いつも通りは疲れます・・・
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クラウドの金色の瞳と指先が光り、指が空中で文字を型取る。すると次の瞬間には文字たちが掌に集まり鳥の形に変わった。
「シンバ・ローム・エルトニアへ」
宛名を唱え、掌へ吐息をかけると手紙と思わしき魔法の鳥は東の空へ消えたのだった。
クラウドはそれらを見送ると何事もなかったかの様にセレナがいる教室へと向かった。
中庭を囲った校舎にはさまざまな学年の生徒の声がして平穏な雰囲気の中、誰も騒がず今の事象には気づいていない。
なぜなら側の従者がクラウドが光ると同時に目眩しの魔法を同時にかけたからだった。
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その頃、セレナは教室の手前まで歩いていると横から誰かに引っ張られ、廊下の隅へ追いやられた。
「セレナ!どおいうことよ!」
「えっ?ミモザ?!」
ダリー侯爵の1人娘であるミモザは社交的でいつもセレナの力になってくれる大切な親友だ。
「教室は大騒ぎよ。えーと、教室というより学校中ね!今までマルクス殿下と一緒だったの?」
さすが親友は遠慮がない。そんな性格のミモザが好きだが今日だけは少し遠慮して欲しい。
「うん・・・。よく知っているわね。」
セレナは作り笑いで返す。
「呑気な事言って、どんな顔して教室に入るの?詳しい話は聞かないでおいてあげるけど、教室にはあのベルが居るのよ。」
ベルはマルクス様といつも寄り添う伯爵令嬢だ。きっと相思相愛なのだろう。私とは残念な事に同じクラスなのだ。いつもは挨拶程度だが今日は何か仕掛けて来るだろうか。
「幾ら身分はセレナが上でもあの子を怒らせると厄介かもしれないわね。お茶会でもあまりいい噂は聞かないもの。」
「心配してくれてありがとう、ミモザ。私はこの通り、大丈夫よ。」
「もう無理しちゃだめよ。何かあれば私が側にいるから安心して。」
ミモザはセレナの手を取り握りしめ、ため息をつく。
「でもほとほりが冷めたら全て話してね。」
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セレナはいつも通りを意識して教室に入ると話題の本人が姿を現した事で騒がしかった教室が一気に静まるがそんなことは気にしない。セレナは堂々と自分の席に着く。
「セ、セレナ嬢、おはようございます!」
隣の席の男子生徒がこの空気を変えようと挨拶をしてくる。
「おはようございます。」
何もない。何もなかったんだと自分に言い聞かせながら鞄から教科書やノートを机の上に並べたところでホームルームの鐘がなる。そこにクラウドが滑り込みで教室に入ってきたので女子生徒はこれまでセレナに視線を向けていたが一気にクラウドに集中して空気が変わった。
ークラウド様は本当に私の救世主だわ。
セレナはクラウドへ感謝と此度のお礼をしなければと思ったのだった。
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今日は一日中注目の的だったこともありいつもにも増して神経を研ぎ澄まして誰にも文句を言われない様に振る舞った。昼食もいつも通りミモザと食堂にも行ったし、放課後もいつも通り1人で学校の図書室へ足を運んだ。ミモザが今日は心配だからと付き合うと申し出てくれたがいつも通りを貫きたい為、丁重に断った。
ーいつも通りがこんなに疲れるとは思わなかったわ。
図書室で借りていた本を返却し今日は新たには借りずに早く帰ろう、何もなくて良かったと安堵しながら正門で待っているだろう馬車へ向かっていたときだった。
「セレナ様、ご機嫌様。」
校舎から出たところで待ち伏せしていたのか横から声をかけられ知っている声に頬が引き攣りそうになる。でもそこはこれまでの練習の賜物である公爵令嬢スマイルを貼り付けて持ち堪えた。
「ベル様、ご機嫌様。今日はまだお帰りではなかったのですね。」
「えぇ。セレナ様と是非お話ししたいことがございましたので。」
ベルは後ろに3人の令嬢を従えてセレナに微笑み首を傾げて見せた。
ーいつも通りが仇になってしまったわ。
セレナは顔色を変えずに独り言ちるのだった。
また明日更新できる様に努めます。