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第五十八話 とある商人の繁盛記 遊び人の旦那

「やあ、主人、ここは良い店だとの噂を聞きつけてな。勝手にいろいろ見させてもらっている」


 占い師さんがカウンターから離れたのを見計らって、男が私に声を掛けてきました。


「それはそれは、遠方よりお越しいただいたのでしょうか? ありがたいことです」


「ああ、まあそうだな。 ん? 遠方から来たと何故わかった?」


「ほっほっほ、商人というのは目利きが肝心なのです。それと、情報網もですね。この街にあなたのような御仁が住んでいて、私が知らないということはありえません。それに、服装を見てもわかります」


「ははは、そんなことはないだろう。確かに俺はよそ者だが、ただの遊び人だし、この服はこの町で買ったものだぞ」


「そうですか、私の勘違いでしたかな…」


 いえいえ、ご謙遜を。私の見立てでは、この御仁は間違いなく高貴な身分のお方でしょう。確かにあの服はこの町で買ったのでしょう。一般的な町人が着る服です。しかし、着こなしが全く違うのです。一目で普段はもっと良い仕立ての服を着ているのが分かりました。これは世を忍ぶ仮の姿というところでしょうか。


「しかし、主人の商品に対する目利きは本物らしいな。ざっと店内を見回してみたが、なるほど、良いものが揃っているし、よく手入れもされているようだ。こういう店は商品を見ているだけで楽しくなってくるもんだ」


「ほっほっほ、お褒めにいただき嬉しいのですが、私としましては、何かお買い上げ頂けると尚のこと嬉しいところです」


「ははは、ああ、それはそうだ。冷やかしに来店したつもりはないんでな。欲しいものがあれば、もちろん買っていくよ。日頃から世話になってる者たちに土産を買って帰りたいんだ」


 そう言うと、その御仁はもう一度店内をゆっくり見回してから、


「そうだな…、とりあえず、これとあれと、あとこっちのブレスレットとあとは…」


 遊び人を自称する御仁は、次々と店内の商品を指さしました。恐らく、土産を渡す相手それぞれに合わせて品を選んでいたのでしょう。それらの品々には一貫性がありませんでしたが、いずれも私が良品と鑑定したものばかりでした。


「ところで主人、あの後ろの壁に掛けてある剣だが、あれはなかなかの逸品のようだな。値段もそれなりにするようだが、それに相応しい名剣に違いない」


 遊び人さんは、一通り商品を選んだ後に私の後方を指さしてそう言いました。そこには一振りの大剣が飾ってあり、値札には30000G(ゴールド)と表示してあります。これは私の店で最も高い値のついた剣、遊び人さんの言う通り、値段に相応しい名剣ですので、客寄せも兼ねて店の目立つ場所に飾ってあるのです。


「おお、これは、お目が高いですな。こちらの剣に興味がおありですか? よろしければ、手に取ってみては?」


「あ、いや、俺は剣が得意ではないからな。見るだけで十分だよ。それに、俺の知人の剣士もこの手の剣は好みじゃないしな。興味は湧いて、欲しいとは思ったんだが、今日はやめておこう。名剣ならば、それに相応しい者が持つべきだ」


 まるでこの値段の剣でも気軽に買えるとでもいうような口ぶりです。まあ、そうなのでしょう。遊び人さんが土産にと店内から選んだ品々の合計金額は、すでにこの剣の値段を越えてしまっていますからね。やはりこれは只者ではありませんね。この御仁への興味が尽きません。ここは失礼ながら、その正体を明かさせていただきましょう。「鑑定!」



    種族 : 人間


    職業 : 遊び人


    スキル : カリスマ



 あらら? 本当に遊び人のようです。…ふむ、私の心眼も曇ったものですね。


「主人、代金はこれで十分足りるだろう? 釣りはいらないよ。俺の目を楽しませてくれた礼だと思ってくれ。それに大荷物になったから、後日、連れと一緒に引き取りに来たいんだ。だから、それまで預かっていてほしい。その手間賃も兼ねてってとこだ」


 遊び人さんはそう言って、大金貨をカウンターの上に差し出しました。うーん、大変裕福な御仁であるのは間違いなさそうなのですが、それがただの遊び人とは、世の中よくわからないものですね。


「お買い上げありがとうございます。それではこれらの品々は、後日いらっしゃるまで大切に保管しておきますね」


 遊び人さんがお帰りの様子だったので、私はこう言って見送ることにしました。それにしても、やはり納得がいきませんね。しかし、鑑定結果はあんなだったわけですしねえ。人間、遊び人、カリスマ…。


 ん? カリスマ? やっぱりおかしいです。カリスマというスキルは滅多にお目にかかるものではありません。普通の人間が持ちうるとは思えない強力なレアスキルなのです。もしかしたら、これは偽装魔法を使っているのかもしれませんね。ええ、きっとそうです。たぶん、カリスマという強力なスキルは偽装魔法でも隠し切れなかったに違いありません。


「では主人、また来るよ」


 私が考えている間に、遊び人さんはそう挨拶して店から出ていこうとしています。この時私は思いました。もっと集中して鑑定すれば、この御仁の真の正体を暴けるのではないかと。ものは試しです。もう一度、気合を入れてやってみましょう。「鑑定!!!」



    種族 : 魔族


    職業 : 魔王


    ユニークスキル : 覇王のカリスマ



 ――!?


 ………………は!? 魔王って、あの魔王ですか? いや、さすがにそんなわけが…。うん、きっと見間違いですね。遊び人さんはいつの間にか店の外の雑踏に紛れて見えなくなっていました。その後をまるで追うかのようにして、占い師さんも店から出ていったようです。あの人、まだいたんですね。なんだか顔が上気しているようなのが気になりましたが…。



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