第10話
今更ながら章を追加しました。
《訂正》
諸事情で長さの単位をセンチやメートルに変更します。申し訳ありません。
◆◇◆
とある夜。古びた建物の地下に集まる五人の者がいた。一様に黒い衣服や仮面を着けた異様な集まりだった。
「エリオルは見つかったのか?」
一人の初老の男が誰ともなくエリオルという者の行方を尋ねた。すると隣にいたフードを鼻の下まで深々と被った男がそれに答える。
「ああ、大分探すのに苦労したが、もう地図に名前も載らないさびれた村で死んでいた。しかも食べられてね」
「食べられて死んでいただと?」
「ハッ! どうせ調子こいてやられたんだろ。弱者は『明けの塔』には必要ない」
顔全部を覆う仮面に、黒装束。そんな威勢のいい声が若い男が、死んだという男を罵る。
「あははははぁ。君ははっきり言うねぇ。いいねぇ」
ひょろりとした男が笑う。目元にはメガネ、口にはニヤリと口角を上げるマスク。だが、その実、男の目は笑っていない。
「死んでよかったんじゃない? 実力もなく、自分が欲しいスキルは金で買うような男だったんだし」
集まりの中で唯一の女なのか、目元を隠す赤い仮面を着けている。自身の爪をしきりに気にしながら、どうでもいいというような態度だ。
仲間が死んだというのに発せられる言葉はどれも冷たいものだった。そもそも、彼らには仲間意識というものは端からないのだろう。
「だが、我ら明けの塔へ泥を塗られたのは事実。殺した者の当ては当然あるのだろう?」
「もちろん。だがあの村には生きた者が誰もいなくてね。かといってエリオルの死体を食べる魔物も近くには住んでいない。まあ、死体の近くに誰かが火を起こした跡があったから誰か人間辺りが食べたんだろうけど。近くに生きてる草が中々なくて、何があったのか聴くのに苦労したよ」
「てめぇの苦労話しなんかどうでもいいんだよ! さっさと結論を言え!」
短気な性格なのか、黒装束の男が怒鳴る。フードの男は特に怒ることなく続ける。
「そんなに怒るなよ。で、エリオルを殺したのはその村で生き残った子供だったそうだ。しかも女。まあ、自分が操っていたアンデットが誤って彼の目に矢を射たのもやられた原因の一つだとは思うけど」
「自分の操るアンデットの攻撃を食らうなんて、死んで当然ね」
「そして、その子供はエリオルの肉を食らい、その荷物を持ってホロルがある方角に向かったらしい。教えてくれた草の記憶から容姿を浮かび上がらせたのが、これだ」
フードの男が懐から一枚の紙を取り出す。そこに映し出されたのはエリオルを殺したという少女の顔だった。
「誰か、始末しに行く者はいるか」
初老の男が問いかけると一人だけ、手を上げる者がいた。
「はぁぁい、私が行きますよぉ。その子、殺したら好きにしてもいいんでしょう?」
そう言う眼鏡の男の目には情欲にも似た感情が滲んでいた。
「げ、また磔作るのかよ。趣味悪~」
ぞわぞわすると言いながら黒装束の男は自身の腕を擦る。だが、何を言われようとすっかり自分の世界に入った眼鏡の男は恍惚の表情を浮かべるだけで何も言い返さない。
「ちゃんと始末はするなら死体はどう使おうと構わん」
初老の男は特に咎めることなく眼鏡の男に始末を任せた。
「では、今宵はこれまでとしよう。次に集まるのは二週間後の新月の夜に。その時に始末は付いたのか報告を聞こう」
初老の男がその場を閉めると一斉にその場から五人の姿が消えた。まるで闇に溶けるように。
ジェリダとルベルがブレイブと戦闘で騒ぎを起こした翌日。その日町中にある噂が流れていた。
それは、二人のルーキーがAランク冒険者のブレイブをぼこぼこにして、ルーキーの方は無傷だったという噂だった。
そのお陰で二人が食堂に降りて来た時、他の冒険者たちの様子がおかしく、どこか遠巻きにしているようだった。本人たちは全くその状況が掴めず不思議に思っていると、女将のルミルが噂の内容を話してくれたのだ。
(どっちかって言うとボコられたのは私たちの方なんだけど、闘技場を出る前に回復魔法で傷を全部治したからそう見えたんだろうなあ……。ま、知ってるのは私たち当事者だけ。否定してもいいけどそうするとどうして無傷だったのか話さなくちゃいけなくなる。なら、何も訂正しない方がちょっかいを出してくる奴もいなくなるだろうから、そのまま放って置こう)
ジェリダは訂正した方がデメリットが大きいと判断してそうですか、というだけに留まった。周りで聞き耳を立てていた冒険者たちは否定しないジェリダを見て目を丸くする。そして、あのルーキーがブレイブを? などと勝手に噂を始めた。
