第五十五話 とある商人の繁盛記 便利なスキル、鑑定さま
私は、少年を見据えて心の中でこう唱えます。「鑑定!」
種族 : 半魔
職業 : 魔剣士
スキル : 呪い耐性
そう、私は鑑定スキルという便利なスキルを生まれ持っています。このスキルは、過去の偉大な伝説の商人たちの多くが所持していただろうと言われているスキルでして、とてもレアなスキルなのです。私が商人の道を志したのは、このスキルを持っていたからというわけです。
さて、少年の鑑定内容ですが、ふむ、人間ではないようですね。ああ、このくらいのことでは驚きませんよ。実は、人間に化けて人間の街に現れる魔族というのは、たまにいるのです。ですが、きっと、私のような鑑定スキル持ちでなければ、気づくことはないので、騒ぎになることはありません。私も商売相手になってくれるのなら、どんな種族でも大切なお客さんです。魔族には上客だっています。
それにしても、魔剣士ですか、初めて見る職業ですね。
――! あ、なるほど、もしかすると…。
「お客さん、アンデッドモンスターは呪い付きの武器を平気で使いますよね」
「ああ、そうだな」
「もしかして、魔族の中にも呪い付きの武器が扱える者がいたりするのでしょうか? お客さんは人間だから、呪いの武器なんて使えないとは思うのですが」
「そ、そうだな。魔族の中にも呪いの武器を扱える特殊なヤツがいるとは聞いたことがあるな。オ、オレは人間だから、呪いの武器なんか使えんが」
「そうですか」
これで、合点がいきました。おそらく、魔剣士という職業は呪いの武器が扱えるのでしょう。つまり、この少年は呪いの剣を欲しているということです。これは面白いことを知りました。儲けの匂いがしますね。ほっほっほ。
「そうですねえ、呪いの武器を扱える魔族がいるのなら、呪いの武器を仕入れてみましょうかなあ…。まあ、魔族がこの店に足を運ぶとは思いませんので、単なる道楽になってしまいますが…」
「お! そうか! あ、…いいんじゃないか、人生には道楽も必要さ! オ、オレにも呪いの武器なんてほんとは必要ないんだが、その道楽に付き合ってやってもいいぞ!」
私がぼやくように言うと、それに少年が食いついてきました。やっぱり思った通りです。
「そうですか? では、今度さっそく仕入れてくることにいたしましょう。一月後には、何本か揃えてみせますよ」
「そうかそうか! それなら一月後にまた来るとするさっ。楽しみにしてるぞ! あ、いや、何度も言うようだが、オレは人間だから、呪いの武器なんて使えないがな!」
少年はそう言うと、極めて残忍な笑みを浮かべてから、フードを深くかぶり直しました。お帰りのようです。
呪いの武器なんてものは値の付け方が難しいのです。オークションなどで、どこかの貴族が稀に高値で買い落すことがありますが、何に使っているのでしょうね? 想像するに恐ろしいことです。とにかく、呪いの武器の値段はあってないようなものなので、安く仕入れることは可能でしょう。そして、人間のふりをして、人間の街に買い物にくるような魔族というのは、上級魔族です。彼らは、私の店にお金を落としていってくれる上客です。きっと、この少年もその仲間入りとなることでしょう。
少年は踵を返すと、店を早足で出ていきました。戸外への店の出入り口を通り抜けたあたりで、ちょうど店に入ってこようとしていた女性客にぶつかりそうになったようですが、双方、無事だったようです。




