第五十話 思春期を抹殺した少年の剣(つるぎ) 魔王様ごめんなさい☆
お話は、この章の冒頭に時が戻ります。
「おい、魔王! オレにもっと強い魔剣をよこせ!」
あーあ、また魔王様に失礼な態度とっちゃってるよ。自分でも嫌になるんだけどなあ。
あ、ボク、魔剣士。元は人間なんだけど、今は魔族やってまーす。
えっとさ、ほんとはこんな強気キャラじゃないんだよねー。僕が強気キャラを演じるようになったのは事情があるんだよ。
「魔王様になんという無礼な態度を! 魔王様、失礼ながら、やはり私はこの者を魔王軍に引き入れたことは間違いだったのではないかと」
「まあ、そう言わんでくれ、ワイトよ」
あーあー…、ワイトさんに叱られちゃったよ。魔王様もちょっと困ってるみたいだ。でも、もう今更、「実はボク、こんなキャラじゃなかったんですー」なーんて、恥ずかしくって言えないじゃん? だから、ボクは決めたんだ。今までと同様の魔剣士キャラを演じ続けることに。
それにしても、この距離じゃ魔王様のお顔がよく見えないな。ボク、目が悪いみたいなんだよね。だから、こうして眉間に皺を寄せて細目にしないと、遠くのものが良く見えないんだ。
「魔剣士よ、以前、与えた魔剣では不満か」
ボクが魔王様の端正なお顔をもっとよく拝ませてもらおうと、必死に目を細めて凝らしていると、魔王様から声をかけられた。ボクが今腰に差している剣は、魔王様から頂いたものだ。これはこれで、とてもありがたいものなのだけれど、ボクはもっと強くなりたい。だから、僕はこう答える。
「ああ、もうこの剣では物足りない。だから、もっと強いのをよこせと言っている」
「しかしな、魔剣士よ。強い魔剣にはより強い呪いがかかっているものだ。お前の精神と身体への負担も増すことになるのだぞ、それはわかっているよな?」
そうなんだよね。今使っている魔剣を手にした時もかなりの苦痛を受けたんだ。でも、ボクも魔剣士として成長したと思ってる。なので、今なら、もっともっと強い魔剣も扱える気がするんだ。
「そんなことは、承知の上だ。オレはどんな呪いにも打ち勝ってみせる」
「そうか、ならばいいだろう。お前のために、いくつか見繕ってある。己の力を試してみるがいい」
「魔王様、この者は元人間でございます。魔剣の影響で、今は我らの眷属となりつつありますが、あまり強大な力を与えるのは、時期尚早なのではございませぬか?」
ワイトさんが、魔王様に忠告している。わかってるんだ。ワイトさんは魔王様のことを本当に大切に思ってるんで、こんなことを言うんだよ。ボクのことがそんなに嫌いってわけじゃないと思うんだよね。
そうだ。そろそろ、どうしてボクがこんな強気キャラを演じることになったのかを話しておこうか。まあ、結構単純な話なんだ。要は魔物たちになめられたくなかったってこと。ボクって、元は人間じゃん? 魔王様にここに連れてこられた時は、そりゃ魔物が怖かったさ。だから、なめられないように強気なふりをしてたってわけ。でも、案外いい人たちばっかりでさあ、驚いちゃった。
ボクがぶっきらぼうな態度を取ってても怒られることがないんだ。ドラゴンさんなんかは、「ガハハハッ、男の子はそれぐらい威勢があった方がいい」 とかって、褒めてくれるくらいなんだよ。ボクはここの住人たちに、甘えきってるのかもしれないね。
「いいんだ、ワイトよ。俺は魔剣士を信頼している。こいつの人間への憎しみは本物だ。その憎しみの炎が魔剣士となる才を与えたのだと俺は感じるんだ」
うん、ボクは、ボクと姉ちゃんを引き離した人間の大人たちを憎んだ。その憎しみの心が魔剣を扱える才能を僕に与えたのかもしれない。でも、もう昔の話。今はただ単純に強くなりたいって思ってるんだ。そして、ボクを救ってくれた魔王様のお役に立ちたいってね。
「左様でございますか、でありましたら、魔王様の仰せの通りに魔剣を用意して参りましたので、この者のお手並み拝見といたしましょうか。しかし、魔王様、油断なさりますな。この者が魔剣の呪いに取り込まれるやもしれませぬ」
「ああ、わかっている。その時は、俺が直々に引導を渡してやろう。魔剣士もそれくらいの覚悟はあっての要望だろうからな」
「当たり前だ! オレはこれ以上強くなれないなら、死んだ方がマシだ!」
いや、言い過ぎ、言い過ぎ、ほんとは死にたくないでーす。
あ、こんな生き方していると、自分で言って自分でツッコミを入れる(心の中で)というのが日常化しちゃって、だんだん人格が破綻してきているような気がするんだ。まあ、魔剣の精神に与える影響ってのもあるのかも?
人格っていえばさ、ボクのたった一人の肉親である姉ちゃんも変わってるんだよね。まだ幼いころに離れ離れになっちゃったんで、うろ覚えなとこはあるんだけど、姉ちゃんは日によって態度や雰囲気がガラっと変わっちゃうんだ。その頃はただ不思議に思ってたんだけど、最近わかったよ。あれは二重人格って言うんだって。
「それでは、まずはこの剣でございますかな」




