第五十七話 とある商人の繁盛記 不憫な妹
「そうですわ、ご主人、ご恩返しに私が所持する特別なマジックアイテムをお安く提供したいのですが、いかがでしょうか?」
「ほう、特別なマジックアイテムですか? それは興味がありますね」
「よかったですわ。では、そのマジックアイテムをお出ししますわね。これですわ」
占い師さんは、鞄の中から小振りな壺を取り出して、カウンターの上に置きました。
「これは運気を呼び込む幸運の壺というマジックアイテムですわ。この壺のを店先に置いておけば、商売繁盛間違いなしですわよ」
「幸運の壺…ですか?」
私には一見普通の壺のように見えますが、うーん、しかし、マジックアイテムとなると、見た目だけでは判断できませんからねえ…。
「ご主人、この壺は私が所属する『幸福のタロット研究学会』の公式認定マジックアイテムなのですわ。通常の販売価格は10000Gでしてよ」
ええ!? 10000G!? たかっ…。
「ですが、ご主人には特別に一個500Gでお譲りいたしますわ」
「…ほー、そんなにも値下げして貰えるのですか。それはありがたいことですな」
「本当に特別ですわよ。こんなチャンスは滅多にないのですわ」
うーん、商売人としては、この価格の落差には不信を感じますねえ。しかし、占い師さんの善意からなのかもしれません。まあ、こんな時は迷わずこの力を使いましょう。「鑑定!」
名称 : 幸運の壺
買い取り適正価格 : 1G
使用効果 : 粗悪品の壺で、運気はおろか水さえ貯められない。
「…………。」
「あの、ご主人、どうなさいました?」
「…あ、あいにく、うちの店には立派な招き猫がありますので、その、今のところは間に合っております。それに、今はたまたま資金不足でして、仕入れを控えているのですよ。ほっほっほー…」
「あら、そうですか? それは残念ですわね。こんな良い話はなかなかないですのに」
「ええ、ええ、ほんとに残念です」
この人、こんなガラクタをあんな高額で普段は売っているのでしょうか? そんな悪人には見えないのですが…。もしかしたら、占い師さんはこの壺がガラクタとは思っていないのかもしれませんね。
「これではご恩返しができませんわね…。そうですわ、こういうのはどうでしょうか。私が所属する『幸福のタロット研究学会』にご主人も入会されては? もし入会なさるのでしたら、この壺は無償で差し上げますわ」
入会すると、定価10000Gの壺がタダで貰える? 私が怪訝に思っていると、占い師さんはまくし立てるように、こう続けます。
「しかも、なんと今なら入会金が無料で、さらにもう一個、幸運の壺が付いてくるというおまけつきですわ」
「…あ、あの、私は商人ギルドに入っていますので、他の団体に入会するのは控えさせていただきたいかと思います」
なんだか旨い話に聞こえますが、こんな壺を公式認定マジックアイテムにしている団体への入会なんて、絶対ごめんです。
そんなやり取りを占い師さんとしているうちに、一人の男が店に入ってきました。その男は私と占い師さんが話し込んでいるのを確認すると、私に目礼だけして、店の商品を品定めし始めたようでした。私は目の前の占い師さんよりも、その男の方が気になってしまいます。彼からは何か人を惹きつける魅力みたいなものが漂っていたからです。すると占い師さんも職業柄、その男から何か感じるものがあったのでしょうか。いつの間にか、彼女も男に見とれていました。
「…あ、ご主人、私も少し店内の品を見てみたいのですけど、よろしいかしら?」
ついさっきまで、私を熱心に勧誘していた占い師さんですが、急にその気がなくなったようです。あの男性客のおかげで難を逃れたのかもしれません。
「あ、ええ、構いませんよ。ぞうぞ、ご自由に。気になる商品がありましたら、どうぞ声を掛けてください」
「どうぞお構いなく、しばらく自由に見させていただきますわ。おほほほ」
占い師さんはそう言うと、踊り子さんの借りた分のお金を支払い、魔法のタロットを受け取ってから、店の中を物色し始めました。