ルミルは冒険者のこういった話には深く追求しないようにしているため、噂を話してくれただけで他は何も聞いてこなかった。ルベルは訂正しなくてもいいのかと目で訴えて来るが、ジェリダは首を振って構わないと伝える。
すると突然食堂にどかどかと足音を立てながら入ってくる者がいた。ブレイブだ。真っ直ぐにジェリダたちのいるカウンターへ歩いて来ると低い声で唸った。
「おい、何で俺が負けた噂が流れてるんだ?」
「さあ? 負けたように見えるからじゃない?」
ジェリダはブレイブを振り返ることなくすまし顔でそう答える。その態度に青筋を立てたブレイブはジェリダに掴みかかろうとして。
「ブレイブ!!」
「っつ!!」
(この前もこんなことがあったな。というかルミルさん、スキルに咆哮でも持ってるの? ……え、持ってないじゃん)
この食堂の主は女将であるルミルだ。そのルミルの一喝は、Aランクのブレイブでもひるませる程の迫力を有している。関係のない他の冒険者もルミルにビビっていた。流石に咆哮のスキルでも持っているのかとジェリダがスキルを視るも、家事、料理、掃除、洗濯のスキルがレベル10になっている以外スキルを持っていなかった。
「いいかい、この食堂、いや外でもこの子らに次手を出そうとしてみな。あんたのこと再起不能にしてやるよ」
「こっのクソババア! こいつらはな俺に――――」
「クソババアだって?」
あ、と。誰もが心の中で思った。そして、次の瞬間、ルミルは軽々とカウンタ―を飛び越えたかと思うと、渾身の蹴りをブレイブの、男の急所へとクリーンヒットさせた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
ブレイブは声にならない悲鳴を上げてその場に無様な格好で崩れ落ちた。仁王立ちで立つルミルの背後には燃え盛る炎をバックに鬼が見えた。
「この私にあんたが勝てると思ってんのかい。小さな頃から私に負けっぱなしのあんたが!!」
『えええええーーーーー!!』
その場にいた全員がルミルのその発言に驚いた声を出す。ルミルのレベルはブレイブのレベルの半分、30しかない。だというのに、ブレイブが一度も勝てないとは誰もが驚くだろう。
そして、その場にいた誰もがが心に刻んだ。ルミルには逆らうまいと。
「さて、馬鹿は片付けたし、ジェリダちゃんとルベル君の朝ごはんを作らないとね」
ジェリダとルベルを振り返った時には綺麗さっぱり鬼の形相は消え去り、いつもの優しい笑顔がそこにはあった。だが、今目の前で起きたことを考えると怖く思える。
ルミるに敗れたブレイブは他の冒険者たちに部屋の隅に引っ張っていかれた。同情の気持ちも少なからずあったが、大半は単に邪魔だという感情だ。
その朝の食堂は、気まずい雰囲気に包まれていた。
食堂での珍騒動を経て、二人はまた今日もトールの森にやって来ていた。午前中は薬草を探し、ルミルに特別に作ってもらった弁当で昼を過ごし、午後からゴブリン討伐のクエストを兼ねた実践練習をしていた。
「〈モーメントランジ〉!」
ルベルはこれまでに使ったことの無い、剣技を使って目の前のゴブリンを一突きで仕留めていた。そのゴブリンが最後の個体で、周りには三体のゴブリンが転がっている。なぜ、昨日まで剣技を使えなかったルベルが使えるようになったのか、それは昼頃まで時間を遡る。
薬草をたんまりと午前中に採取することのできた二人は、丁度木で木陰になっている石の上に座り、ルミルに作って貰った弁当を食べていた時である。近くを三人パーティーの冒険者たちが通って行った。互いに軽く会釈をする程度だったのだが、丁度近くにゴブリンが潜んでいたのか三人パーティーが戦闘を始めた。
弁当を食べていた二人だったが、かなり近くで戦闘が始まったので、もしこちらにゴブリンが逃げてきてもすぐに反応できるように食べるのを中断して、いつでも動けるようにしておく。あまり木の多くないその辺りでは、ゴブリン五体を相手に戦う三人の姿がよく見えた。
「あの三人、私たちとそうレベルは変わらないみたい。だけど、多分あの前衛にいる黒髪がリーダーだと思うけど、剣術があのLVで6もある。かなり鍛えてるんだね」
鑑定で情報を視たジェリダが感心したように呟いた。この調子ならゴブリンは二人の元に逃げる暇もなく倒されるだろう。そうルベルが思った時、黒髪の男がゴブリンに剣技を発動した。
