成人の儀
よろしくお願いいたします。
夜会の日 フォルン公爵家
今日は学校も休みで朝から支度をするのに侍女達はてんてこ舞いだ。普段はあまり手入れをしないセレナは朝から侍女総出で頭の先から足の爪の先まで磨かれていた。
「こんなことしなくてもいいと思うわ。皆大変じゃない。」
「私共は毎日セレナお嬢様を磨きたいのを我慢しておりました。いつもお逃げになるから今日だけは!と気合いを入れて準備をしてきたのです。私共の努力を無下にしないでくださいませ。今日の夜会はセレナお嬢様が主役ですよ!」
「逃げてないわよ。私は必要なかっただけでお風呂を嫌う猫みたいに言わないでよ。それに主役は私じゃないからそんな意気込まないで。」
これだからいつも嫌なのだ。世話役マリーが背中にオイルを塗りながら渾々と淑女の嗜みの話を端から端まで続けるので朝からうんざりしていた。
「セレナお嬢様は公爵家のご令嬢なのです。ナルシャ王国の女性の中では王妃殿下の次に位が高いとご自覚くださいませ。今夜セレナお嬢様を是非!と婚約の申し出がくるかもしれませんよ。」
「もう!私のことはいいから!」
夜会に行く前にくたびれそうだ。
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その日の夜 王宮前
「今日のエスコートは俺でよかったのか?」
「どういう意味?時々だけど夜会に行かなきゃいけないときはカインにお願いしてるじゃない。」
「本当は一緒に行きたい奴がいたクセに・・・」
馬車からおりながら兄妹はおしゃべりを続けていた。馬車から降り立った銀色の髪の令嬢を見た衛兵や同じく到着した貴族達が騒ついていた。
「おっ?皆セレナに熱い視線だな。我が妹ながら今夜は一段と美しい。エスコート出来て光栄に思うよ。」
「もう気のせいよ。それに冗談は辞・め・て。早く中に入りましょ?お父様はもう会場?」
今日のセレナは銀色の髪を上に一纏めしており、肩と背中が少し開いた光沢のある白いマーメイドドレスを着ていた。成人の儀を迎える者は白い服がドレスコードなのだ。侍女達に磨かれたセレナはドレスと共にいつも以上に輝いていた。
「今日は仲良しのクラウドは?」
「もうからかわないで。クラウド様なら来ないと前に話してたわ。っというよりもクラウド様と知り合い?なぜ呼び捨てなの?」
「この前偶然学校で会ってな。もう友達みたいなもんだ。」
「ふ〜ん。知らなかったわ。余計なこと言ってない?私の話はしないでね。」
しゃべっていると王宮の大広間に着き、父セブルスの姿がすぐに見つかった。
「お父様はなんだか近づきにくい所にいるわね。」
「あとで声をかければいいさ。今日は娘の晴れ舞台なんだ。楽しみにしてるさ。」
成人を迎えるセレナは会場の前方辺りで待機する。
成人の儀は貴族で18歳を迎える男女に国王自らが祝いを述べる儀式のことだ。毎月その月に18歳の誕生日を迎える者達が集められる。セレナは来週誕生日だ。
成人を迎えると男性は王宮での仕事を与えられはじめ、家督を継ぐ者も現れる。女性も一人前と認められ、家督の手伝いや結婚するものが現れるのだ。
少しすると王族達が入場し始めた。最後に陛下が入ると皆上座に向け礼をする。
「今宵成人を迎えるのは5名か。おめでとう。其方らは国の宝だ。今後も国のために其方らの尽力に期待している。」
名前が呼ばれると男性は白いバラのブーケニアを王妃から祝いの言葉と共に左胸に着けられる。女性は陛下から白いバラを髪飾りとして髪に挿し込まれる。
セレナが最後に名前を呼ばれると陛下の前まで歩む。父セブルスは宰相として陛下の側に着いており、そっと娘を窺っていた。その隣には王子であるマルクスが控えている。マルクスはセレナを見ると口元を押さえて目を逸らした。
「セレナ嬢、おめでとう。」
「陛下、お祝いのお言葉嬉しく思います。」
頭を下げ、バラを一纏めにした髪に添えられた。
「よく似合っている。今夜は一段と妖艶で美しい。其方が私の娘になる日を楽しみにしていたんだがもうその希望は難しいようだ。」
「光栄のお話でしたが申し訳ございません。」
「いや、エルトニアが強硬手段をうってきたからだ。」
「えっ・・・」
側にいたセブルスも咄嗟にセレナに近づき話を聞く。
「陛下、そんな話聞いておりませんぞ!」
「ついさっき書簡が届いたからな。まぁ今は皆の前だ。すぐに説明の席を・・・とそんな時間も与えてくれないか。首謀者のお出ましだ。」
振り向くと大広間の入口から1人の青年がこちらに向かって歩いてきていた。
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