第五十一話 思春期を抹殺した少年の剣(つるぎ) 魔剣さん、ボクのものになーあーれ☆
ワイトさんがボクと魔王様の前に、一振りの大剣を差し出した。
「その名も魂裂き(ソウルスラッシュ)。ここより遥か南方に浮かぶ、呪われた島に出現した魔神の王が持っていたとされる大剣でございます。後に、主を転々とし、最後には黒衣の騎士と呼ばれる名高い大剣使いが愛用していたものでございます」
ワイトさんが差し出した大剣は柄から刃の先まで真っ黒で、見るからに強そうって感じ。うわーっ、なにこれ? チョーかっこいいじゃん! 名前もイカスね!
続けて、ワイトさんが大剣について説明してくれる。
「この大剣の名前の由来は、切りつけた者の魂を引き裂いてしまうからでございます。一太刀でも切りつけられれば、その者は精神を平常に保つことが困難になるのでございます。しかしながら、大剣の使用者に対しても、多大な精神的負担がかかることにございましょうな」
「ふむ、なかなか使えそうな力を持った代物ではないか。どうだ、魔剣士よ。これだけの強大な邪気を放つ魔剣はそうはないだろう。満足いく品ではないか? ただし、お前がこの魔剣の邪気に耐えられればの話だが」
「フッ、望むところだ。オレはこの魔剣を自分のものにしてみせるさっ」
と、とりあえずかっこよく言葉を返して・・・、わー、うん、すごい魔剣だ。あ、ごめんワイトさん、気が付いたらワイトさんから魔剣を奪い取ってたよ。うーん、なんだろう? これって、魔剣に魅了されてるってことなのかなあ? まあいいや、とにかく集中集中! 魔剣さん魔剣さん、ボクのものになーあーれ!
おっと、すごい邪気だ。魔剣さん、やるねえ。でも、ボクも負けないよ。ボクはもっと強くなりたいんだ。そしたら、憧れのあの人にも近づける筈。…うーん! ちちんぷいぷい痛いの痛いの飛んでけー!
ボクが心の中でおまじないを叫ぶと、すぐに体が楽になった。ボクが怪我をした時に姉ちゃんがよくやってくれたおまじないなんだ。うん、やっぱりこのおまじないは良く効くね。
「ほう、なかなかやりますな。魔剣の邪気に耐えきったようでございます」
「そのようだな。どうだ魔剣士よ、その大剣は気に入ったか?」
ボクは、大剣を握り、その剣先をまじまじと眺めた。やったー、こんなかっこいい大剣が自分のものになるなんて。…あ、魔王様になんて答えよう。うーん、こんな感じかな。
「ああ、こいつはいいな。魔剣の邪気がオレの力をも増幅させている」
ボクはそう言うと、つい嬉しくって、顔に満面の笑みを浮かべちゃった。こんな笑顔をしちゃ、キャライメージ変わっちゃうかな? いや、そんなことないよね。わかってるんだ。普段、表情を変えないように心がけているから、たまに笑うと頬が引きつってるのが自分でもわかるんだよ。たぶん、よっぽど変な顔をしてるんだろうね。だって、魔王様なんか、呆れ顔でボクのことを見てるんだもの。
うーん、でもこの魔剣、見た目はかっこいいんだけど、邪気を抑え込むのは思ったより楽だったなあ。これなら、もっと強い魔剣でも平気そうだなー。…うん、魔王様に他の魔剣もおねだりしてみよーっと。
「…だが、まだ物足りん。もっと強いのがあるのだろ? そいつもさっさとよこせ!」
「ああ、一本では満足しないか? まあ、そんなことだろうとは思ったよ。ワイトよ、次のを用意してくれ」
「御意にございます。次なる魔剣はこの刺突剣でございます」
ワイトさんはボクたちの前に一本の刺突剣を差し出した。うわあ、キレイな剣だなー。さっきの大剣とは全く違うタイプだけど、これもかっこいいぞ! うん、この剣も欲しい!
「これは誘惑魔の刺突剣と名づけられた魔剣でございます。どうでございますか、魔王様。なんとも美しい刺突剣でございましょう」
「いや、確かに美しい意匠ではあるが、まるで儀礼用の剣だな。こんなのが魔剣だとは信じがたいが」
その後も、魔王様とワイトさんは剣について話していたみたいだけれど、ボクはその綺麗な剣に見とれてしまって、それが耳には入っていなかった。途中、サキュバスさんの名前が出てきて、そういや今日はあの人見ないなあと思ったくらいで、只々、剣に見とれていたんだ。そして、気づけばまた、ワイトさんから剣を奪い取っていた。あちゃー、またやっちゃったよ。
「おや、私の説明をしっかり聞いてからの方が良いと思うのでございますが…」
ワイトさんからそう言われて、なんて答えたっけ? よく覚えてないなあ。というのも、その刺突剣の柄を握りしめた瞬間、ボクは幻惑に囚われてしまったから…。