「〈モーメントランジ〉っ!」
その剣技を見た時、ルベルの頭に軽い電流が走るような感覚がした。それと同じくして左の目が少し熱を持ったようだった。左目はジェリダに教えてもらった観察の魔眼がある。まさかと思っていると、黒髪の男は次に別の剣技を発動した。
「〈スラッシュ〉!」
「ギギイィ」
横一線に剣を振るう剣技でゴブリンの体は真っ二つになる。甲高い悲鳴を上げてゴブリンは絶命した。残りのゴブリンはもう一人の前衛が二体、ジェリダと同じ魔法使いの後衛が一体を倒していた。
また、ルベルの左目が熱くなる。そして、今見た技が自分の中に取り込まれるような、自分が今剣技を使ったかのような感覚を味わう。
「どうしたの、どこか調子が……ルベル、魔眼が発動してる」
「え…」
自分の左目に手を当てて俯いたルベルの体調を気遣ったジェリダはルベルの手から覗く目を見て驚いた声を上げる。昨日、ブレイブを殴っていた時の右目のように赤く爛々と光っていた。その指摘にルベルはやはりと思う。電流が流れるような感覚も、左目が熱を持つのも魔眼が発動しているからだった。
ルベルが今見た剣技とは、魔法使いで言う所の呪文のような位置づけになる。本来なら冒険者ギルドで剣士を選んだ際に剣術スキルを得て、普通に使いこなすことができるものなのだが、ルベルの場合少し特殊だ。
スキルのうち、○○術とあるものは、そのスキルを持っている者から教わり、基礎を理解するとそのスキルを持てるようになる。なので、今のルベルの場合、小さい頃に父親が剣術、弓術、槍術のスキルを持っていたため、その父親に教えてもらって基礎を理解したルベルはその時にその三つのスキルを手に入れたのだ。
その場合、剣技は基礎を理解してから教えるものなのだが、それを教わる前にルベルは家族を殺され、奴隷になった。身に着けたスキルは消えることはないが、剣技を知らない中途半端な状態だ。
この場合は冒険者ギルドで職業選択をしても、既に剣術を学んでいると石板に判断され、その知識は流れてこない。それはジェリダが職業に魔法使いを選んだ際も、同じ現象が起きていた。魔法基礎スキルを持っているからもう魔法基礎に関する知識は必要ない。二重の知識を詰め込む手間を石板は省いてしまう。剣技を知っているかどうか、その細かい判断を石板は出来ないのだ。
短剣術に関しては剣士になって初めて手に入れたものなので、短剣技と呼ばれるものを使うことが出来る。だが、剣術や弓術、槍術に関してルベルは、いつか他の剣術スキルを持つ冒険者に、剣技の教えを乞おうと思っていた。
それが、魔眼の発動によって見るだけで剣技を覚えることができるということに気が付いた。それと同時に、この左目の観察の魔眼はパッシブスキルだということに気が付いた。
パッシブスキルとは、能動的に発動するスキルのことを指す。さっき黒髪の剣士が発動した剣技はパッシブスキルとは言えない。意識しなくてもいつも発動している状態のスキルがパッシブスキルだ。
恐らくルベルの観察の魔眼は常時発動していて、何か自分が吸収できる技などを見ると魔眼に魔力が集まり、爛々と赤く輝くようになるのだろう。
心配するジェリダにルベルは自分の考えを伝え、これを使いこなせるようにしたいと伝えた。するとジェリダはすんなりと了承し、午後のゴブリン狩りでスキルを試してみようということになったのだ。
「どう? 剣技を使った感じは」
「今のところ、記憶が薄れていないのですんなりと使えます。ただ、こう剣技をいちいち言っていては敵に対応される可能性があるので何か言葉を用いずに使えるようにしたいです」
「その辺りは剣技に慣れて来てからだよ。その時は私が教えるから」
剣技は魔法で言う所の呪文、だからなのか剣技を使うと少量のMPを消費している。その分、通常の攻撃よりも威力はますのだが、MPの管理には気を付けなくてはいけない。
「今は取り敢えずどんどんゴブリンを狩って、記憶が薄れないように身体に剣技を覚えさせるのが今は大事だよ。次のゴブリンを探しに行こう」
「はい!」
二人はその後もゴブリンを狩り続け、合計で二十体のゴブリンを討伐した。
「〈スラッシュ〉!」
二十体目のゴブリンを剣技で倒したルベルはかなり剣技が身に付いてきていた。と、草むらから一体だけのゴブリンが現れた。
「ルベル、ちょっとそのゴブリン、剣技を使わずに一撃だけで倒してもらえる?」
「? はい、分かりました」
