1.リリデス追放
「おかしくはないよねッ!?」
ギルドマスターの絶叫が響き渡った。
メンバー誰もが同じことを思っていた。私だって思っていた。
ただ一人、除名を言い渡された張本人――リリデスだけが納得していなかった。
度重なる宗教勧誘を行っていた、その本人だけが。
「……お待ち下さい。私にも言い分というものがあります」
毅然。背筋を伸ばし、はっきりと前を見据え、我らがマスターに向かう。
その瞳に穢れなどなく、己が信念を確信するよう澄んでいる。
確固たる眼で、彼女は言葉を続ける。
「……やはりおかしいです。ギルド内での布教行為が規則違反だとでも言うのでしょうか?」
「規則違反だよッ!!」
無論ギルドにも規則がある。
はっきりと特定団体への勧誘に関する条項の記載がある。
規則違反であった。
「……」
「……」
「……お待ち下さい。私にも言い分というものがあります」
「いや規則違反って言ったでしょ!? 規則違反なんだってもう!」
「百歩譲って……布教活動が違反だとしましょう」
「何でキミが譲ってんだ!? 仮に譲るならこっちだろ!!」
「……譲ろうが譲るまいが、信仰の自由は誰にも保障されている権利です。それすら否定されるというのはいかがなものかと……」
「キミの信仰は禁止されてんだよッ!!」
無論国には法令がある。
はっきりと彼女の信奉する邪教――カルラン教に関しての記載がある。
重罪であった。
「……」
「……」
「……お、お待ち下さい。私にも言い分というものが、あ、あります」
「まだ言い分あるの!? なんなんですかもうッ!!」
「……ギっ、ギルド内で布教行為が規則違反だとでも、言うのでしょうか……?」
「規則違……っ……さっき言ったッ!!」
さっき言っていた。
さっき言っているので、これは堂々巡りというものである
つまるところ彼女は煙に巻こうとしている、ギルドマスターも冷静さを失っている、これはよろしくない。
静観していたメンバーも興奮しっぱなしの彼をなだめる。
「わ、分かりました……」
騒ぎを前にとうとう観念したか、静かに席を立ち上がる彼女。
瞳が泳ぐ。確固たる自信、そして亜麻色の髪が揺らいだ。
「みなさんが私の信仰を否定していることは……重々分かりました……。今まで、申し訳……ありませんでした。」
「よ、ようやく分かってくれましたか……ッ! それなら……それならいいんです……それなら……」
「……なんとか納得してもらえるよう、今後も誠心誠意努力致します。明日からもよろしくお願い致します……」
「だから除名ッつっああぁあああああんああ!!!」
追放であった。
明日からのよろしくはなかった。
発狂するマスターを尻目に、擦り切れた修道服をひるがえし去っていくリリデス。
明日から果たしてどうなるのか、見当もつかなかった。