第五十六話 とある商人の繁盛記 占いで、だいじなものは売らないで
「何やんね! あのガキんちょ! ぶつかりそうになったやんに、あたいを無視して行ったやんね! 感じ悪いやんね! …あれ? でも、あの顔、どっかで見たような…? いや、気のせいやんね! あんな血色の悪い色白の顔の知り合いなんておらんやんね!」
すれ違いざまの少年の態度が不満だったのか、女性客は何やら文句を言いながら、店に入ってきました。その女性客は、褐色の肌を多く露出した衣装を身にまとった美人でした。派手な衣装ですね。旅芸人か何かでしょう。
「いらっしゃいませ。何かご入用ですか、お嬢さん」
「こんちわ! おっちゃん、実は買い取ってもらいたいものがあるやんね」
「買い取りですか? 承りました。して、どんなお品でしょうか?」
「これやんね」
「これは、タロットカードですね…」
女性客が鞄から取り出して見せたのは、銀色の光を放つ金属ケースに入ったタロットカードでした。ケースの中身も確認すると、カード自体もほのかに銀色に光っています。これは、明らかにマジックアイテムですね。
しかし、マジックアイテムとひとえに言いましても、これもピンからキリまであって、値の付けようが難しいものです。私は迷わず、あの力を使うことにしました。「鑑定!」
名称 : 魔法のタロット
買い取り適正価格 : 不明
使用効果 : 占い結果を使用者の思うがままに操れる。
あー、これは、弱りましたね。買い取り適正価格が不明というのは、所謂、「値段がつけられません。それ程の貴重な品です」と、いうものです。私はこの手のアイテムは、買い取らないスタンスを取っています。それというのも、どうやら鑑定スキルを使ってこの結果が出るアイテムというのは、そのやり取りによって所持者の運命を大きく左右しかねないようなのです。私はこの現象を、この世界のシステムがアイテムの所有者が変わることを拒んでいるのだと考えています。
「お嬢さん、残念ながら、このタロットカードは買い取れません。とても貴重なものなので、手放さない方が良いと思いますよ」
私は女性客に買い取りができない旨を伝えました。すると、その女性客は、
「えー!! そんな、困るやんね! もう路銀が尽きてしまったやんね! なんとかならんやんね!」
そう言って、涙ながらに訴えてきました。そう言われましてもねえ…。しかし、美人にこう泣きつかれると、私も弱いですな。
「…そうですか。では、こういうのはどうでしょうか。このタロットカードは買い取りは出来ませんが、質草に預かることは出来ます。これを質草にして、お嬢さんにお金をお貸しいたしましょう。お金に余裕ができたら、貸した分を返しにきてください。その時にこちらもこのタロットカードをお返しします」
「おー! 助かるやんね! おっちゃん、あんたは神様みたいな人やんね! 感謝するやんね!」
女性客は私の提案に乗ってきました。その後、そこそこの金額を質草の対価に受け取ると、女性客はにんまり笑顔で店を出ていきました。うん、美人に感謝されると嬉しいもんですな。
「こんにちは、失礼いたしますわ」
さっきの女性客が帰ってから、しばらくたってからのことでした。次に店にやってきた客を見て、私は驚きました。その客は、前に来た女性客と顔が瓜二つの美人だったからです。一瞬、さっきの女性客が戻ってきたのかと思いましたが、そうではないということには、すぐに気が付きました。着ている服装や雰囲気が別人だったからです。
もしかして、姉妹? これだけそっくりならば、双子なのかもしれません。
「いらっしゃいませ。先ほど、あなたとよく似た方が客としていらっしゃったのですが、もしや血縁者ではありませんか?」
「あ、こちらに来ていたのですわね! 申し遅れましたわ。私は占い師、そして、その私にそっくりな客というのは、私の双子の姉の踊り子ですわ」
「占い師さんに踊り子さん、ですか」
「はい、ところでご主人、姉はここにマジックアイテムを売りにきませんでしたか?」
占い師さんはそう言うと、鬼気迫る勢いでカウンター越しにきょろきょろと視線を運ばせています。「これのことですか」と、私が先ほど質草に預かったタロットカードを取り出すと、「やっぱり」と彼女は声を上げました。
「これですわ! このタロットは私の大切なものなのですが、見当たらないと思ったら案の定ですわ! ご主人、どうかこのタロットカードを私に買い戻させてもらえないでしょうか? 勝手なお願いではございますが…」
「構いませんよ。これは正確には買い取ったわけではなく、質草としてお預かりした品ですので、お貸しした金額を返していただければ、こちらもお返しするつもりでしたし」
「ああ、ありがとうございますわ! 感謝いたしますわ! それにしても、まったく姉には困ったものですわ」
「お姉さんはお金にお困りのようでしたので、良かれと思ってやったことなのですが…、路銀が尽きたと言っていましたよ」
「違うのですわ! 姉はギャンブルの掛け金が切れたので、こんなことをしでかしたに違いないですわ!」
「え!? ギャンブル…ですか?」
「そうなのですわ! 姉はギャンブルのこととなると、見境がなくなってしまうのです。ご主人には本当にご迷惑をおかけしましたわ」
はぁ、あれはギャンブルの掛け金の用立てのためだったのですか。それは困ったお姉さんですなあ。それではこの妹さんも苦労が絶えないことでしょう。私がそんな風に感慨に浸っていると、占い師さんは良いことを思いついたという感じで、私に一つの提案を持ち掛けてきました。