そう言ってルベルは心臓を一突きにしてそのゴブリンを仕留めた。ジェリダはそのゴブリンに近づくと素材を剥ぐではなく、何かをしている。気になってルベルはジェリダに問いかける。
「ジェリダ様、一体何をしているんですか?」
「ちょっとね、ルベルの頑張りように私も感化されたから、ちょっと今まで使わなかった魔法を使ってみようかなと思って」
そう言ってジェリダは杖に魔力を通し、死んだゴブリンに手を翳す。するとピクリと、ゴブリンの手が動いた。
「ジェリダ様! 離れてください、そのゴブリンはまだ息があります!」
「大丈夫、これは本当に死んでるよ。いま死霊魔法を使ったの」
「死霊魔法、ですか」
「そう。ちょっと実験だからどうなるか分からないけど」
ジェリダが死霊魔法を使い、ゴブリンはゆっくりと体を起こした。
「ギギ……ギギャギャ? ギャギャ!」
ゴブリンは自分の体を見下ろしながら不思議そうな声を出す。そして、自分を殺した者の姿を見て驚きの声を出し尻餅を付く。
「もしかして、殺したばかりだからさっきまで生きていたゴブリンの意識が残ってるのかな?」
「ジェリダ様、もしそうなら危険なので少し離れてください」
「大丈夫、武器も持ってないし」
そう言ってジェリダは更にゴブリンへと近づく。パラメーターをその間に確認してみる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前 なし
種族 ゴブリンアンデット
称号 なし
LV 5
HP 12
MP 3
《スキル》
黒魔法 LV 1
短剣術 LV 1
《固有スキル》
なし
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(ふむふむ、ゴブリンは黒魔法を使えるのか。いままで確認してないから知らなかったな。いつも瞬殺だから魔法を使うゴブリンもいなかったし)
冷静に分析をするジェリダだが、ルベルは気が気でないらしく、少し焦った声を出す。
「ジェリダ様!」
その声を聞いてもジェリダは特に気にせず、ゴブリンアンデットに声を掛けた。
「私があなたをアンデットにしたの。わかる? 私が、あなたのボス」
自分とゴブリンアンデットの間を指で行き来して関係を教える。分かりやすいように言葉もゆっくりと話す。
「ギィ? ギギィ?」
ゴブリンもジェリダと同じように手を動かす。どうやら言葉が分かるようだ。その反応に満足してジェリダは頷く。
「あなたは、私の使役になったの。それと、あなたに任務を与えるけど、いい?」
「ギイ」
ゴブリンアンデットは素直に頷いた。油断している隙にゴブリンアンデットがジェリダを傷つけるのではないかと、心配していたルベルは少しその素直さに拍子抜けする。
「いい子ね。じゃあ、この薬草について書かれた冊子をあげるから、明日の朝、薬草をここに集めて来て。ただし、冒険者に見つかって殺されないようにするの。分かった?」
「ギイ!」
ゴブリンは元気よく返事をした。そこでジェリダが、そうだと言ってゴブリンアンデットの傷を見る。
「その傷は治した方がいいよね? 回復魔法は通じるのかな?」
ゴブリンアンデットの心臓はルベルが倒す際につくった傷がある。そこにジェリダが手を翳して回復魔法を使うとみるみる傷は塞がった。死霊魔法を使った後のアンデットには回復魔法は有効のようだった。HPは12から23へと上がった。だが、MPは消費していなかったため3のままだ。
「ギ! ギギィギ!」
ゴブリンアンデットは治った傷口を見て嬉しそうだった。そして、ジェリダに抱き着く。
「あ! このゴブリン! ジェリダ様から離れろ!」
ルベルが声を荒げるが、ジェリダはびっくりした表情を見せたものの、まんざらでもないようだった。
「あはは、懐いたのかな? アンデットになっても感情はあるみたい。そうだ、一応これを貸してあげる」
そう言ってジェリダが取り出したのは魔法鞄に入れておいたナイフをゴブリンアンデットに手渡す。
「もしも、他のゴブリンとかに邪魔されたり攻撃されたらこれでやり返しなさい。そして、勝ちなさい。その後は耳を剥いでくれれば完璧」
「ギイ!」
ゴブリンアンデットは返事をしてジェリダからナイフを受け取る。受け取ったナイフを下げるために短い縄でゴブリンの腰にベルトの代わりを作ってやる。その後ゴブリンは手を振って森の中に入って行った。
「なんだか、可愛く見えてくるね」
「俺は不安です。あれで仲間を引き連れて来たりしたら……」
「その時はいい経験値稼ぎになるからいいんじゃない?」
