陛下との謁見と父の口撃
遅くなり申し訳ございません。大事な場面なので何度も書き直していました。よろしくお願いいたします。
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ーセレナ・フォルン公爵令嬢がマルクス殿下と近く婚約する。
次の日も噂が決定の様に囁かれている。一部の生徒からはマルクスとベルを推す声があり、応援する会が発足され、これではまるでセレナは両想いの2人を邪魔する悪役だ。
ー悪役上等。
親が決めた婚約。貴族として家のために婚約者を決められることはごく普通のこと。
セレナはそれで納得できるが皆噂話が好きだ。特に男女のゴシップはネタにされやすい。
でも気に入らないのは流されている内容だ。
"セレナが無理やり親に頼んだ"
"ベルに別れさせようと嫌がらせをしている"
といったマイナスのことばかり耳にする。普段のセレナを知っている者たちはそんなことをセレナがするはずないと否定にまわってくれている様だが噂は止みそうにない。
セレナを陥れようとする動きにも受け取れる。
親友のミモザから
"あれから姿を現さないベルの嫌がらせなのかもしれない"
と報告を受けたのは次の日だった。
それでも学校に通うのは父の教えに応えたい一心とここまできたらプライドだ。妃にはなりたくないけども文句を言っている奴等に負けたくない。こんなことで挫けたら妃というプレッシャーにすら勝てないだろう。
こんな時だからこそ背筋を伸ばし令嬢として堂々と振る舞わなければ相手の思う壺なんだと自分を鼓舞した。
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陛下との謁見が明日と差し掛かった日、学校帰りに王都の図書館へ本を返却に来ていた。返却が終わると大好きな魔法書の棚に向かった。少しでも気持ちが上向きになれる本がないか探そうと久々に気分が良くなってきた。
「セレナ嬢?また会ったね。」
「クラウド様」
クラウドはテーブルで今日の課題をやっているところの様だ。
「学校でも話しかけたいところなんだが今は異性が話しかけない方がいいだろう。ネタにされかねない。ところで体調は崩してないか?・・・まぁ無理しているか。」
クラウドは話しながら隣の椅子をセレナに勧める。
「私は大丈夫。この前は助けてくれてありがとう。本当に神様だと思ったわ。」
セレナは笑って返すとクラウドは口元を押さえる。
「神様・・・」
「だって何度もタイミングよく助けてくれたんだもの。」
笑ってセレナは礼を言うがクラウドは固まったままだ。
「どうかした?」
「・・・神様は貴女だ。」
「えっ?」
「いや、こっちの話。神様なんて大袈裟だな。私はセレナ嬢の力になりたかっただけだ。本当は今も力になりたいがややこしくさせそうだからね。でもセレナ嬢が望むならいつでも頼ってくれていい。」
「クラウド様・・・」
クラウドは微笑むと鞄に課題を片付け、鞄から白い本をセレナに渡す。
「この本は?」
「私が気に入っている本なんだ。よかったら読んでみてくれないか?あと、今日は早く帰った方がいい。じゃあまた学校で。」
クラウドは鞄を持ち図書館を出て行った。
セレナは1人残された机で今受け取った本の装丁を眺め、捲ってみる。
ーこれ、魔法の記述の本だわ。
クラウドはセレナに魔力がないことは知っているはず。
魔法の本を読むことは決して恥ずかしいことではないが魔力がない者が読むことに少し抵抗があったセレナには少し恥ずかしさがあった。それでもクラウドが渡してくれた本は今まで手にしたことがないものだったので嬉しさが増す。
ーでもこの本は図書館のものじゃないみたい。
本にナンバリングが付いておらず首を傾げる。クラウド個人のものなのかもしれない。次会った時にまたお礼を言って早く返そうとここで読みたい衝動を抑え、早く家路につくのだった。
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屋敷に着くと迎えが出てこないので開かれたままの玄関の扉からエントランスに入るとなんだか騒々しい。なぜか侍女と使用人たちが走り回っていた。
「一体なにがあったの?」
「あっ!セレナお嬢様!おかえりなさいませ。お出迎えできず申し訳ございません!」
「それは気にしないで。マリーは?」
そばにいた侍女に世話役のマリーの居所を聞いたが首を横に振り謝罪される。マリーと話さなければと探すが見当たらないため状況が見えない。
それにしても一体この荷物はなんなのか。大きな箱がたくさん並べられており、誰か長い旅行でも行くのだろうか。
「セレナお嬢様。おかえりなさいませ。」
マリーが屋敷の奥から早足で近づいてくるとセレナはやっと安心できたような気がした。今日も一日中、気が張っていたためだろう。
「マリー、これはどおいうこと?」
「今朝セレナお嬢様が、学校に向かわれてからお嬢様宛に届いたものです。今、旦那様が確認中のため触らずそのままにしておくようにと指示がありました。」
「私宛て?えっ?お父様がもうお帰りに?」
父セブルスは忙しい身の為、夕食の時間にはいつも家族で食事を取るためギリギリに帰ってくるが食後はまた王宮へ向かうことも珍しくない。なのにまだ日が沈まない夕刻に帰っているとは何かあったのだ。
「中身はなんだったの?」
「ここではちょっと、ひとまずお部屋に参りましょう。」
マリーは人の目を気にしてかセレナの自室へと促す。部屋に着くとセレナの着替えを手伝いながら話を続けた。
「中身なのですが宝石など宝飾品のようなのです。」
「えっ?!あの量全て?!」
「はい。私も執事から聞いたのですがこちらに運ばれた馬車も豪華だったようです。馬車の家紋のマークは隠されていたようですがおそらく王族か上級貴族かと。」
ー王族からの贈り物?もしかしてマルクス様から?
