第11話
また短めです。
ゴブリンソルジャーとはゴブリンより少し強い魔物だ。緑色をしたゴブリンとは違い青色で、形は違えど剣を持っているのが特徴で、ほとんどの剣は冒険者から奪ったものとされている。
トールの森でゴブリンソルジャーが出る場所と言えば国境をまたぐコレイラ山に生息している。コレイラ山は石でほとんどを構成しており、ゴブリンソルジャーが好む環境が整っている。いくつか洞窟が発見されているコレイラ山は、いい鉱石が取れると数年前に有名になったが、今は取りつくされて洞窟にいるのは魔物ばかりだという。
二人がそのコレイラ山の近くに来るとジェリダはピタリと足を止めた。
「ねえ、出て来たら? いい加減しつこいよ」
「え」
ジェリダはここに来るまでの途中、何者かが着いて来ているのを索敵で感じ取っていた。最初はただ同じ方向に行くだけかと思ったが、一定の距離を保って着いて来るので怪しいと感じた。
「ねえ、出て来なよ」
再度呼びかける。すると、大きな木の陰からその人物は姿を現した。
「何だよつまんねぇなぁ。俺の気配に気づくなんてやるじゃねーか、嬢ちゃんよ」
そこから現れたのは今朝ルミルに沈められていたブレイブだった。
「何だ、あんただけか」
「何だとは失礼だな!」
「で、何のような訳? ルミルさんに手を出すなって言われてたでしょ。手出すんならルミルさんに言いつけるから。何なら昨日のことも正直にルミルさんに言ってあげてもいいけど?」
「お、俺はあいつに何されようが怖くなんかねー!」
必死に取り繕っているが共同不審な所を見ると本当にルミルが怖いようだった。ジェリダはこの脅しはこれからも使えるぞと心の中でほくそ笑む。
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。俺がお前たちにゴブリンソルジャーのよく集まる場所を教えてやろうと思ってな」
急に偉そうな態度を取るブレイブに、ジェリダもルベルも疑わし気な目を向ける。
「そんなことを言って、だまそうとしてるんじゃないでしょうね」
「ちっとは信用しろよ!」
「昨日あんなことされてはい、そうですかって信用する奴はいないと思いますが?」
少しキレ気味のルベル。昨日のことを深く根に持っているようだ。だが、そんな言葉どこ吹く風かいいからいいからと言ってさっさと歩いて行く。二人は一度顔を見合わせるとついて行くことにした。ブレイブという男が昨日のことを根に持っているとも思えないうえ、嘘を吐いてからだまし討ちにするような質には見えない。そう言った所を信頼してついて行く。
だが、このブレイブがいる方がジェリダにも都合がいいなと思った部分もあったのだ。
『何だ、あんただけか《・・・・・・》』その言葉は他にも誰かいるような言葉だった。しかも、その残りの気配の方がジェリダにとっては脅威に感じられた。本人は隠しているのだろうが、ほんの僅かに殺気のようなものが感じられたのだ。
それはAランク冒険者のブレイブが感じ取れない筈がない。だからこそ、自分も着いていく形で共にコレイラ山に向かったのだ。そして、そのもう一つの気配は木に化けていた。
三人が消えたのを確認し、擬態を解く。その木には大きなムカデの昆虫が木の色に擬態していたのだ。カサカサと多くの足を動かして向かった方角を大ムカデは見つめる。その目は赤く光り、ある男に同じ光景を見せていた。
『あれはただの子供ではないかもしれませんねぇ。ウフフフフ、これは久々に殺りがいがあるかもですねぇ。いいですねぇ』
トールの森から離れた場所で眼鏡の男、ドロテオはにやにやと気味の悪い顔になる。今はマスクを外し、白衣を黒くしたような物を羽織っている。
『今日は様子見ですから帰っておいで、僕のエンティリオちゃん』
大ムカデにそう言うと視界の継続を絶つ。主人から指示を貰った大ムカデエンティリオは森の中へと消えて行った。
