸家ではなく、購入できる売家を探す。庭付きの家はホロルにはあまりなかった。あるとしても逆に家が広すぎて、二人で暮らすには大きすぎな家が多かった。色々とページをめくり、これはいいのではないかという物件がいくつかあった。その内から時間的に三つを厳選し、見に行くことにした。
ホロルの町はかなり大きい。円形の大きな砦に囲まれたホロル。その中心は円形に流れた小さな用水路で分けている。円形の用水路に囲まれているのが中央区。中央区にはギルドや闘技場があり、町の重要な機関は中央区に集まっている。そこからケーキを切り分けるように、東西南北を区切る用水路が四本流れている。
まず一件目はホロル西区にある物件へ行ってみる。その場所は西門にも近く、クエストに行くのにまあまあ便利ではある。だが。
「隣が酒場というのは色々とトラブルがありそうですね」
そう、ルベルが指摘したようにその物件の横には酒場があり、夜になると騒がしくなりそうな場所だった。庭の広さや家の大きさは問題ないが、騒音はかなりのストレスになるという。
「よし、次に行こうか」
ここはないと早々に見切りを付けて二人は次に向かう。
次の物件は中央区にある。周りは一件目に比べて騒音に悩みそうな感じではないが、庭が小さかった。縦一メートル、横二メートルほどの小さなものだった。家も庭に似て小さかった。その理由は中央区に住宅が密集しているからだ。そのため、ギリギリの敷地に家を建て、無理やり庭をくっ付けたような家だった。
「うーん。家の大きさや周りの環境は問題ないとしても庭が小さすぎる」
「俺はこれでも十分ですが」
「いや、こんなに小さいならまだ一件目の方がいい気がする。もう少し、広い庭がいいね。次」
二件目は取り敢えず保留という形にして最後の物件へ向かう。三件目はホロルの郊外にある物件だった。結局通ることになった西門をくぐり、トールの森へ行く方向を北とすると南に二人は向かう。
トールの森やその奥にあるソルジャーゴブリンを狩ったコレイラ山はステリド国の領土になる。ホロルに隣接する三か国は仲が良いため今の二人のように簡単に領土内に入ることができる。ステリド国は自然が多いことで有名な国で、二人が向かう先もやはり森が近くにある。
トールの森へ行くのと変わらない時間でその物件に辿り着いた。そこは近くに酒場があるでもなく、家が密集しているために狭い面積という訳では無く、まさに理想的な物件だった。
白木で建てられた家の屋根は赤く、人が住まなくなってまだ日が浅いのかそこまで荒れているという感じではない。庭までは手入れができないのか大きな草が沢山生えてはいるものの、引き抜けば問題ない。庭も文句なしで広かった。今まで見た中で一番広いと言える。
「少し家は大きいようですが、ここは森が近くて静かですし、庭も大きい。一番いい物件ではないですか?」
「うん、私この家好きかもしれない」
その言葉はルベルが今までジェリダを見てきた中で一番素直な言葉だと思った。表情もどことなくウキウキしているように見える。
「この家、いくらだっけ」
「確か銀貨七十枚ぐらいでした。中央よから遠いという不便さがあるので」
「そのくらいは別に平気かな。庭はどうにかなるし、家は見た所何処か修繕が必要って感じではないよね」
家を持っている売主に鍵を借りれば中を見ることができるが、今は下見程度なので中に入ることはできない。
「ほぼこの家で決定かな。もうそろそろ初めてルベルがジェニオさんに稽古してもらう時間だし、帰ろう。また明日改めて売主に鍵を借りて中を見に行こうか」
「そうですね。また明日、見に来ましょう」
ジェリダは明るさからそろそろ約束の時間になるだろうと考えて中央区へ戻ることにした。ルベルはジェニオと闘技場で稽古をしてもらうということになっていた。
ジェリダは特に用事がないので部屋に戻り、ルベルが戻ってから夕食にしようと言ってギルド前で別れる。ルベルは午後六時から七時までの一時間だけの稽古だ。
