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私、殺戮大好きなサキュバスなの

騎士として育てられた、ルールカはサキュバスとのハーフだった。彼女は自分の心に潜むもう一人の自分と向き合いながら、新たな出会いをへて成長する。

夜明け前の静寂を破り、2つの影が訓練場に行き交う。長さの異なる訓練剣を両手に、少女ルールカは義父ギートルクと向き合っていた。


鍛え抜かれた壮年の男性と、まだ成長途中の少女。その体格差は歴然としており、誰の目にもルールカの不利は明らかだった。


しかし、ルールカの瞳に諦めの色はなかった。むしろ、その奥には燃えるような渇望が宿る。目の前の相手を切り伏せ、超えていくために。


剣を握るたび、柄に伝わる硬質な感触が、胸の奥で微かに熱いものと共鳴するように脈打つのを感じた。それはただの闘志ではない。抗いがたい甘美な衝動 -まるで獲物を見定めた狩人のように、彼女自身の奥底に潜む「何か」が疼くような感覚だった。義父の振り下ろす剣を受け流すたびに、金属が擦れ合う甲高い音が訓練場に響き渡る。電光石火で懐へと潜り込んだ刹那、ルールカの肌をかすめる風が、彼女の内なる熱を一層掻き立てた。その瞳の奥には、普段の冷静さとは異なる獲物を追い詰める純粋な愉悦が宿り、微かに唇を湿らせる仕草は、彼女自身も気づかないうちに内なる本能が顔を覗かせているかのようだった。


この高揚感はただの勝利への渇望ではない。獲物が逃げ惑う姿を追いかけるような、抗いがたい悦びが彼女の内に満ちていく。義父の剣を受け流し、懐に潜り込んだ刹那、ルールカの脳裏には、獲物の喉元に短剣を突き立て、温かい血飛沫が舞い、その命の光が失われる瞬間の甘美な味覚が、鮮烈な幻として想像された。心臓がドクドクと高鳴り、全身の毛穴が歓喜に開くような、背徳的な快感が全身を駆け巡る。それは騎士としての勝利への渇望とは明らかに異なる、純粋で、しかし恐ろしいほどに歪んだ愉悦だった。


私は、一体何を考えている……? これは、私ではない……


自身の内側から湧き上がるその感情に、ルールカは一瞬、剣を握る手が震えるのを感じた。獲物の喉元に短剣を突き立てる想像が、抗いがたい甘美な味覚として脳裏に焼き付いたからではない。むしろ、その甘美さが、騎士として教えられてきた「守るべきもの」という揺るぎない信念と、今感じている「喰らう寸前の狩人」のような、背徳的な衝動との間に、深い亀裂を生じさせたのだ。その乖離は、彼女の心に深い戸惑いと、同時に言いようのない罪悪感を刻み込んだ。微かな恐怖が全身を駆け巡るが、その歪んだ愉悦は、彼女の唇を微かに湿らせ、瞳の奥には、普段の冷静さとは異なる、獲物を追い詰める狩人の鋭い光が宿っていた。この抗いがたい感覚は、まるで毒のように全身を蝕み、彼女の意識の奥底に、抗うことのできない「新たな自分」の存在を刻みつけていくようだった

東の空が白み始め、屋敷の窓から差し込む朝日がギートルクの目を眩ませた。刹那の判断で、ルールカは踏み込んだ。


ルールカは長剣を盾のように受け流し、短剣を獲物の喉元へ忍ばせる、変幻自在の二刀流を操る。体格差を逆手に取った彼女の戦い方は、まるで舞踏のように優雅でありながら、一瞬の隙も許さない狩人の鋭さを秘めている。


敵の懐に飛び込むその刹那、彼女の瞳には、勝利への渇望とは異なる抗いがたい愉悦の光が宿る。


「はっ!」


カウンターの一撃。逆手に持った長い剣が、ギートルクの懐深くを狙う。この距離では、もう一本の剣での迎撃は間に合わない。必殺の一撃。だが、ギートルクは表情一つ変えず、片膝でその攻撃を防いだ。ルールカの目は驚きに見開かれた。


「―――!」


少女の目は驚きに見開かれた。即座に気持ちを切り替えて突きを繰り出すが、それを男は体捌きだけで回避してのける。


それでも攻撃の手を緩めなかったが、間もなく少女の手から訓練剣が手放された。


「まいりました・・・」


剣身を絡めとられ、男の剣が首筋にあてがわれてから、少女はそう口にした。


「チャンスとみて動いたのは良い。が、それゆえに狙いも読める。必殺を狙う前にもう一つ冷静になりなさい。」


ギートルクの言葉は、ルールカの胸に深く刻まれた。彼の教えは常に的確で、ルールカの未熟さを容赦なく指摘するが、そこには揺るぎない信頼と愛情が込められていることを彼女は知っていた。「はい」と素直に返事をするルールカの頭を、ギートルクは優しく撫でた。その大きな手から伝わる温もりは、ルールカにとって何よりも確かな「騎士の道」の証だった。


「陽ざしで紛れさせて左右の剣を入れ替えさせた工夫は特に良かった。」


その温もりに、ルールカは嬉しそうに破顔した。義父の期待に応えたい、その一心で彼女は剣を握り続ける。彼の背中を追いかけることが、彼女にとっての「騎士の矜持」そのものだった。


