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非聖女召喚  作者: 木こる
3/13

第三聖

「里奈が死んだ?

 あんたさあ…冗談でも言っていい事と悪い事の区別つかないの?

 私の友達を勝手に殺すなよ もう本当につきあってられんわ

 気が向いたら病院行きな 私はもう関わりたくない じゃあね」


十子はそう言い残してその場を立ち去ろうとした。

しかし信徒たちが立ち塞がり、彼らの目には再び敵意が宿っているようだった。

その群衆を掻き分けて前に出てきた総代が口を開いた。


「聖女様に質問するだけしておいて貴様は名乗らないつもりか?

 この無礼者めが……!貴様の素性がわかるまで逃がさんぞ!!」


またこのおっさんかよと思いつつ、十子はある事実に気づいていた。

アリスも総代も日本語が流暢すぎる。少し勉強した程度のレベルじゃない。

ネイティブの発音だ。長年日本に住んでないとそれは成し得ないと思った。


さっき水道を使った時はよくある陶器製の洗面台だったし、

石鹸の袋にも救急箱の中身にも日本語のラベルが貼ってあった。

異世界がどうとか言ってたけど、詰めが甘い。ここは日本だ。

 

やっぱりこれはドッキリで、こいつら全員仕掛け人だ。

どんなトリックかは知らないけど里奈のアレは演技だったんだ。

アリスの傷も偽物なんだ。だから平然としていられるんだ。

でもなんで私なんかがターゲットに選ばれたんだろう。


十子はそう思考しながら次の一手を打った。


「…その前にトイレ行ってもいーっすか?

 実はずっと我慢してるんで漏れそうなんすよ」


自分を騙そうとしている相手に敬意を払う必要はない。

スカートのポケットに手を突っ込みながら言葉を投げ捨てた。



「あはっ…、あはははははは……!

 やっぱそ〜だ!間違いなくドッキリだこれ!

 騙されてやるもんか!…あはははは!」


水洗トイレを前に、十子は一人で爆笑していた。

意味もなくレバーを引き、流れる水にさえ笑ってしまった。

面白くはない。緊張から解放された安心感がもたらした笑いだった。


「さ〜て、カメラはどこだー?

 まさかトイレにはないだろうけど、一応調べておきますかね〜」


棚の中、蓋の裏、ドアの鍵穴などを徹底的に調べるも

隠しカメラらしき物は見つからなかった。

あったら困る。モザイクかけりゃいいってもんじゃない。

編集の人に見られる。そもそも放送するのかこれ。

十子はそんな事を考えていた。



身も心もすっきりした十子は祭壇に戻り、彼らの企みにつきあってやる事にした。

バイトを休んでどうせ暇だし、設定に矛盾があったら指摘してやるつもりだった。

セットは安っぽくないし、エキストラまで雇ってかなり手が込んでいる。

おそらく企画者であろう里奈がどんなシナリオを書いたのかが気になる。


「…私は十子 (どうせフルネーム知ってるだろうし苗字はいいや)

 ただの女子高生です (をターゲットにして何がしたいんだろう)

 気がついたらここにいました (どんな仕掛けだったんだろう?)

 ああ、それと日本人です (多分この情報が一番重要な気がする)」


「フン、そんな事はわかっている 日本語で話しているしな

 貴様は水道の使い方に石鹸、薬のラベルも理解していて

 何より、ガラケーを持っているだろう いつの時代の者だ?」


さっき手を洗わせてくれたりしたのは観察するためだったらしい。

それよりも十子は初めて耳にする単語が気になった。


「がらけー…? (それはマジでわかんない)

 いつの時代ってそりゃ、199X年だけど……

 (里奈め、タイムスリップ要素をぶち込んできたか)」


「まだスマホが登場していない頃か…

 どうやら貴様は時代を超越して召喚されたようだな

 ごくまれにそういう者が現れるという話を聞いた事がある」


また知らない単語が出た。すまほ?

ただ、今重要な情報はそれではない気がした。


「他にも召喚された人がいんの? (なんのために?)」


「……数千年の昔、世界征服を目論んだ魔王がいた

 奴らは異界から取り込んだ魔力で強大な軍隊を作り上げた…

 人間陣営の賢人たちは魔王軍への対抗手段としてその技術を研究した」


唐突に始まる王道ファンタジー設定。

里奈は広げた風呂敷を畳めるのだろうか。


「…その結果、開発されたのが“召喚装置”だ

 それは世界各地に設置され、魔王亡き今も稼働しており

 一定間隔で自動的に異世界の者らを呼び寄せている」


「迷惑な話だなあ 壊せばいいじゃん、そんなもん」


「フン、それが可能ならとっくにそうしている

 自動修復機能があり、壊しても復活してしまう

 あれは呪いだ 我々にはどうすることもできん

 もちろん貴様らの時代の日本人にも無理な話だ」


未来の日本人なら壊せるのだろうか。そんな口振りだ。

ここで時代超越の設定が絡んでくるのだろう。


「ふーん… (里奈、それなりに考えたんだなぁ)

 じゃあ次の質問していい?」


「質問しているのは私の方だ 貴様ではない

 …どうせ聞きたいのは日本語に関することだろう?

 さっきから口の動きを目で追っているものな」


読んでたつもりが読まれてた。

このおっさん結構鋭いなと十子は思った。

そして答え合わせをしてくれそうだ。


「学識のある者ならば、ひらがなとカタカナの読み書きはできる

 更に高い知性の持ち主なら漢字やアルファベットも使いこなせる

 今この場で日本語を理解できる者は聖女様と、貴様と、この私だけだ」


エキストラが喋らなくていい理由も考えてあった。

里奈はここまで設定を練れる子だったっけ?

昔読まされた自作漫画は酷いもんだった……。


「トーコとやら、貴様は儀式に巻き込まれた身だ

 それは申し訳ないと思っている

 しばらくは我々のアジトで生活の面倒を見てやろう

 この世界で生きるために必要な知識を与えよう

 …だがその前に一つ答えて欲しいことがある」


総代はヒゲを撫でながら質問した。


「……貴様の“異能”はなんだ?」

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