マルクスはそんなことしないはずだ。セレナとの婚約を嫌がっている。
「セレナお嬢様、もしかして王宮からということはないでしょうか。先日旦那様が朝食の席でもご婚約のお話をされていましたので。」
執事とマリーのみあの席にいることを許されていたので事情を知っていた。
「それはないと思うわ。マルクス様はそんなことするようなお方ではないもの。お父様から話を聞くまで待つしかないわね。」
待っていると夕食の時間になったので食事を取る部屋へ向かったがセブルスの姿はなかった。急遽王宮に向かったらしい。
セレナはますます不安になり食欲が無くなってしまった。
その日は早く寝ようとベッドに入ったがなかなか寝付けずクラウドから受け取った本を読みながらいつのまにか寝てしまい、朝を迎えるのだった。
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次の日、学校は休み、朝早くから陛下との謁見に臨んだ。
セレナは正装のため普段は着ない白いシルクに金糸の刺繍が施された豪華なドレスを身に纏う。
王宮へは夜中に帰ってきていたセブルスと馬車で向かう。昨日のことは何も話してくれない。セレナから尋ねるのもはばかられ、馬車の中では何も会話をしなかった。
王宮に到着するとセブルスの顔を見た門番がすぐ門を開く。馬車から降りるとどんどん奥まで足を進めた。王宮には何度も来たことはあるが陛下の私室だろうか?今までこんな奥まで入ったことがなかった。
扉の前に着くと警備している護衛騎士が扉を開けてくれた。
「陛下、おはようございます。セブルスです。」
「おぉ、来たか。そこに掛けてくれ。」
部屋は白と青色で統一されており、落ち着いた雰囲気だ。部屋の奥に置かれた大きな机で執務中だったのだろうか?50代と思わしき金髪碧眼の男性、この国ナルシャ王国の国王がこちらにやってきた。
「セレナ嬢、久しいな。」
「陛下、お久しぶりでごさいます。セレナ・フォルンでございます。本日はお時間いただきありがとうございます。」
淑女の礼をすると、
「呼んだのはこちらなのだから畏まらなくていい。さぁ皆座って話そうじゃないか。」
執務机の前に置かれたローテーブルを3人で囲む。ソファに腰掛けてすぐに近くの女官がお茶を出してくれる。
「まだマルクスが来ないか。まぁいい。セレナ嬢としっかり話をしなくてはな。」
「陛下、御言葉ですがマルクス殿下はハードン伯爵令嬢との関係が続いているそうで、いかがされるおつもりでしょうか?うちの娘を蔑ろにするなんてことは・・・」
「そんなことさせるわけにはいかん。セレナ嬢は国の宝だ。直ちに関係を解消する様に命令したはずだ。」
「左様ですか。でも陛下が解消を指示されたことで障害となり、もっと燃えるというものかもしれませんな。」
2人はガハガハと笑い合うがきっと冗談じゃない。真実になりそうだ。それに私のことを国の宝だなんて大袈裟だ。
セブルスは前に置かれた紅茶を口にし、間をあける。
「ところで陛下、ご存知ですか?昨日我が屋敷に大量の贈答品が届きまして、セレナ宛というのはわかったのですが贈り主が不明だったのですよ。」
セレナはヒュッと喉が鳴りそうになった。父が昨日の話をなぜこのタイミングで陛下に話すのか驚く。
「ほぅ。中身は?」
「ダイヤモンドやサファイア、金、プラチナ、ドレスや小物、まぁ宝飾品が入っておりましたよ。贈り主はよっぽどセレナの事を想ってくれているらしい。」
セブルスは隣のセレナの肩を抱く。
「お父様・・・」
「贈り主は殿下?いや、陛下か?」
「素晴らしい読みだ。でも残念だが私でもマルクスでもない。」
「それはこちらも残念ですね。これが殿下なら見直すところでしたよ〜」
ありがとうございました。