早朝鍛錬の締めくくりは、反省点を指摘し、良かった点を褒めて終了というのがいつもの流れだったが、今日は朝食にしようと言わずに立ち止まったままだった。


「??どうされましたかお父様」


ぐぅ、と情けない音を立てたお腹に、ルールカは慌てて義父ギートルクに声をかけた。早朝の鍛錬を終えたばかりで、全身の筋肉が心地よい疲労感を訴えている。いつもならすぐに朝食へと促されるはずが、ギートルクは珍しく口を開こうとしなかった。


やがて、重々しく口を開いた義父の言葉は、ルールカの予想を遥かに超えるものだった。


「お前に留学の話が来ている。3か月程度の期間だが」


夜明けの光を宿したかのようなピンクプラチナの髪が、彼女の小柄な身体を包む簡素な騎士服に映える。その髪は、時に激しい剣の動きに合わせて流麗に舞い、時に冷静な思考の証として静かに揺れる。


「留学ですか?お父様。それは一体…?」


「別の国に行って、そこで学ぶことだ。」


「ここから離れて暮らす、ということですか?」


ルールカの心臓が微かに跳ねる。未知への期待と、慣れ親しんだ場所を離れることへの一抹の不安。しかし、その不安よりも新しい世界への好奇心の方が勝っていた。


ギートルクは静かに頷いた。その表情は、いつもの厳しさの中に、どこか複雑な感情を宿しているように見えた。娘の成長を喜ぶ気持ちと、未知の世界へ送り出す不安、そして彼女の内に秘められた「何か」が覚醒することへの予感。様々な感情が彼の胸中を渦巻いていた。


「わかりました。いってきます。」


迷いはなかった。即座に発せられたルールカの答えに、ギートルクの表情が僅かに和らぐ。その変化に、ルールカは胸の奥が温かくなるのを感じた。毅然とした態度で接してくれる義父だが、時折見せるその優しさが、ルールカにとっては嬉しかった。彼女はまだ知らない。この旅が、彼女の運命を大きく変えることになることを。


その日の夜、ギートルクは静かにルールカの寝顔を見つめていた。昼間の鍛錬で垣間見えた、娘の瞳の奥に宿る普段とは異なる「鋭い光」。それは、かつて彼が戦場で見た、獲物を追い詰める獣のそれと酷似していた。「ルールカ……お前は、一体何を見ているのだ?」 彼の胸には、娘の成長への喜びと、理解しがたい変化への微かな不安が交錯していた。


「・・・」


目を閉じて、頭の中に描いた道のりを思い描く。アンチュア邸を出て窓のない馬車に乗り込んだ。その馬車は何度も右へ左へと曲がった。


年齢としては空間認識力に長けているだけに、目的地に向かっているわけではなく、近場でくるくると馬車を走らせているだけだとわかっていた。


結果として1時間ほどどこに向かうか意図が見えない迂回を繰り返して、やっと足に土がついた先は魔法陣が広がる空間だった。


そしてふわっとした感覚とともに先ほどまで見ていた景色とは一変する光景に思わず見とれてしまった。遠くからは鳥のさえずりにも似た、聞き慣れない言語のざわめきが微かに届き、肌を撫でる風は故郷よりも幾分か湿り気を帯び、土と草木の混じったような、しかしどこか甘い匂いが鼻腔をくすぐる。故郷のアンチュア領では、常に整然とした街並みと、規律正しい人々の息遣いが感じられた。しかし、目の前の光景は、色彩豊かで、人々は自由に笑い、話し、まるで生き物そのものが躍動しているかのようだった。その混沌とした活気に、ルールカは本能的な好奇心を覚えると共に、長年培ってきた騎士としての規律が、この場所では意味をなさないのではないかという、微かな不安も感じていた。


道の上には光のドームがかかっている。そう表現するのが正しいかどうかはわからないが、彼女には他に呼び方がなかった。幅にして馬車2台が通れる道幅に、それをまたぐ形で綺麗な色とりどりの小さな光が輝いている。


あるいは夜空に輝く星々の中かもしれない……。夜空を歩けたならきっとこんな光景なのだろうか、とルールカ・アンチュアという少女がはじめて目にした異世界人の世界ほとんど無意識で生じた好奇心が、感嘆とともにその輝きに目を奪われながらドームをくぐり抜けると、その視線の先には大勢の人たちが集まっているのがわかった。耳がとんがったエルフも混じっていて、見たことのない衣服を着た面々がいる。


彼ら彼女らまでの距離を一歩進めたところで、すぅとドームから光が薄れて消えていった。


「・・・あ」


振り返ってみれば、そのドームの光は消え去り、真っ暗な空間だけが取り残されていた。


「なんで?」


光を失ったドームから視線を外すと、そこには先ほど見た人たちが近くにいた。


「わたしのせい?」


と、あいさつでもなく自己紹介でもなく、自分が何らかの責を犯してしまったのだろうかと訝しんだその声に、少女と同年代と思われる白髪の少年がふいに歩み出てきた。彼は満面の笑顔で首を大きく横に振った。


「ううん。違うよ。消したんだよ。」


「・・・?」


少女は首をかしげてみせる


「また見たいってそう思った?」


笑顔をいたずらっぽくして少年が告げると、少女は素直に頷いた。


「飽きるまで見ていくといいよ。」


そう言って彼が元の場所まで戻ると、少年を含む面々から一斉に声が上がった。


「「「異世界の世界へようこそ」」」


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