ブレイブの向かった先へついて行くと本当にソルジャーゴブリンの住処があった。もう使われなくなった洞窟内にソルジャーゴブリンがいるのが分かった。入り口には門番のように二匹のソルジャーゴブリンが立っている。
「ほら、行ってこい」
「あんたは行かないの?」
「俺が行ったら一瞬で片付けちまってお前らの分がなくなるからな。それに、俺はこのレベルのモンスターじゃもう経験値なんて貰っても全然レベルアップの足しにならないんでね」
「あっそ」
自慢するような口ぶりのブレイブにそっけなく返し、ソルジャーゴブリンたちへ向かって行く。
「グキ? ギギギ!」
「グギャ!」
まずは二体、近くにいたソルジャーゴブリンを倒す。すると、何事かと中にいたソルジャーゴブリンがわらわらと出てくる。その数三十体ほど。
「私のことは気にしなくていいから、存分に倒していいよ」
「はい!」
ルベルはソルジャーゴブリンの中へと突っ込んで行く。ソルジャーゴブリンもわっと一斉にかかってくる。半分ほどがルベルへと向かい、残りは後ろのジェリダへと向かって来る。
「私たちの糧になりなさい」
コツン、と杖で地面を叩く。すると向かって来ていたゴブリンたちを盛り上がった岩で一斉に囲んでしまう。
「グギャギャギャギャ!」
「グギギギィ!」
半円形の石でできた檻に閉じ込められたソルジャーゴブリンは隙間から手を伸ばしたり、武器で檻を壊そうとするが、刃が欠けるだけで檻はビクともしない。
「じゃあ、さようなら」
そう言ってジェリダが地面を杖で今度は二回叩くと檻の形が変化した。檻の四方八方から棘状になった物があちこちから伸びて、檻の中のソルジャーゴブリンを串刺しにする。あちこちを貫かれたソルジャーゴブリンたちは碌な悲鳴も上げることなく絶命した。
それを後ろから見ていたブレイブは口笛を鳴らす。
「中々えげつないことするねーお嬢ちゃん」
「そんなに剥ぎ取る素材に傷が着かないからいいかなと思っただけ」
振り向きもせずにブレイブに答える。そして、ルベルの方もあと数体で終わりそうだった。
「〈モーメントランジ〉!」
剣技を使いこなしながら次々とソルジャーゴブリンを倒していく。かなり剣技に慣れてきたようだった。だが、ルベルの使う剣技の種類がたった二つしかないのを見てブレイブは首を傾げる。
「なんであいつ剣技を二種類しか使わねぇんだ?」
「中途半端な剣術スキルを持ってたせいで、職業選択の時に石板に剣術の知識について省かれたの。だから誰かに教わるか、魔眼で誰かの剣技を見ることでしか剣技を覚えられないの」
「あー、先持ちか。エルフは基本的に親から子へと剣術なんかを教えるって言うしな。その途中で親を亡くして剣技が使えねぇのか」
ブレイブが言った先持ちとは術系のスキルを持つ者に教えて貰ってスキルを覚え、職業選択の際に既に必要なスキルを持っている者のことを指す。そういったものは少なからずいるが、ルベルのようなケースは稀だ。
「ふむ、魔眼で剣技を見たとしても中々いい剣筋になって来たじゃねえか。昨日とは大違いだ」
ブレイブは昨日とは違い、少しは動きの良くなったルベルを褒める。それはブレイブにとって珍しいことと言えた。そうこう言っている内にルベルが戦闘を終えた。一人でも十分に倒すことが出来た。
頬に付いた返り血を拭ってジェリダの近くに来ると、なぜ主人の近くにお前がいるのだと言う目でブレイブを睨む。
「はっ、そんなに睨むなって。もうなんもしねぇよ。お前たちの実力は昨日も今も見たが、冒険者になるには十分の力量を持ってる。この俺が保証してやる。ま、俺見たいなAランク冒険者にはなれないだろうがなあ! はっはっ――ゴフッ」
「ルベル、さっさと素材剥いで今日は帰ろう。そして、さっきの悪口をルミルさんにほうこくしてやろう」
「分かりました」
「ちょ、ちょっと待て! それだけは!」
慌てふためくブレイブに目もくれず、倒したソルジャーゴブリンからサクサクと素材を剝ぎ取る二人だった。
次は3月29日21時に更新です。