「一時間も何をして待っていようかな」
短いようで長い時間だ。何をして過ごそうかそう考えた時、近くを何人かの冒険者が通り過ぎていく。他の部屋で寝泊まりしている冒険者のようだ。それで思いついた。
「索敵スキルの訓練でもしようか」
ジェリダは部屋に入ってドアを少し開けた状態にしておくと、椅子に座って目を閉じ、集中する。三階の宿泊部屋は意外と人通りが多い。特にこの夕方の時間は人が多く通る。それを利用して索敵スキルの強化をしようと考えた。
薄い布をだんだんと広げるように索敵の範囲を広げていく。まだレベルが低いためか、ドアから廊下を二メートルぐらいまでしか範囲にできなかった。とりあえずはそれでやってみることにする。
(一人…いや二人かな)
範囲に人が入ると気配を感じ取る。心の中で人数を探り、目を開けてドアの前を通った人数を確認する。ジェリダの予想通り、ドアの前を通ったのは二人だった。
「よし、ルベルが返ってくるまでこれで練習をしよう」
何度か人数が多すぎると失敗することもあったが、徐々に範囲を広げて最初よりも感知できる範囲が広がった。
「よし、次は……一人、かな」
「何が一人なんですか?」
「あ! お帰り……って、かなりしごかれたみたいだね」
「あはは……」
ジェリダが目を開けるとルベルがドアの所に立っていた。だが、そのルベルの姿に流石のジェリダも頬が引き攣る。帰って来たルベルの姿はボロボロで、シャツのあちこちが少し破れていたり、汚れていたりした。
「いや、本当に実戦形式でやったんですが、意外と容赦なくって……。何度も意識が飛びそうになりましたが、まあそこは手加減されてるので何とか大丈夫でした」
「なるほどねー。でも、次からは破いてもいい服を着て行った方がいいね。明日でも買いに行こう。そのシャツは流石に捨てた方がいいかな。縫ったとしても不格好になっちゃうし」
「そうですね。すみません」
「いいよそんな気にしなくても。お金は……ああ! そうか、ルベルにもお金を渡しておけばよかったのか」
突然大きな声を出すと、ジェリダはお金を入れている袋から小さな袋にお金を分ける。そしてそれをルベルに渡す。
「はいこれ。少しだけど服とか食べ物は自由に買える分はあるから。これ持ってたらそんなに謝ることもないでしょ」
ジェリダがいれた額は銀貨四十枚だった。
「そんな! 俺は今のままでも……」
「いいわけないでしょ。仲間なんだから。とりあえず小さな袋に入るだけ入れてるから今度新しい大きな袋にお金を半分にして渡すから」
「……ありがとう、ございます」
少し申し訳なさそうだったがルベルは素直に受け取った。だが。
「あの、ジェリダ様、俺は鞄を持ってないのでそちらの鞄に入れて貰ってもいいですか」
「ああ、それもなかったね。じゃあ明日は買い物の日だね」
意外と足りない物の多さが今になってわかってきた。一度ルベルに渡したお金を鞄に戻し、二人は食堂に行くことにした。もちろん、ルベルの服は別の物に着替えて。
◆◇◆
「いやー、エンティリオちゃんの毒が効かないなんてあの子、本当に何者なんでしょうねぇ。すごく興味がありますよぉ。いいですねぇ」
トールの森、そこにあの眼鏡をかけた黒ずくめの男が立っていた。側には気に擬態したセンティービートが四匹控えている。男がいるのは今朝、ジェリダが死んだゴブリンアンデットの肉を食べた場所だ。
あのゴブリンアンデットを殺したのは確かに他の冒険者だった。だが、そのゴブリンアンデットに毒を仕込んだのはこの男が操るセンティービートだった。だが、その毒が効くまでには少し時間が掛かる。この男はまだ知らないが、そのお陰でジェリダは悪食スキルでセンティービートの毒に耐性ができたのだ。
「磔にするつもりでしたが気が変わりましたよぉ。あの子は捕まえて実験をしましょう。いいですねえぇ。楽しみです、フフフフフフ……」
暗くなりだした森にその男の不気味な笑い声が響く。そのまま男は森の奥へと消えて行った。
次は二日後の4月3日21時に更新です。