ルベルの反応は不安だけというものではないが、ジェリダが気付くはずもない。そのまま二人はギルドへと帰って行った。
翌日、トールの森にゴブリンに指示をした所へ行ってみる。と、そこには驚きの光景があった。
「ギイギイ!」
二人の反応を見て誇らしげな表情をしているゴブリンアンデットの横には大量の薬草の山と、いくつかのゴブリンの耳、そしてその横に何やら薄紫色の鉱物のような物が三つほど置いてあった。
「ギッギィ!」
ジェリダの側までやって来てゴブリンアンデットは褒めてくれと頭を差し出す。その頭を撫でてやりながらジェリダはようやく言葉を発する。
「いや、これまさか一晩中採ってたの? しかもゴブリンを倒してきてる。その横の鉱物みたいなのは何?」
死霊魔法の実験のつもりでゴブリンをアンデットにしてみたのだが、思っていた以上の成果にジェリダは驚いていた。そして、一番気になる薄紫色の鉱物について尋ねる。
「ギギ!」
すると、ゴブリンアンデットは何やらジェスチャーを始めた。昨日ジェリダが渡したナイフを、自分の首にナイフを近づけ、横にスライドして切ったフリをする。ばたりと倒れたゴブリンアンデットは起き上がり、次はその死体に何かする動きを始める。
そして、死体から何かを取り出す動きをして近くにあった鉱物を取り掲げた。そして、その鉱物をもぐもぐと食べるジェスチャ―をしてムキっと腕を動かす。全てを見終え、伝えたいことを訳すと。
「倒した魔物からその鉱物が取れるって言いたいのかな? そして、それを魔物が食べると強くなると。こういうこと?」
「ギイ!」
こくりとゴブリンアンデットは頷く。
「そのようなことは魔物の剝ぎ取る部分を載せた冊子にも書いてなかったと思いますが」
「まあ、取って置いてくれたってことは何か意味があるんだろうし一度リリィさんにでも見せれば分かるでしょ。
よくこんなに集められたね。すごいじゃん。アンデットになったら眠らなくていいの?」
「ギイ」
一度死んで死霊魔法を使われた者は生きていたことにしていた整理行動をしなくてもいいようだった。そして、もう一つ確かめてみる。
「私があなたのボスだっていうのは分かってる?」
「ギイ」
その質問にもこくりとゴブリンアンデットは頷く。使役者への主従意識も死霊魔法では生まれるらしい。そして、少し他のゴブリンとの戦闘で傷ついていた体に回復魔法を掛けてやり、パラメーターを見る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前 なし
種族 ゴブリンアンデット
称号 なし
LV 8
HP 37
MP 12
《スキル》
黒魔法 LV 1
短剣術 LV 2
《固有スキル》
なし
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゴブリンを倒したお陰でゴブリンアンデットのレベルが上がっている。それを確認して次の指示を出す。
「じゃあ、今から夕方まではゴブリンとの戦闘をしてあなたのレベルを上げることにしよう。その後は朝まで薬草採取をお願い。あと、倒した魔物からあの鉱物を取ったらいくつかは食べていいよ。あなたにどんな変化があるのか見てみたいの。いい?」
「ギイ!」
ゴブリンアンデットは頷いて返事をする。そのゴブリンアンデットの持っていたナイフが少し刃こぼれしているのを見て、新しい武器でも明日渡してあげようと思った。その代わりに、今持っているナイフへ武器硬化の付与魔法を掛けてあげた。
「初めて付与魔法を使ったからどのくらい効果があるか分からないけど、しばらくは刃こぼれもそんなにしない筈だから」
「ギギィ!」
そのナイフを受け取ってまたゴブリンアンデットは森の中へと消えて行った。
「じゃあ、私達は薬草採取のクエストはこれで省けるから、夕方まで沢山魔物を狩ろうか。ソルジャーゴブリンのクエストも新しく受けて来たし」
薬草採取をゴブリンアンデットに任せることにして、二人はゴブリンの一つ上とされているソルジャーゴブリンのクエストを受けて来ていた。そろそろゴブリンから得られる経験値が少なくなり、二人とも、あと一歩でレベル30になるのに届かなかった。そのため、少し強いソルジャーゴブリンを狩ることにしたのだ。
場所はゴブリンが居る所とは違い、岩場の近くや洞窟の中にいるので、少し森の奥に入ってソルジャーゴブリンを狩ることにした。
その後ろをついて行く何者かの姿があった。
次は2日後の3月28日です。